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「リコリス・ピザ」”Licorice Pizza”(2021)

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Licorice Pizza-2021-movie-paul-thomas-anderson 映画レビュー
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「リコリス・ピザ」(2021)

Licorice Pizza-2021-movie-paul-thomas-anderson

作品概要

  • 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
  • 脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
  • 製作:ポール・トーマス・アンダーソン、サラ・マーフィ、アダム・ソムナー
  • 製作総指揮 ジェイソン・クロース、スーザン・マクナマラ、アーロン・L・ギルバート、ジョアン・セラー、ダニエル・ルピ
  • 音楽:ジョニー・グリーンウッド
  • 撮影:ポール・トーマス・アンダーソン、マイケル・バウマン
  • 編集:アンディ・ジャーゲンセン
  • 出演:クーパー・ホフマン、アラナ・ハイム、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、マーヤ・ルドルフ、スカイラー・ギソンド 他

「ファントム・スレッド」などのポール・トーマス・アンダーソン監督が、1970年代を舞台に、運命的な出会いをしながらも、くっついたり離れたりする男女の恋愛模様を、時代背景とともに描いたロマンスコメディ。

主演はPTA監督と組んでいた亡き名優フィリップ・シーモア・ホフマンの息子クーパー・ホフマン。

そしてバンドで活躍しグラミーノミネートなど大活躍しているアラナ・ハイム。

2人とも今作が映画初出演であり、いきなり主演への大抜擢です。

2人の周りにはショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパーなど名優がそろっており、それぞれがここぞというところで印象的な役を演じます。

監督としても活躍するベニー・サフディも、後半に重要な役で登場。

また、PTA作品ではお馴染みとなったジョニー・グリーンウッドが今作でも作曲を務めています。

もともとの着想は20年ほども前にあったそうで、監督が街を歩いていたら、10代の中学生が学校の女性スタッフをナンパしているのを見た時だそうです。

もし本当にこの二人があとででーとしたら?というところから膨らませたとか。

ちなみにタイトルのリコリス・ピザはレコードを意味するスラング。レコードの主にアルバムをLP盤=Long Playと言いますが、Licorice Pizzaというスラングもあるらしいです。また、この名前のレコードチェーン店も実際にあったそうですね。

作品はたっかう評価され、様々な映画賞でノミネートや受賞を果たし、アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされました。

PTA新作ということで注目が高い作品でしたので、公開週末に早速観に行ってきました。とはいえそこまで混んでいなかったですが。

「リコリス・ピザ」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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1970年代。高校生のゲイリーは学校の写真撮影のスタッフであるアラナを見かけ一目ぼれ。

15歳の子どもにデートに誘われ、冗談まじりだったアラナも、あまりに自信満々でませたゲイリーが気になり、約束の場所へ。

子役として仕事をしているためにちょっと大人びた生意気さをもつゲイリーに対して、25歳で学校の写真撮影スタッフをしているアラナは複雑な気持ちを持ちながら惹かれていく。

アラナはゲイリーの舞台公演に付添人としてついていくことになり、飛行機に乗ったりバックステージに入ったりとこれまでにない経験をする。

しかし、ゲイリーの子供じみた行動や、アラナにいろいろという割にはほかの女の子にすぐに手を出すことにイラつきを感じ、これ見よがしに別の男性とデートしたり。

ゲイリーもアラナのそうした行動に意地になってしまう。

くっつくようでくっつかない二人は、アメリカ社会の時代の流れの中を駆け抜けていく。

感想/レビュー

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その場の空気を感じる魔法

ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品は、じつは新しいものばかり見ていて昔のは見ていないんです。

