「X-MEN: ファースト・ジェネレーション」(2011)
- 監督:マシュー・ヴォーン
- 脚本:ザック・ステンツ、アシュリー・ミラー、ジェーン・ゴールドマン、マシュー・ヴォーン
- 原案:ブライアン・シンガー、シェルドン・ターナー
- 製作:グレゴリー・グッドマン、サイモン・キンバーグ、ローレン・シュラー・ドナー、ブライアン・シンガー
- 製作総指揮:タルキン・パック、スタン・リー、ジョシュ・マクラグレン
- 音楽:ヘンリー・ジャックマン
- 撮影:ジョン・マシソン
- 編集:エディ・ハミルトン、リー・スミス
- 出演:ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ジェニファー・ローレンス、ニコラス・ホルト、ケビン・ベーコン、ローズ・バーン、ジャニュアリー・ジョーンズ、ルーカス・ティル、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ゾーイ・クラヴィッツ 他
アメリカンコミックヒーロー、X-Menシリーズのプリクエルと位置付けされる作品になり、2000年のブライアン・シンガー監督からキックオフした作品群よりも前の時間軸を描きます。
キャストも前シリーズから一新され、ジェームズ・マカヴォイ、マイケル・ファスベンダー、ジェニファー・ローレンスなどが揃うことになりました。
監督は「キック・アス」などのマシュー・ヴォーン。「キック・アス」も一応はヒーローものということでの抜擢でしょうか。
この後は「キングスマン」シリーズを手掛けるなど、こうしたチーム組織ものが得意なようですね。
今作はこの後シリーズ化し、「X-MEN: フューチャー&パスト」(2014)、「X-MEN: アポカリプス」(2016)へと続いていきます。
まあ進むほどに前シリーズと交わってきて時間軸やら人物関係やらよくわからなくなってきますが。
ちなみに今作にもウルヴァリン役で前のシリーズに出ていたヒュー・ジャックマンが既にカメオ出演しています。
当時学生で、前シリーズはさすがに映画館で追いかけていなかったので今シリーズからリアルタイムということで楽しみにしていたのを覚えています。
今更ですが見直す機会があったので感想を残します。
幼少期から超能力として人の心を読んだり思考を操ることができたチャールズ・エクゼビア。
ある日彼は自身の姿を自由に変えることのできる少女レイブンと出会い、超能力を持つ者は自分だけではないと知る。
そして一方で、ナチスドイツに超能力を見いだされ、人体実験をされたエリック・レーンシャーもいた。
彼の母を殺してまでエリックの力を引き出したのは今はセバスチャン・ショウと名乗る男で、エリックはショウを抹殺するために単独行動していた。
だが、ショウ自身も超能力者であり、他の能力者を集めてこの突然変異した種族であるミュータントの世界を築こうと人類の滅亡を計画していた。
ショウを止めることを共通点に、チャールズとエリックは組み、彼らもチームを結成することにした。
作品自体はX-Menのシリーズの前日譚としても見れますが、同時にリブート的な位置づけとしても見れます。
いずれにしても始まりを描く作品なので、ここまでのシリーズや「ウルヴァリン: X-MEN ZERO」などを見ておく必要はなく、結構アプローチはしやすい作品と思います。
それよりもむしろ、作品の根底に置かれる時代背景やある種の人種差別の構成、そして二人の指導者といった要素は、アメリカ史を知識として求められてくるかもしれません。
というのも今作は、ミュータントという突然変異種の人類がいるファンタジー世界でありながら、同時に現実の歴史とのクロスオーバーを濃厚にしたドラマになっているからです。
完全に切り離されたコミック世界ではなくて、過去にはホロコーストもあり、ナチス残党の欧州各国への逃亡(イングロリアス・バスターズのうような)もありますし、特に米ソ関係、冷戦の要素が強い。
クライマックスに向けては第3次大戦の勃発が恐れられたキューバ危機をそのまま展開し、そうした歴史の背景にミュータントたちがいたら?という試みになっているのです。
まあこういう点は指摘しだすとキリはないですが、ホロコーストって何?とかキューバ危機とは?とか言い出すと、アメリカ映画全般は難しくなってしまいます。
ある程度基礎知識と言いますか、常識は踏まえておくとこの作品の試みは楽しめます。
でもだからと言って歴史映画ではないので、子どもも楽しんだりできると思います。ハードルは高くありません。
さて、その歴史のIFストーリーとして、主軸となるチャールズとエリックの対比は非常に興味深いものになっています。
ミュータントという種族に対する差別、それに対するアプローチという点で、親友・義兄弟でありながら信念によって分かたれている様はまさに、公民権運動におけるキング牧師とマルコムXなのです。
融和的で平和を求めるチャールズ、そして攻撃的で同法を守るために徹底的に戦うとするエリック。
2人がチェスをしたりで語らう姿は実際のキング牧師とマルコムXがどうしても思い起こされるものでした。
キューバ危機についても暗躍するショウを絡めていく楽しさがありますが、同時にその陰の存在を突き止めて戦うX-menチームには007などのスパイもの風味すら感じられます。
実際エリックはボンド的な部分はあるのかもしれません。
ファッショナブルですし、船を襲撃するシーンでの衣装の感じとかも。あと、個人的にはナチス残党を殺していくときの仕草が決定的です。
人の手にナイフを突き立てておいてビール飲むところとか、あと相手に対してというよりも髪が乱れてイラついているところとか。
エリックのシーンはマイケル・ファスベンダーのエロさ(?)が際立つところで、恐ろしい感じとか非情さを出しながらも、母との思い出などではその傷ついた心を出せる、非常にいい演者だと思います。
しかし、一方で抱え込む題材が多すぎてフォーカスがうまく合っていない部分も見受けられます。
根底には世界からの隔絶と深い孤独というものが置かれており、それが人種差別へと重なる問題定義ではあるのですが、しかしキューバ危機などについてはそことは全く別のプロットなのですよね。
ですから歴史ポップカルチャーとしてはやや散漫になってしまう部分もあるのかと。
終盤のバトルについてはもう世界における孤独はテーマになっていませんから。
先のスパイものテイストも含めて、ドラマパートとアクションパートではドラマが連続していない感じは残念。
あと1点。今作のヌーディティ、というか女性の扱い?はちょっと不要な要素が感じられます。
それはほぼ全女性キャラクターに裸またはそれに近しい衣装シーンがあること。
潜入という名目でのモイラのランジェリーから絵巻・フロストもエンジェルも。
ミスティークは設定上全裸みたいなものですが、どれもそこまでの必然性が感じられないというか。
気にしすぎかもですが自分は気になりました。
とはいえ全体には良い感じのリブートになっています。
世界からの孤立、孤独を演じていく上で、揺れ動いていくエリック(ファスベンダー)とレイブン(ローレンス)など演者が繊細な力でドラマを動かしてくれる点もあり、またショウのナチス研究事務所でのカットによる切り替えで背景を出し残酷さを出す演出などもたしかなところです。
歴史のなかでもポップカルチャーとして触れられる点を、まさにポップカルチャーであるアメリカンコミックと上手くブレンドし昇華した作人だと思います。
あまりシリーズとの関連性などを把握せずに楽しめるハードルの低さもあると思います。
置き換えやIF以上にはなっていないものの、それらを興味深いものとして提示する試みは成功です。
という感じで感想はこのくらいです。
今現在21/4/10ではFOX製作のX-MENは終了(デップーは知らん)ですし、MCU側でどのような展開になるのでしょうか、そちらも楽しみです。
それではまた次の記事で。
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