「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」(2022)
作品概要
- 監督:ギレルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン
- 脚本:ギレルモ・デル・トロ、パトリック・マクヘイル
- 原案:ギレルモ・デル・トロ、マシュー・ロビンス
- 原作:カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』
- 製作:ギレルモ・デル・トロ、リサ・ヘンソン、ゲイリー・アンガー、アレクサンダー・バークレー、コーリー・キャンポドニコ
- 製作総指揮:ジェイソン・ラスト、ダニエル・ラドクリフ
- 音楽:アレクサンドル・デスプラ
- 撮影:フランク・パッシンガム
- 編集:ケン・シュレッツマン
- 出演:グレゴリー・マン、デイビッド・ブラッドリー、ユアン・マクレガー、クリストフ・ヴァルツ、ロン・パールマン、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントン 他
これまで何度も語られ映画化されてきた「ピノッキオの冒険」を、「シェイプ・オブ・ウォーター」などのギレルモ・デル・トロ監督がストップモーションアニメとして再び描きだす作品。
それぞれ声優陣として、ピノッキオはグレゴリー・マン、ゼペット爺さんは「ハリー・ポッター」シリーズのデイビッド・ブラッドリー、そしてクリケットは「ドクター・スリープ」などのユアン・マクレガーが演じています。
その他にもケイト・ブランシェットにティルダ・スウィントン、クリストフ・ヴァルツにロン・パールマンなど豪華な面々がそろっています。
ピノッキオの物語こそ何度も映画化されてはいるものの、ストップモーションでのアニメ、しかもクリエイターはあのデルトロ監督とあって非常に興味深い作品でした。
共同監督としてアニメ畑でショート作品を手掛けてきたマーク・グスタフソンが参加していますね。
企画としてはかなり前からあり、2017年には中止が発表されたりもしていましたが、その後NETFLIXでの製作継続となり、無事に公開を迎えました。
一部劇場でも一般公開されたのですが、基本的にはNETFLIX配信メインのようで、私も配信にて鑑賞しました。
「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」NETFLIX配信ページはこちら
~あらすじ~
ゼペット爺さんは愛する息子のカルロと仲良く暮らし、街の人たちのために尽くす姿から見本にすべき大人とされていた。
しかし、大戦の最中での爆撃によってカルロは亡くなってしまう。
悲しみと絶望に沈んだゼペットは仕事を投げ出し酒浸りになって、いつもカルロの墓の前で泣いていた。
悲しみから怒りにまで達したゼペットは、近くの松の木を切り倒しそこから気d人形を作った。
亡き息子の埋め合わせのために。
そんな不憫なゼペットをみた精霊は、魔法の力で木の人形を”ピノッキオ”として命を吹き込んだ。
もしも良い子として学んでいけば、いつか本当の少年にしてあげるという約束を残して。
感想/レビュー
原作の包容力の深さ
「ピノッキオの冒険」といえばまあディズニーのアニメ作品もありながら、実写化されている作品もあり、直近ならゼメキスのもの、そして少し前ですが素晴らしいマッテオ・ガローネ監督による「ほんとうのピノッキオ」もありました。
そんな中でまた再びの映画化になったわけですが、また新しいテーマ性を持ちながら、やはりこれはピノッキオの物語であろうという作品が生み出されています。
そこから、この原作の懐の深さとか、多面的な要素が掘り起こされ磨かれたと感じます。
そう考えると、なんとも奥深い原作なのだと改めて感心しました。
デルトロ監督の作家性詰め合わせパック
もちろん、その新しい側面を与えているのは、クリエイターであるデルトロ監督です。
ここでも彼の作品群に共通してきたテーマが炸裂しています。
異形の者=モンスターへの愛情。そして本当のモンスターのあぶりだし。
暴力とファシズムの批判や生と死を通しての愛。
デルトロ監督のこだわり具合もひしひしと感じる、凝縮されたアニメになっています。
ストップモーションというものに命を吹き込む手法
今作がアニメ、しかもストップモーションを採用している点、それだけで勝利なんじゃないかと思いました。
人形をコマ撮りしていきアニメーションとして映像化していく。
まさに、モノに対して命を与えていくような作業です。これはそのまま、木の人形というモノであったピノッキオに、命が吹き込まれることと重なります。
形の異なるもの、そしてモノ。
それらに対する愛情、彼らに魂を認める想いが、今回「ピノッキオの冒険」をどのように映画化にするか、に現れていると思います。
素晴らしい造形と映像技術
ストップモーションのレベルもものすごく高い。
まずもって造形ですが、ピノッキオの後頭部とかめっちゃツボです。切り出した木の粗い面もあれば、磨き上げた滑らかさもある。
CGでは成しえない、本当の木の質感なども感じ取れます。
ピノッキオといえば噓に反応して伸びる鼻が特徴ですが、ヴォルペ伯爵は全キャラクターの中でも最も鼻が長く、生粋の嘘つきだと示していたり。
造形という面ではやはりモンスターはお得意の分野なのかと思いますが、二人の女神(ガチ女神のケイト様とティルダ様をキャスティングするという素晴らしさ)の神話のような、人型ではなくて動物がまじりあった姿。
また海の怪物も非常に面白い造形をしていました。生き物ながらも、どこか機械的な。ハウルの動く城のような印象。
アニメーションではさらに、現象そのものの描写にも感動しました。
今作は舞台場面が結構移り変わることが多いです。それは昼夜という変化でのライティングもあり、また雪や炎といったものもあり。
生をもって死を、死をもって生を見つめる
そんな場面変遷も豊かなアニメーションを伴いながら、根底では生と死を描いていると思います。
そもそもの始まりは、カルロの死。そして深い絶望です。
悲しみの果てに作り出され、生を受けたピノッキオは常にカルロの死を思い出させる存在です。
そしてピノッキオは死ぬことがない。
何度も冥界を行き来しているとき、最後のシーンでピノッキオは早く戻りたくなる。つまり生きたいと願う。
多くのピノッキオの物語では、見た目としての木の人形からの人間への変身をもって、本物の命になったと表現しています。
しかし、ここでデルトロ監督は生きるということ自体に焦点を当てています。
生きているならば終わりがある。死がある。ゼペット爺さんはそれを認めることができずに苦しんでいました。
でも生きるとはつまり死ぬことで、それを否定してはいけない。
愛をもって生きて、そして死んでいこう
ピノッキオが行きたいと願うのは、ゼペット爺さんを助けるため。愛をもって誰かのために生きることこそ、本当の命ということ。
自分のために誰かを生かし、そして自分のために死ねというなら、そんな奴は屁をくらえということです。
今作の行きつく先は、まさに命というものをそのまま捉え、賛美している。
木の人形という他のとこなる姿を最後まで変化させず、そのまま愛して。
デルトロ監督が初めてアニメーションを手掛け、そしてストップモーションを駆使し、また新たに魂のこもったピノッキオの物語を誕生させています。
心温まり非常に見ごたえのある作品でした。おすすめ。
一部短い期間で劇場公開していたのに、見に行けなかったのがすごく悔やまれます。
というところで、今回の感想はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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