「セーヌ川の水面の下に」
作品解説
- 監督:ザビエ・ジャン
- 製作:バンサン・ロジェ
- 製作総指揮:ダニエル・ドゥリューム
- 原案:エドゥアール・デュプレ、セバスチャン・オーシャー
- 脚本:ヤニック・ダアン、モード・ハイバン、ザビエ・ジャン、ヤエル・ラングマン、オリビア・トレス
- 撮影:ニコラ・マサール
- 美術:ユベール・プイユ
- 衣装:カミール・ジャンボン
- 編集:リワノン・ル・ベレ
- 音楽:アンソニー・ダマリオ、アレックス・コルテス、エドゥアール・リゴディエール
- 出演:ベレニス・ベジョ、ナシム・リエス、レア・レビアン、アンヌ・マリビン 他
「ファラン/FARANG」などのフランスホラー界をけん引する監督ザビエ・ジャンが描く、フランスパリのセーヌ川に巨大サメが出現するというパニック映画。
主演は「アーティスト」などのベレニス・ベジョ、そして「ファラン/FARANG」でも監督と組んでいたナシム・リエスが出演しています。
作品は劇場公開はなく、配信のみでの公開になっています。NETFLIXにて6/5に配信開始されていましたので、週末に観てみました。実は存在自体知らなかった作品ですが、ネトフリリスト上で見つけると同時にXで結構評判のいい声が上がっていたので気になりました。
~あらすじ~
科学者で海洋生物学者であるソフィア。彼女は海での調査の最中、サメ”リリス”の襲撃により夫やチームを亡くしてしまう。
自身も後遺症を負ったその事故から3年後。フランスのセーヌ川で人が何らかの生物に襲われる事件が発生。環境活動家のミカはそれが海洋汚染のせいで行き場を失ったサメの仕業だと主張。
ソフィアはその真相解明のために調査に加わることに。
はじめはセーヌ川にサメなど信じもしなかった地元警察であったが、ミカが巨大なサメ”リリス”をおびき寄せたことで存在を信じることに。しかしリリスは子どもを産んでおりすでにセーヌ川を根城としていた。
リリスと子どもたちの住みかと化したセーヌ川は非常に危険だが、フランスのパリではトライアスロンの大会が開かれようとしている・・・
感想レビュー/考察
久々の普通のサメが怖い映画
サメには無限大の可能性があります。
サメは頭を増やし、巨大化し、砂を泳いだりお化けになってトイレから現れたり宇宙へ飛んで行ったりします。最近はサメも大昔の先輩を呼び出し、超巨大サメとして頑張っています。
そんな無限大のポテンシャルを秘めたサメですが、色物続きになってしまうと飽きても来ます。そこでフランスから、久しぶりにちゃんとした?サメがそのままの姿でがんばってくれる映画の登場です。
そして毎回大海原にまで人間が行くのに気を使ってくれたのか、今回はサメの方から人間の方へ訪問してくれるという心づかいの行き届いた作品になっています。
日常的な場所を地獄に変えるホラー手法
この作品、冗談抜きで度胸あるというか。この”サメがどこに出るのか”という点は実はラストにもすごく大きな意味を持っているのですが、まずはセーヌ川に出てくる点を考えます。
漂流した大きな海、研究施設、もしくは深海の海溝。こういった場所はホラー映画でいうところのいわばお化け屋敷です。特殊な舞台であり、そもそもそこへ行かなければいいというリスク回避が観客には用意されています。
だからこそゴールは無事生還すること。脱出することになる。
ただ、意地悪なホラー映画は居心地よく安心するべき場所を舞台にしてきます。「ヘレディタリー/継承」とかね。
そのロジックで行くとこのサメ映画も意地悪です。セーヌ川、つまり日常的な場所で危険なんて考えもしないような場所に、恐怖が出現するのです。
「ジョーズ」が金字塔として語り継がれていくのって、楽しくて安全な海水浴場にあの化け物が出てくるところが大きいと思います。日常を地獄に変える設定はうまく生かせればとてもいいスパイスです。
オリンピックを控えるフランスにタイムリーな地獄
そしてもう一つ、時期についてもおもしろい。映画の中ではトライアスロン大会が間近に迫っているという設定ですけれど、現実ではパリオリンピックが迫ってます。
しかも現実のトライアスロンでも実際にセーヌ川を泳ぐことになっている。そんなときに、このセーヌ川を舞台に大惨劇パニック映画を公開するとかフランスも思い切ってますね。
ちなみに、この作品ではパリ市長側がけっこう露悪的な感じで描かれています。トライアスロン大会を成功させることで自分自身の権力を強めることに躍起なのです。
なので”魚”くらいはやく処理しろと言ってくるし、安全対策もずさん。
このあたりは現実の騒動も考えると結構シリアスな問題かも。というのもセーヌ川でのトライアスロンについてはかなり論争が起きているようで、もともと1923年からずっとセーヌ川は遊泳禁止なのです。
その浄化のためにマクロン政権も巨額を投資したらしいですが、結局全然綺麗になっていないのだとか。
映画でも市長が水質処理の設備への投資やその規模を自慢げに語っていますが、リアルにそういった金の無駄使いやイベントを通した利権目的の政府に怒りを抱えている方もいるのです。
サメ自体は一応はミュータントで、環境適応のために淡水でも生きていけるように進化した設定ですが、だからと言って特殊能力をつけるとか見た目を大きくモンスターにすることもないのは良いところ。
ホラー演出に関しても魚影や主観ショット、またビーコンシグナルでの人間との位置を示すなど王道なものを程よく使っています。
捕食シーンについてもごまかさずにしっかり人体欠損させていたり、このゴア表現部分はさすがザビエ・ジャンでしょうか。
サメの惑星へようこそ
ネタバレに注意です。ここから結末を話してしまいます。結末込みでこの映画を気に入りました。
最終的には序盤に「なんか意味案のこれ?」くらいに置かれていた、セーヌ川の不発弾が待ってましたとばかりに炸裂します。
旧約聖書における第八の災いは、イナゴの大群が世界を襲い、作物を食い荒らして大飢饉をもたらすと記されています。
今作ではそれがサメ。環境活動家の話とか、利権優先で安全を軽視する市の姿勢とか、最終の結末にすべて集約されていく。地球を支配するのはサメになる。サメの大群により人間は終末を迎えるとは。
エンドロールも最高ですね。ロンドンやニューヨークなどの地図に赤いラインがどんどん張り巡らされていく。これはリリスの子どもたちが生息地域を伸ばしていく様子なのでしょう。東京も入ってました。
人間の勝手な行動と環境破壊によって追いやられ、独自の進化を遂げたサメが、今度は人間の住みかを覆い尽くして私たちを住みかから追いやる。この結末は、はじめ想像もしていなかった意外なラストでおもしろかったです。
想像していたよりもうまく現実の問題やサメホラーの魅力を組み合わせていて、ラストで本当に衝撃を与えてくるすごく楽しい作品でした。
ネトフリに加入してる方は観てみてくださいね。感想は以上。ではまた。
コメント