「非常宣言」(2021)
作品概要
- 監督:ハン・ジェリム
- 脚本:ハン・ジェリム
- 製作:ハン・ジェリム
- 製作総指揮:キム・ドゥス
- 音楽:イ・ビョンウ チョン・ジフン
- 編集:ハン・ジェリム
- 撮影:イ・モゲ パク・ジョンチョル
- 出演:イ・ビョンホン、ソン・ガンホ、 イム・シワン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル 他
「ザ・キング」のハン・ジェリム監督が、飛行機内で起きたバイオテロに立ち向かう元副操縦士と、飛行機の着陸のために奔走する刑事を描くパニック映画。
出演は「パラサイト 半地下の家族」などのソン・ガンホ、「悪魔を見た」などのイ・ビョンホン、そして「藁にもすがる獣たち」のチョン・ドヨン。
また今回テロを引き起こす犯人役を「名もなき野良犬の輪舞」のイム・シワンが演じています。
今作はカンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に正式出品されました。
ソン・ガンホ×イ・ビョンホンということでキャストに惹かれて楽しみにしていた作品です。
公開はお正月明けの週末で、3連休もあってか結構混んでいました。
〜あらすじ〜
韓国からハワイ行きの航空機にテロ攻撃の予告が流れた。
動画予告ははじめはイタズラのものと考えられたが、通報を受けたイノ刑事は容疑者とされる男の自宅を調べ、そこで遺体を発見する。
殴打の跡はあったものの、死因は毒死。何らかの細菌に感染して死んだのだった。
病原菌の研究者であった容疑者リュ・ジンソクは、自らその細菌を持ち飛行機に搭乗していた。
その飛行機には、かつてパイロットであったジェヒョクが娘と乗り合わせていたが、空港でも絡んできたジンソクが同じ飛行機に乗っているのを見ると警戒した。
そしてジンソクはトイレに籠もって何かをしたあと、外で待っていたジェヒョクの娘にこう言った。
「この飛行機の乗員・乗客はみんな死ぬ。」
感想/レビュー
飛行機という密室を舞台にした映画作品というのはさまざまにあります。
ジョディ・フォスター主演で「バルカン超特急」の飛行機版「フライト・プラン」。またリーアム・ニーソン主演の「フライト・ゲーム」。
韓国映画ではパク・ソンウンが出ていた「ノンストップ」なんかもありますね。
別に飛行機テロとか密室劇自体が特殊ではないものの、今作が何よりも興味深いのは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後に公開されたこと。
それによって実生活と現実の視点や経験を持って、作中の人々のドラマを見つめることができる点です。
機内と機外両方におけるドラマ
今作は飛行機を舞台にしたパニック映画ですが、機内でのスリリングなドラマやアクションにとどまらず、そのバイオテロというスパイスによって、機外におけるドラマにも大きなうねりを加えています。
機内を担当していくのは「悪魔を見た」などのイ・ビョンホン。
さながら居合わせたジョン・マクレーンでありつつ、過去のトラウマを抱えているアルとも見える彼は、娘を守る父として機内で奔走する。
彼の視点で見ていくのは、彼自身の過去の判断における後悔と、機内で行われる判断です。
機内は密室でありそこは一つの集団に形成されます。
ウイルス感染という暴力が起きたとき、逃げ場がないゆえに起きるのは隔離ですね。
前方と後方にて隔離が始まり、一人騒がしいおじさんがいました。おそらく、コロナ前であればなんとも自己中だと思ったかもしれません。
パンデミックをリアルにとらえる
しかし、新型コロナを経験した私たちはそう言えないのかもしれません。
ああいった人を実際に見たこともあるかもしれませんし、やはり感染症の恐ろしさを知っている今、彼をただ悪役とは呼べませんね。
実際この作品企画はコロナパンデミックよりも前に決定されていたようです。
2019年にはGOが出て、2020年に撮影、まさにコロナによって撮影が中断するなど、パンデミック下に作られた作品なのです。
機外がさらに顕著です。
ウイルスとその感染者を運んでいる航空機を、どこに着陸させるのか。
単純にテロが起きただけでなく、バイオテロだからこその判断とドラマが生まれます。
粗のない作品というわけではありません。
犯人の関係者との追いかけッコにカーチェイスなどの流れは、なくてもそのまま進行できますし。余分なところもあります。
航空自衛隊によるオラつきもスリリングさを重視してでしょう。
いくらなんでも民間機相手に実弾での威嚇射撃は強すぎると思いますし。
エンタメのためにあるようなシーンも結構ありますが、回転する機内での人が転げ回るようなカットも含めて気合が入っているので良いでしょうか。
時間の経過とかがすこし掴みづらいですが、着陸をめぐって分断されていく国というのもまた、コロナを経ている私たちには痛いくらい響いてくる描写でしょう。
純粋にエンタメとして磨かれた作品
いろいろな背景を感じつつも、やはり楽しむべき映画。
最終幕に至っては二転三転と展開していくので、まさにスリリングなエンタメを貫きます。
家族それぞれへのビデオメッセージは、小さくなっていく彼らの画面と合わせて感情を揺さぶられました。
お正月1発目の作品として、大きな舞台と小さな部隊を使い分け、政治に家族に過去の因縁まで盛り込んだ満足型の作品でした。
というところで感想は以上です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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