各所で「ブギーナイツ」の名前があがったりしているので、そういった監督のフィルモグラフィーを理解していると楽しい部分もあるかもしれません。

自分としては監督が同じく近しい時代を描いた「インヒアレント・ヴァイス」を思い起こしました。

ジャンルこそ違うのかもしれないのですが、大事なのは、その時代のその時、その場所の空気を感じて吸い込めることです。

まさにその瞬間に連れて行ってくれるような、そんな魔法の力を持っている作品だと思います。

プロダクションデザインの作りこみとか、衣装の選定とかメイクとヘアなど、そしてそれらを映し出すマイケル・バウマンの撮影。

マイケル・バウマンは「ファントム・スレッド」などではライティングを担当したりしている方ですが、長編映画の撮影監督は今作が初めてとのことです。

個人的に好きっていうのもあるのですが、特に夕方のマジックアワーとか、おぼろげになってライトがそれぞれを照らす夜の街とかがすごい好きです。

そういった要素がすべて合わさって、ゲイリーとアラナの初めてのデートの帰り道とか、トレーラーで走る夜の道、駆け抜ける通りが完成している。

なんだか全部が自分の思い出だから輝くような不思議な気分です。

時代背景と体制、フェミニズム

切り取った70年代。

そこにはアッティカ刑務所を口走るふざけた警官がいて、ものすごく乱暴な捜査でゲイリーを捕まえたと思えば、謝罪もなく放り出す。

どことなく今の警官の暴力に通じるものが見えます。

またオイルショックがあったりともろに背景が見えることもありますが、私はどことなくフェミニズムも感じます。

アラナは言ってしまえば20後半になったのに自分で満足いく人生を、キャリア的にも恋愛的にも送れていない。

そんな彼女が、言ってしまえばゲイリーもなんですけど、わりとクズなどうしようもない男たちを経て、自立していくような要素を感じます。

そういう女性像ができ始めたのが、この頃ということかもしれません。

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監督からの時代への愛

時代背景についてもっと重要なのは、オタク気質とも言える70年代ハリウッド映画への愛情でしょうか。

実際の人物や映画に対するあれこれがありますね。

ショーン・ペン演じるジャックはウィリアム・ホールデン。

アラナと撮影していたあの会話とか、イーストウッドの「愛のそよ風」のまんまなんですよね。

またブラッドリー・クーパーは当時の「スタア誕生」を背景に出てくるんですが、彼自身がレディ・ガガ主演でリメイク版を取っていることからセルフパロディ的です。

小ネタというか、このあたりは映画史に重きをおいて知識があれば楽しいかと。ただ、タランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」しかり、知らないとつまらないのか、知らなくても楽しめるのかは判断が付きません。

ピンボールのような恋愛模様

とまあいろいろな監督のこだわりが溢れている映画ですが、私が一番楽しめたのはまさにこの恋愛模様がピンボールであるところ。

どこに転がっていくのか、ぶつかっては弾かれまた交差する。

その脚本の行き着く先が見えてこないハラハラにずっと魅せられていました。

ジャンルシフトも感じられて、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」みたいになにか事業で成功することに固執するのがあるかと思うウォーターベッドやその後のピンボールマシンのビジネス。

かと思えば夜の坂道をドライブするところなんて、音楽も止めていてすごくスリリングなトーンですし、終幕近くにはベニー・サフディから市長選、環境破壊や再開発、ゲイの権利についてなんかも出てきて政治的。

しかしそにかく、そうした外部環境はあくまで外部環境であり、寄っては離れてを繰り返すゲイリーとアラナをただ眺めているだけでおもしろく、散漫にもならないのはかなりすごいことかなと思います。

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2人の新生スター

主演は二人だと思います。私個人的にはアラナの物語である印象もありますが、二人が輝いているのは間違いない。

クーパー・ホフマンもアラナ・ハイム。

この二人の新生スターに拍手でしょう。どちらもいい具合に子どもで大人で、生意気で可愛くて。

クーパーは監督に脚本を渡されるまでは俳優になることすら考えてもなかったらしいですし、アラナもバンドで活躍する人。

ふたりとも演技は初挑戦ですが、その素人というか無垢な感じというかが効果的に働いたのかと思います。

実をいうとゲイリーが最後まで引っかかり気味ではありました。

というかあまりロクな男性が出てこないこの作品において、彼もまた下半身でものを考えるようなタイプですから。

しかしクーパーの幼い感じとそこまで気味悪くはない感じが助けていると思います。

駆け抜けた青春

なんか社会的事象を詰めているのではなく、ありきたりといえばそうなのかもしれない恋愛映画です。

ただこの映画の疾走シーンは格別。

警察署から出ていったとき、バイクから落ちたアラナのもとへ駆けたとき。最後は二人が夜のLAの街をそれぞれ走っていく。

この疾走の躍動感。ここにすべての多幸感が詰められていると思います。

70年代のこの恋愛経験。生まれてもないのに自分の想い出みたいな。

PTA作品としては私個人的にはちょっとぬるい感じもあったり、ほかの作品を抜いて傑作に躍り出るほどではないです。

それでもただスクリーンを眺めるんじゃなくて、その時とその空気と、その記憶と経験を観客のものにしてしまう魔法を持っている。

映画ファンはもちろん見るでしょうけれど、ちょっと気になっていているという方はぜひ映画館へ。

というところで今回の感想は以上。最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。

ではまた。

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