「トムとジェリー」(2021)
- 監督:ティム・ストーリー
- 脚本:ケビン・コステロ
- 原作:『トムとジェリー』 ウィリアム・ハンナ、ジョセフ・バーベラ
- 製作:クリス・デファリア
- 製作総指揮:ティム・ストーリー
- 音楽:クリストファー・レナーツ
- 撮影:アラン・スチュワート
- 編集:ピーター・S・エリオット
- 出演:クロエ・グレース・モレッツ、マイケル・ペーニャ、ケン・チョン、ロブ・ディレイニー、パッシー・フェラン、ボビー・カナベイル、リル・レル・ハウリー 他
「ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]」などのティム・ストーリー監督が、あの世界的に有名なネコとネズミのケンカアニメーションシリーズ「トムとジェリー」を実写映画化した作品。
いつもおなじみのトムとジェリーが出てくる世界に、「ミスエデュケーション」などのクロエ・グレース・モレッツ、「アントマン」シリーズのマイケル・ペーニャらが出演しています。
TVシリーズとして人類の遺産レベルに有名なカートゥーンシリーズですが、長編映画自体は実は1993年に「トムとジェリーの大冒険」というものが製作されています。
しかし実写パートとアニメーションパートが融合しての長編映画としては、史上初となり、そもそもは1940年代に開始したアニメとしては非常に長い歴史の先についに実査y世界に登場したというわけです。
オリジナルのクリエイターであるウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラどちらも亡くなっている中で初めての長編映画となります。
私個人としてはこのネコとネズミのアニメをすごく追いかけているわけではありません。
ただ特に初期のころのクラシックの映像は何度も見ていましたし、そのサイレントムービーといってもいいユニバーサルな間口の広さとコメディと音楽の流れるような融合は大好きです。
実写映画と聞いて必要性自体は感じませんでしたが、せっかくスクリーンに登場するこの機会に観たいと思い鑑賞。
「ミナリ」と同時公開でしたが1週遅れての鑑賞になりました。
字幕版を観たのですが結構混んでいて、年齢層も若かったですね。親子だったり友人グループで来ているようでした。
アメリカNYC。
ネコのトムは、キーボードの演奏をセントラルパークで披露してひと稼ぎするつもりでいた。
一方マンハッタンに物件を探していたネズミのジェリーは、そんなトムをみかけ、からかい始めた。
二人は案の定追いかけっこを始めてしまい、その途中でトムはケイラというバイトの女の子とぶつかってしまう。
ケイラは客から預かっていたものをバラまいてしまったことで叱られ、自分から仕事を辞める。
その後、タダ飯狙いで行ったロイヤル・ゲート・ホテルで面接に来ていた女性をうまくだまし、代わりに彼女の履歴書を使って非常勤スタッフ面接へ挑み、なんとか雇ってもらうことに成功した。
しかし、ジェリーもまたホテルを新たな住処として狙っており、またジェリーを狙うトムもホテルへやってきた。
作品としてはまあ楽しくなくはないですが…という感じ。
正直言って厳しいところでしょう。
実写パートを含んでの展開となったことで、必然的にはトムとジェリーのアニメーションだけでは押せません。
そのアニメーションでオスカーを狙うようなものではないということです。
トムとジェリーの追いかけっこを大きなスクリーンで観たいということ、とんでもないひどい目にトムが合う様や、ずるがしこいジェリーの企みとキュートさが目当てであれば、それらのシーンでは満足できると思います。
しかしそうなると、実写パートは単に邪魔になってしまうんですよね。
単純にトムとジェリーがどんな作品であるかという点で、ジレンマに陥っている作品に思います。
シリーズはスラップスティックコメディです。
現実にはあり得ない、というか現実にしてしまうと凄惨なアクションを笑いにするものです。
トムが雷に打たれたり、ものすごい重いものの下敷きになったり、または細切れスライスされてしまったり。
これらはアニメーションにおいてのみ笑いとして成立するもので、もし仮に今作がトムとジェリー両方を実写にしていれば、R使丁待ったなしのスプラッタムービーです。
なのでまずアニメーションのトムとジェリーを実写世界に融合する点は正解だったと思います。
しかし、やはり現実の世界があることで、因果、行動と結果を意識してしまうのは当然です。
なるべく人間たちは傷つかず、モノだけがめちゃくちゃになること、また物質的な困難さを意識させないようにしている作りのおかげで、この点もまあ軽減はされています。
ただ一番個人的に残念でならなかったのは、サイレント、ユニバーサルな点でのコメディとストーリー自体が相乗効果を持っていない点です。
実写パートのリードとしてクロエ・グレース・モレッツ、またマイケル・ペーニャが頑張っています。
二人の存在感はさすがですし、コメディも良いですが、プロットを進行していく台詞回しはこうした人間たちが喋るしかありません。
トムとジェリーは追いかけっこという非常にシンプルな構造のなかに創造性を入れ込んでいるわけで、その外側にある展開は彼らのものではない。
で、あるならば。ここには鏡像関係や呼応があると良いなと感じてしまいます。
トムとジェリーは闘争でありながらも仲良しである点。
新婦の一言である「ケンカのしかたも忘れてしまった」にはかなりの可能性があった気がしますが、そこまで活かされず。
プロットが複雑化し、実写パート内での善悪的な構造も入れ込みながらも、そこもあまり消化できておらず。
とりあえず実写の部分についてもトムとジェリーのやりあい並みに足早で軽快なのは救いかもしれません。
アニメと実写の融合についてもメディアクロスとしてのなにか驚きという点もなく、実際のところ実写にアニメを重ねて置いている以外には技術もなく。
やはり正直なところ、実写は邪魔になっています。
それはトムとジェリーのおいかけっこを混ぜ込むと、途端に現実の物体の損壊つまりは行為と結果の深刻さが増してしまうことと、この2匹以外に依存して進む部分が多くなってしまうこと。
スラップスティックの純化されたコメディではなく、それだからこそユニバーサルに通じる部分も少ない。
あと、主人公たるケイラにあまり行為と結果が示されない(ほぼ無罪放免)ところとか、フラットな人物描写などもまた実写パートについて必要性を疑う要因です。
追いかけっこを観るならば、単純にアニメ短編でも見ていればよかったなというのが端的な感想になります。
けっこう酷評にはなりましたが、コンテンツが好きならばスクリーンで見るというところにどれくらいの価値を見出せるか次第では鑑賞を進めます。
今回は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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