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「ミナリ」”Minari”(2020)

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minari-movie-2020 映画レビュー
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「ミナリ」(2020)

  • 監督:リー・アイザック・チョン
  • 脚本:リー・アイザック・チョン
  • 製作:ジェレミー・クライナー、デデ・ガードナー クリスティーナ・オー
  • 製作総指揮:ブラッド・ピット スティーヴン・ユァン
  • 音楽:エミール・モッセリ
  • 撮影:ラクラン・ミルン
  • 編集:ハリー・ユーン
  • 出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・S・キム、ウィル・パットン、ユン・ヨジュン 他

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リー・アイザック・チョン監督が自身の幼少期を振り返るように語る半自伝的な作品。

1980年代のアメリカに移住した韓国人一家を描きます。

主演は「バーニング 劇場版」「ホワイト・ボイス」などで存在感を示すスティーヴン・ユァン。

またハン・イェリが母をそしておばあちゃん役にはユン・ヨジュンが出演。

少し話題になったのはゴールデングローブ賞について。今作は話されている言語の半分以上が英語ではないという理由から作品賞の選考対象から外され、外国語映画賞でのノミネートとなりました。

しかしこれに対して各所から批判が上がったのです。そもそも英語喋る=アメリカ映画という定義がおかしいですよね。

そして非英語言語が7割近く使われたタランティーノの「イングロリアス・バスターズ」は過去に作品賞ノミネートをしているわけで、それはダブスタですし酷くバカげた話です。

批評家からの非常に好意的で高い評価を受けており、結構前から名前は聞いている作品でした。日本でも順調に公開し、先にはアカデミー賞にて作品賞にノミネートされ、勢いに乗っています。

とはいえ、やはり賞レース絡みの作品となると映画ファン層がメイン。劇場はそんな感じで映画好きそうな方がいて、そこまで混んでいるわけではありませんでした。

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ちょっと外堀のお話を。

今作には製作はA24とプランBが入っていますね。

ブラッド・ピットはやはりプロデューサーとして幅広い題材に関わっています。

今作の持つノスタルジーや静かなドラマは「ムーンライト」を彷彿とする点もあり。

またA24は同じように人生の思い出をみる点では「レディ・バード」が似た感触を持っています。

ただやはり一番思い出されるのはアジア陣キャストでアメリカに移住したいっかも描かれていた「フェアウェル」ですね。

じつは今作も「フェアウェル」もおばあちゃん映画です。

そうした共通点を観ながらも、作品の生まれた背景を思うと、今作はリー・アイザック・チョン監督にとってもそしてハリウッド(アメリカ)の映画にとっても非常に重要なものであると思えます。

先に述べたゴールデングローブ賞での騒動は置くとしても、こうしてアメリカに移住する家族、アジア系の家族が描かれるアメリカ映画が増えていくことも、まさにアメリカ映画の新時代を象徴していると感じます。

そして同時に、この作品が成功することは監督にとっても1つの到達点なのです。

実はリー監督はこれが4作品目。これ以前の作品は劇場公開されないか、短期間の限定上映のみだったそうです。

そして今作の脚本執筆時には、教師としての仕事を始める矢先だったとか。

最後に一本だけ執筆しようとして、ウィラ・キャザーの「私のアントーニア」を読み感銘を受け、自分自身の想い出を書き出すことにしたとか。

商業的なものとか何か迎合することをせずに、自分の描きたい物語、結局は自分の物語を産み出してそれが認められた。

真っ直ぐに、折れずに努力したリー監督はまさに”ミナリ”です。

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自分自身の思い出を語ることにしたリー監督ですが、その思い出には苦い部分こそややありますが、総じてとても暖かで優しく、愛情にあふれた眼差しが注がれています。

アーカンソーの太陽のオレンジに包まれた画面は、その静けさを程よく使いながら、この韓国から移住してきた一家の生の鼓動を眺めていきます。

それは何気ないものであり、決して過剰に盛り上げていくものではない静かなものです。

しかしリー監督の記憶であり80年代のアメリカでありながら、なぜか自分の記憶を呼び起こされるようなノスタルジーで見ている人を包んでくれます。

その心地よさと愛しさが、胸を締め付けてくる。このころに戻りたい。(自分とは全く異なる時代と人生ですが)

イー一家はしょっぱなから亀裂を抱えてやってきます。

やはりその存在感が素敵なスティーヴン・ユァンはアメリカンドリームを追いかける父として新たな土地を(おそらくアーカンソーのほうが土地が安いから)買いました。

そしてニューホームとして家族みんなを連れてきますが、それはアメリカンドリームにおける白いフェンスに囲まれた郊外の戸建てではなく、トレーラーハウスです。

このあり様にハン・イェリ演じるお母さんは完全にイラついているわけで、しょっぱなから亀裂や諍いが見えます。

ただリー監督はこれを家族の衝突ドラマにはせずに、子どもたちが”ケンカしないで”と書いた紙飛行機を飛ばすという演出からどこか暖かなものとして見せています。

おばあちゃんについても、デイビッドははじめ受けいれず、特製カクテルをこしらえるという驚異のいたずらをしますが、ここはお約束。

そこから二人は絆を作っていくわけです。

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リー監督の愛情こもった視線は、ウィル・パットンが演じたポールにも注がれます。

彼は神を信じる男であり、ちょっと変わった人です。

十字架男なんて子どもたちには呼ばれてしまうのですが、見守るデイビッドや一家からは決して見捨てられず、むしろ迎えられる。

今作の主人公はリー監督の幼少期であるデイビッドですが、ちょっと無知から来る差別的発言をしてしまった少年や少女に対しても、大事とはとらえません。

そしてその幼少期に留まらないことが、今作をより普遍的なものにしています。

それは父と母のシーン。

デイビッドが関わらないこれらのシーンで、もちろん喧嘩はみていた側からの記憶はあるにしても、あのお風呂のシーンなどは想像から来ている。

そこでの両親には、連れ添う二人お互いに対してと、子ども(つまり自分)への愛情に溢れています。

リー監督自身の幼少期視点ではなく、ここには今振り返っての暖かな想像が含まれているのです。

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デイビッドには心雑音があります。

だからOPからずっと「走らないで」と言われて、あまり好きなところへ自分では行かせてもらえない。

それがおばあちゃんに連れられて、森の中の小川にたどり着く。

そして最後には、闇へと向かうおばあちゃんのために走る。そして光の方へと、アンと一緒におばあちゃんを導いていく。

母に伝えるように、デイビッドの強さを見いだしてくれたのも、痛みを和らげてくれたのも怖くて眠れない夜に抱き締めてくれたのもおばあちゃん。

幼少期。

自分の回りにいた全ての人への愛情こもった眼差しと、大人になってから感じとるそういった人たちの別の側面。

リー・アイザック・チョン監督は個人的な想い出を、その抑えたトーンや演出と的確な人物描写、何よりも愛情とともにかける優しい眼差しで、普遍的なものへと変えています。

自分の記憶を巡るような心地よさを持つ監督個人の自伝。繊細な静けさで愛を語っていく傑作だと思います。

賞レースの作品全部を追えているわけではないものの、受賞を願う1本です。

皆さんも是非劇場へ。

今回の感想は以上です。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

それではまた次の記事で。

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