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「私は決して泣かない」”I Never Cry”(2020)

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Jak najdalej stad film-i-never-cry-2020-movie 映画レビュー
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「私は決して泣かない」(2020)

  • 監督:ピョートル・ドマレフスキ
  • 脚本:ピョートル・ドマレフスキ
  • 製作:ヤン・クフィェチンスキ、ジュリー・ライアン
  • 音楽:ハニャ・ラニ
  • 撮影:ピオトル・ソボチンスキ・Jr.
  • 編集:アグニェシュカ・グリンスカ
  • 出演:ゾフィア・スタフィエイ、キンガ・プレイス、アルカディウシュ・ヤクビク、コスミナ・ストラタン 他

Jak najdalej stad film-i-never-cry-2020-movie

「クリスマスの夜に」のピョートル・ドマレフスキ監督が、父の遺体の送還手続きを行うために一人異国の地で奮闘する少女を描く青春ドラマ。

主演はゾフィア・スタフィエイ。短編1作、長編はこちら入れて2作の出演とまだまだ新人ながら、強い存在感を見せています。

第33回の東京国際映画祭にてユース部門で上映されました。

なんだかんだで毎年ユースの部門は面白い作品が多く、優先的に観るようにしていますが、今作も楽しみにしていた作品の一つになります。

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ポーランドに住むオラは自分の車を持つことが夢で教習所の運転免許試験を受けるが、邪魔が入ったことで落ちてしまう。

免許が取れたら、今はアイルランドに出稼ぎに行っている父が車を買ってくれることになっている。

しかしある日、その父が仕事場の事故で亡くなったとの知らせが入る。

母は勝手がわからず、兄は知的障害を持っているため、オラは一人で父の遺体を引き取りに行くことになった。

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欧州における出稼ぎ、国家間の格差やシステムに対する批判を背景に、一つユニークな青春成長期になっている作品です。

ユース部門での上映ということもあって、飛び出していきたい衝動のある若者が、いろいろな道はあれど外へ進む作品かと思いました。

もちろんそのプロットは組まれていますが、今作は主人公が選択をすることで成長していく物語で、場所を移すことには主題は置かれていません。

脚本は実に巧みに構成されていて、突発的な出来事が繰り返していきながら、先の見えない不安をオラと観客が共有します。

どうなるか読めない楽しさと共に、次々に登場する逆境にめげずに進むオラの気丈さに魅せられ、応援したくなります。

主人公を演じたゾフィア・スタフィエイが本当に良いです。

今作のタイトル通りに彼女は泣かないどころか、次々に降りかかる困難に対して喚き散らすことも表情を大きく変えることもありません。

いつも毅然とした態度と強いまなざしを、目の前の現実に向けていきます。

溜めに溜めていく彼女を観ていると、いつの間にかこっちが彼女に引っ張っていってもらうように感じます。

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多くの障壁は、EUにおける国家間の格差によるもので、そもそも父が出稼ぎにいくのも、EU圏においては比較的物価が安いポーランドの現状とのこと。

劇中でも言われますが、家族を支えるには家を離れて働き、送金する。

しかしこれで解決するよりも、むしろ待っているのは搾取的なシステム。

今作でも、労働者に対して人道より企業側の都合を優先するような姿勢が表れます。

ただここでは授業のように俯瞰してこれらを並べ立てず、オラと一緒に行動し、オラの目線で体感していくことで、理不尽さを実感できます。

そもそもたった17歳で、父の遺体を海外まで確認・移送の手配をしに行く時点で荷が重いのに、邪魔するような不正義が多く降りかかってくるのです。

ホントにバシッと次の行動ができるオラがカッコいい。

オラは本当に行動ベースで、それが芯の強さとしてずっと示されていきます。

はじめの免許試験ではそれがまあ悪い方に出てしまったのですけど。(言い訳はさっさとやめて邪魔して来た男に掴みかかりバンパーぶっ壊す)

ただその後のお家のシーンが最高です。

母とめっちゃ言い合って家を出るのに、ちゃんと戻ってきてゴミ出しをする。

行動で彼女が背負うもの理解していることが分かります。

Jak najdalej stad film-i-never-cry-2020-movie

ポーランドの事情や、EUの中心にいない国の人にとってそのシステムがネガティブに働いている様を、理不尽の中にオラを通して見ていく。

遺体の扱い、故人の扱いというのは、多くの映画で取り扱われますが、人間の尊厳の最後のラインだと思います。

それがどのように扱われているのかを見ると、人道的な問題が見えるものです。

ハッキリ言ってあまりに惨い仕打ち。だからこそそこでのオラの選択がひときわ輝いて見えます。

彼女の目的は車=外への脱出の手段を得ること。オラが目指していた場所は明示されませんが、いずれにしても外がポーランドよりも素敵な場所である保証はありませんでした。

そこで、これまで知ろうとしてこなかった世界と共に、父を知っていく。

父の想いも含めて、彼女が選ぶのは、人から奪ったり取ったりではなく与えることなんです。自分自身の選択としての他者へのやさしさ、思いやりが素晴らしい。

そして成長して戻ったポーランド。ラストシーンは今作渾身の場面です。

父と車。運転から始まって運転で終わる映画ですが、最後にすべてが決壊してあふれ出す。異なる形ではあるけれど、約束がここに。

どこかへの脱出が目的でないことや、気丈でキレのいいアクションを繰り出す主人公、それを演じきったゾフィア・スタフィエイの魅力、すべてが揃った素晴らしい作品でした。

映画祭の中でもかなり気に入った1本です。

一般公開まで行けるかはわかりませんが、広く公開を望みます。

今回の感想は以上となります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

それではまた。

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