「帰れない山」(2022)
作品概要
- 監督:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ
- 脚本:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ
- 音楽:ダニエル・ノーグレン
- 撮影:ルーベン・インペンス
- 編集:ニコ・ルーネン
- 出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティ 他
パオロ・コニェッティによる同名小説を原作都市、その映画かをした作品。
「ビューティフル・ボーイ」のフェリックス・ヴァン・フルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュが共同で監督と脚本を担当しています。
主演は「マーティン・エデン」でヴェネツィア国際映画祭で男優賞獲得のルカ・マリネッリ、「ザ・プレイス 運命の交差点」などのアレッサンドロ・ボルギ。
今作はカンヌ国際映画祭にて審査員賞を獲得するなど批評面で高い評価を得ています。
タイトルの8つの山ですが、インドの世界観に基づくものです。
「世界の中心には最も高い山、須弥山(スメール山、しゅみせん)があり、その周りを海、そして 8 つの山に囲まれている。8つの山すべてに登った者と、須弥山に登った者、どちらがより多くのことを学んだのでしょうか。」
もともと公開規模が少ないのですが、近場でやっているのとルカ・マリネッリの主演作ということで楽しみにしていました。
GW期間中の後悔であったためか、初日なのに夕方1回のみ上映とかなり厳しい立ち回り。おかげで観たい人が集中してほぼ満員でした。
~あらすじ~
都会育ちのピエトロは、山が好きな両親に連れられ、毎年の夏休みをモンテ・ローザ山麓で過ごしていた。
そこで山に住んでいる牛飼いの少年ブルーノと出会い、二人はたちまち仲良くなった。
しかし思春期を迎えたピエトロは父へ反抗し、山に来なくなってしまう。
その後父の訃報を受け、悲しみの中でピエトロは久しぶりに山へ戻る。そこでお互いに大人になったピエトロとブルーノは再会。
ブルーノは父が彼に残した約束である山小屋の債権をすると言い、ピエトロにも手伝ってほしいというのだった。
2人の男は自然のなか、互いの時間を共有しながら人生を進めていく。
感想/レビュー
素晴らしい映像化
原作はとても有名らしいですが、読書に疎いため読んだことがなく、お話としてはこの映画で初めて知った形になりました。
しかし、そもそもの本の文字列を、映像と音楽に落とし込んでいくということにおいて、これはすごい映画化になっているのではと想像できます。
圧巻の山々、自然風景の撮影の美しさに、雄大でありながらもやや現代的音色が混ざっている音楽も特徴的。
ビジュアルとサウンドを与えるという意味で、素晴らしい映像化と感じます。
映像の点では美しいということもありますが、私は画面のアスペクト比も面白いと思います。
結構真四角な1.33 : 1の比率。
山の高さとかを映すのに良いのと、あとはどことなくひらけていない、狭い感じもあるのかと。
これは主人公たちの現在地の狭さとか、何処へ行くべきかの選択の悩みを映す画角なのかと思いました。
ゆったりであり急な時間の流れ
また、読書の点との比較で言いますと、この作品の持っている時間感覚が特殊に感じました。
多くの他の映画に比べ、時間の扱いに区切りがないというか、連続しているのに思い返すともうこんなところにいる感じ。
ちょっと怖いくらいに、人生の時間の流れをここに持ってきていると思います。
この前まで子どもだったのに。学生だったのに。
今いる地点を意識したその瞬間に、ここまで続いている道がすごく前に、夢のように感じられる感覚です。
人生はふとしたところで呼応し、そこに生が感じ取れる
序盤にピエトロとブルーノが仲良くなるシーンが美しいものです。
ピエトロがベッドから起きるシーンで、はじめはゆっくりとダルそうなんです。しかしブルーノとあってからはカットがかかると自分で着替えて勢いよく出かけていく。
繰り返す”起床”だけで、彼の今の人生の豊かさが見事に表現されています。
しかしかと思えば、その次のカットで同じくベッドにいるピエトロは青年になっている。そしてまたゴロゴロとしていて人生の変化が読み取れるのです。
呼応する表現は、人生の伏線回収のようで、でもそこに意味はない気もして。
父が亡くなった時に路肩に停めた車。ピエトロがブルーノがいなくなったと聞くときにも同じように車を停める。
ブルーノの悪態をピエトロも同じく言って、母に叱られたり。
変に”これ伏線です!”って感じがしなくて、意味があるようなないような感じなのが、ほんと人生って感じです。
どこに根を張りどんな世界を知るのか
ふたりの青年はこのドラマとして父と子をの関係を持ちつつ、すべての人の人生を象徴しているのかと思います。
誰しも親がいますし、また誰もがピエトロとブルーノどちらかに属するか、少しづつどちらかを内包している。
ピエトロはその場にとどまれない。
しかしどこに自分の居場所があるのかも分からない。30を超えても、いわゆる定住のような(結婚や子どもの意味でも)家を持ちません。
彼は自分探しのような旅をし、世界を見て回るがそれでも中心にあるはずの人生(中心の山)を見れていない。
対するブルーノは生まれ育った場所から動けない男です。
山の民に生まれ(すくなくともそうありたい)、そこから出ることを拒む。中心の山にはいるのに、その周りの山を巡ったことがないのです。
2人の時に理不尽で、時に遠慮する仕草、感情をルカ・マリネッリとアレッサンドロ・ボルギが繊細に演じていて、本当に生きている人の造形を堪能できます。
人生は不確実さで満ちている
ピエトロはラーラと結ばれるのかと思えば、ありがちな方ではなく人生は流れる。ブルーノからの電話の最中、あらゆる音が邪魔しているのが印象的。
人生の選択。ピエトロもブルーノもしっかりと生きている。
ただ人生は豊かな不確実さに溢れたものなのです。予期できず確実なこともない。
ピエトロが山の頂を見ようかといったとき、ブルーノは今すぐ見て来いと強く言う。
圧巻のワンショット、ルカ・マリネッリが岩場をずっと駆け上っていく美しさ。
父と好ましくない別れ方をしてしまって、後悔もある。ただ岩場を上るように、思ったことをすぐにするのが最善とも言い切らない。後悔がついてる人生もまたそれで良い。
雄大な山のそれと同じ包容力で、二人で一つの人間のような男たちの友情を見せる。
どこかに自分の人生のかけらを感じる、そんな作品でした。
今回の感想はここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
コメント