作品解説
- 原題:「Night Always Comes」
- 公開年:2025年(アメリカ)
- ジャンル:クライムスリラー・ドラマ
- 監督:ベンジャミン・カロン(『アンドール』など)
- 脚本:サラ・コンラット
- 原作:ウィリー・ヴローティン著「The Night Always Comes」(2021年)
キャストと代表作
- ヴァネッサ・カービー(「私というパズル」「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」)
- ジェニファー・ジェイソン・リー(「ヘイトフル・エイト」「アノマリサ」)
- ザック・ゴッサーゲン(「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」)
Netflixで2025年8月15日配信開始。劇場公開のない作品ですが、お勧めに表示されてマイリスに入れていました。結局後から見た形になりましたが、感想を残します。
~あらすじ~
リネットはいくつもの仕事を掛け持ちして家計を支えている。母のドリーンと兄のケニーの世話も一手に引き受け、自分の部屋には洗濯乾燥機や古い暖房機まで押し込まれていた。
贅沢や新しい服に回すお金はなく、ずっと我慢を重ねながら、家族が何十年も借り続けてきた古い家を買い取るために貯金してきたが、母が頭金を新車購入に充ててしまったことで、念願だった住宅ローンの計画は頓挫。
再開発の波に押され、労働者階級が町から追い出されていくなか、リネットは生き残るために自力でローンのための頭金を工面すると決心する。
期限は明日の朝9時。欲望が渦巻く都市で、彼女の必死の闘いが始まる。
感想レビュー/解説
ジェントリフィケーションという現実
アメリカで深刻化が進むジェントリフィケーション。
不動産や金融、市政が絡み、再開発の名のもとに周辺の賃料を高騰させ、富裕層誘致のために一般層を実質的に追い出していく。
その問題を取り扱っている作品は多くあり、「ブラインドスポッティング」、「キャンディマン」、「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」などがあります。
今作もOPのシークエンスではアメリカ国内の格差問題やジェントリフィケーションに関する報道が映し出されています。
共感を呼ぶ「もしも」の不安
そんな背景に加えて、経済的な困窮は誰にでも起こり得ると、キャスターの声が語る。少しの入院費、事故の賠償。少額の支払いがまとまって請求書に載ったとき。
そんな少しの負担でも家庭の経済は崩壊しかねない。
誰もが綱渡りの上。
この感覚自体は私たちにもとても共感できるものではないでしょうか。
住宅ローンの支払いを続けている中で、子供の入学金がかかるという矢先に、親子介護費がかかってきたら?自分が事故に遭い入院する、病気になってしまう。就労不能になったら?
きっと融資を得て借金してその場を乗り切ることになる方がほとんどかと思います。そして、そこからローン生活。
誰しもに共感できるような危機をベースに、今作では特に家を失うかもしれない恐怖と、立ち向かう女性の姿を描いていく。
作品全体の印象
しかし、私は今作はそのフォーカスがどんどんとブレていくことになり、結局は何を描きたかったのか分からない作品になっていると感じました。
今作はリアルタイム進行風な感じです。非常に短い一晩の物語。夜になって朝を迎えるまでのスリリングなライド。
「Locke」とか「グッド・タイム」みたいな限られた時間と場所で、主人公の行く末を見守る。
だとすると、脚本の妙は問われます。ただの一本道だと、そうなるだろうね。で終わってつまらない。
でも変に話をこねくり回すと、後出しが強すぎて意味がわからない度になってしまう。目的を失うのです。
今作は完全に後者でした。
テーマのブレと後出し展開
ジェントリフィケーションに始まると思えば、もちろん貧困層の話も。
でも進むほどにリネットの虐待的な過去の話にもなるし、児童虐待の部分も。そこに毒親とのかかわり合いとけじめもあるし、自閉症の兄との兄弟の絆みたいなものまで乗っかって。
盛り沢山ですがどこへ向かいたいのかが不透明。
そして出てくる情報が全て後出し付け足しのドラマに見えました。付加情報が多いほどにドラマが深まると思い、乗っけまくった印象。
これ事態が悪いとは思いませんが、当初の問題提起的なテーマがジェントリフィケーションや誰しもが崖っぷちであるということなら、そこからはだいぶ外れます。
正社員で、家族が要介護とかでもなくて、借金まみれでも過去に犯罪歴があるわけでも、虐待のトラウマを抱えているわけでもない。
そんな普通の人でも、ただ一回の請求であっという間に路上生活になりかねないというのが、現代の危機だと思っていますし、そういうスタートをしている。
それなのに映画は進むほどに、”初めから詰んでる”状況だったリネットばかり描くのです。
俳優陣の力
俳優陣はみな良かったと思います。ヴァネッサ・カービー、ジェニファー・ジェイソン・リー、そしてザック・ゴッサーゲン。
ヴァネッサ・カービーはどことなくその美しく気高いオーラが残りながらも、奮闘して追い詰められるリネットを好演していました。
ザック・ゴッサーゲンは「ピーナッツ・バター・ファルコン」以来見たのですが、やっぱりいい味わいを持つ俳優です。
そして何よりジェニファー・ジェイソン・リー。まあ見事にウザい笑。どこか幼稚で、そして現実から逃げて、甘えてさらに兄を盾にする毒親っぷりが見事でした。
出演時間は限られていますが強い印象を持ってますし、シーンスティラーだなと感じました。
最終的には身を削り続けてきた女性が、自身を他人のために捧げることを止めて、新しく自分のために生きていくというゴールになります。
それだけを見れば悪くはないのですが、しかし、やはり全体の作品テーマがスライドして行ってしまう感が否めなく。出発点から行きついた先には違和感が残ってしまうのがとても残念な作品でした。
今回はあまり合わなかったかなというところ。感想は以上です。それではまた。
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