「シング・ストリート 未来へのうた」(2016)
- 監督:ジョン・カーニー
- 脚本:ジョン・カーニー
- 原案:ジョン・カーニー、サイモン・カーモディ
- 制作:アンソニー・ブレグマン、マルティナ・ニランド、ジョン・カーニー
- 製作総指揮:ケビン・フレイクス、ラジ・シン、ボブ・ワインスタイン、ハーベイ・ワインスタイン
- 歌曲:ジョン・カーニー、ゲイリー・クラーク
- 音楽監修:ベッキー・ベンサム
- 撮影:ヤーロン・オーバック
- 編集:アンドリュー・マーカス、ジュリアン・ウルリクス
- 美術:アラン・マクドナルド
- 衣装:ティツィアーナ・コルビシエリ
- 出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントン、ジャック・レイナー 他
「はじまりのうた」(2013)などで知られるジョン・カーニー監督最新作。これまたダブリンを舞台にした音楽映画となっていますね。
主演のフェルディア・ウォルシュ=ピーロは演技経験のない、オーディションで選ばれた方のようです。今回は有名俳優ではなく、題材らしくピュアな感覚のキャストですね。
公開からちょっと経っているんですがまだやっていたので鑑賞。リピーターの人が結構いるみたいで、すでにサントラに浸っているのか音楽シーンではノリノリの人が多めにいました。
1980年代、アイルランドのダブリン。
高校生のコナーは、父の失業が原因で、荒れた公立校に転向させられる。両親は喧嘩通し、学校は理不尽な校長やいじめっこで最悪の状態。
それでもコナーには少しの楽しみがある。音楽に詳しい兄と共に見る、海の向こうはイギリス、ロンドンのバンドのミュージックビデオ。
あるとき街で不思議な女の子を見かける。
謎に包まれながら魅力的な彼女の気をひこうと、「バンドのミュージックビデオのモデルをやってくれないか?」と頼んでしまう。
音楽経験なし、アテもなにもないが、コナーは慌ててバンド結成に奔走するのだった。
どんな映画だったかと聞かれれば、愛おしい映画だったと答える。
人物、雰囲気、音楽、映像。どれも愛おしい。何か創造すること、夢を見ること、一瞬でも光り自分が何かになれた、一体化できたというものを素晴らしく切り取って見せていました。
主演陣の良さはいうまでもないでしょうが、十分に感情移入でき、また観ていたいという引きつけも見事です。
複数の要素をかなり盛り込まれている作品ですが、どの要素も観る人の中に存在するものだと思います。
どうにもならない周囲の世界から逃げ出し、どこかここではないところに思いを馳せる。
この感覚がたまらなく個人的に響く。
音楽に関しては(知識という点で)さっぱりな私ですが、間違いなく、このダブリンの少年しかも架空の彼の話を、自分の物語のように感じましたね。
ジョン・カーニー監督の計らいか、今作は一見実録的というかまあコナー少年を追う話故に伝記のようにも感じられます。しかし実際かなり映画的な幻想や楽しさが画面を埋めていると思いましたね。
練習シーンで、メロディがなんとなくできたあたり。友達と二人だけで作曲に励んでいるわけですが、カメラがパンしていくと、そこには他のバンドメンバーが映って。そのままシームレスに出来上がった楽曲の演奏になります。
時間場所視点、空間を一気に飛ぶ映像的な楽しさが観れれば、私はその映画が好きです。
映像と言えば今作内で主人公たちはビデオ撮影をするんですけど、あの若者の創造の可愛らしさがとっても良い。
微妙にダサいし、無理くりだし、余計な要素まである。”The Riddle of the model”のMVとかの最後のアジアン要素とか笑っちゃいますよ。かわいいw
お兄さんから教わる音楽にモロに影響を受けてまんまの曲を作っていくんですよね。ただそれが創造の源泉ですよ。なにかに影響されて、大好きなものの真似をして。
そんでお兄さんのキャラ。これがまた最高に愛すべき兄貴。ジャック・レイナーって「トランスフォーマー:ロストエイジ」(2014)の彼ですよ。今回は印象に残った。
社会的には負け犬というか、まあそりゃダメって言われてしまう人ですけど、兄のおかげでコナーは前に進めるんですよ。
一番耐え苦しみ、それでさらに下の世代を考える。立派な人です。
両親とかいじめっことか、あの最低な校長。それを除いたってどうしようもない自分の環境。
それらが全て最高になるシーンがありますね。素晴らしい”Drive It Like You Stole It”の演奏シーン。
映像的にもその映像の語るところも、今作屈指の名シーンと思います。
ラフィーナの不在含め絶望的な中で歌うコナーの目の前に、こうだったら良いのにが現れる。みんないて、仲良く最高に上がる美しい場面ですが、やはりそうじゃない。
全部コナーの願望であって現実は残酷です。
これが私たちの抱えているものであり、そして「ハッピーサッド」(喜びと悲しみの同一)が聴覚にも視覚にもぶち込まれてくるんですよ。最高!切ない!
言葉が詩に、曲になっていく輝かしさ。それでも絶えず持ち続けているのは認めざるを得ない自分がいる世界。
今作はもうずっと音楽かかりっぱなしですが、心境や状況変化によってまたそれも変わります。
ラフィーナとの出会いでまさに彼女に引っ張り上げてもらったコナー。それによって生まれたのが”Up”でしたが、それが今度はあの学園祭のところで歌われます。
今度はラフィーナをコナーがひっぱりあげてあげる。すごく感動的でした。
みんあで作り上げて、お互いに支え引っ張りあって。そうやってなんとか乗り越える。兄貴が切り開き作ってくれたジェット気流にのって、コナーは外へと出発しますね。
そして最後の最後、もちろん嵐という苦難の予兆は捨てずにいますが、あそこで大型船が来るのが良い。
あれが通って出来る波の分け目。まさに兄貴と同じく先駆者たち。
コナーと同じく夢を見て、イギリスへと渡った人たちを表しているようでした。見事だなぁ。
バンドメンツの掘り下げが甘いとか、音楽自体への愛が疑問とか、気になるところがあるのも否めません。
ですが、青春ないしいつまでも私たちが抱える要素を感じ、自分の物語と言える。それを音楽と映像で見事に届けてくれる傑作でした。お勧めです。
そんなところで感想終わります。では~
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