「ナポレオン」(2023)
作品概要
- 監督:リドリー・スコット
- 脚本:デヴィッド・スカルパ、リドリー・スコット
- 製作:リドリー・スコット、ケヴィン・J・ウォルシュ、マーク・ハッファム、ホアキン・フェニックス
- 製作総指揮:レイモンド・カーク、エイダン・エリオット、マイケル・プラス
- 音楽:マーティン・フィップス
- 撮影:ダリウス・ウォルスキー
- 編集:クレア・シンプソン
- 出演:ホアキン・フェニックス、ヴァネッサ・カービー、タハール・ラヒム 他
ナポレオン・ボナパルト皇帝の波乱に満ちた興亡を描いた壮大な物語。
彼の権力への執着と不安定な愛情を背景に、彼の妻ジョゼフィーヌとの苛烈な関係を描き出します。
監督は「エイリアン」や「最後の決闘裁判」などのリドリー・スコット。
主演は「ジョーカー」などのホアキン・フェニックス、また「ミッション:インポッシブル デッド・レコニング」や「私というパズル」などのヴァネッサ・カービー。
もともとナポレオンの映画って、スタンリー・キューブリックがずっと熱望していたようで、その脚本をリドリー・スコット監督は読んだらしいです。
キューブリック版ではジャック・ニコルソンとオードリー・ヘプバーンのキャスティングも考えられていたらしく、実現していたら見てみたかった気もします。
ちなみにリドリー・スコット監督は今作を61日間の撮影で完成させたそうです。
仕事が速すぎる。しかも、今後Appleの方で配信?されるディレクターズカットは4時間くらいあるみたいですね。
そこまでナポレオンに興味があったわけではないのですが、リドリー・スコット監督新作ですし、ホアキン・フェニックスがまた監督と組んでいるのも魅力で観に行ってきました。
しかしリドリー・スコット監督新作とあっても、歴史ものだったりもあるのでしょうけれど諸種末にしては観客少な目でした。
~あらすじ~
1789年、フランス革命が自由と平等を求める市民によって始まった。
マリー・アントワネットは斬首刑に処され、国内は混乱の渦に巻き込まれる。
その中で、軍事戦略に長けた将軍ナポレオンは台頭し、最終的には皇帝の地位にまで上り詰める。
彼は最愛の妻ジョゼフィーヌとの関係に揺れながら、フランスの最高権力を手中に収めたが、多くの戦争によって何万人もの人命が失われている。
フランスを守るという目的において台頭を始めた男は、やがて侵略者、征服者になっていく。
感想/レビュー
今なお精力的に映画を作り続けるリドリー・スコット監督。
「最後の決闘裁判」に続いて、また歴史ものを取り扱ってきたわけですが、今作は「グラディエーター」などに通じる生々しい殺戮も行われる映画です。
昨今大きな戦いを描いている昨比自体はよく見るんです。
スーパーヒーロー映画の奔流で、スケールがでっかい戦闘シーンはあるにはあるんですが、CGに溢れていてファンタジック。
そこには戦争の凄惨さというところまでは感じません。
今作はいくつかの戦争シーンが用意されていますが、どれもが惨たらしいですね。「プライベート・ライアン」の中世版というか。
戦闘は夜、砂漠、雨の中、雪の積もった大地。非常にバリエーションが多く、どれもが陰惨でありました。
初手のトゥーロの闘いの時点で、敵の砲撃がナポレオンの馬に直撃するのですが、胸がえぐれて内臓が飛び出します。
この時代、接触したらまあ基本的には終わりみたいなもの。負傷とかでは済まず、兵器に対して防具が意味を成していない。
非常に多くの人間が大きな銃創を持って互いに突進しあう絵面には圧倒されます。
攻防というよりも、もはや数の勝負であり、そしてどちらがどちらの剣で貫かれるかなんて運みたいなものです。
民衆に向けて至近距離から大砲を打ち込むシーンもあります。
人が肉塊となって吹き飛んでいく。
そしてそうした場面に注がれるナポレオンの目に、冷酷さが際立って演出されることになります。
非常に効率的で美しくもある、冬のロシアでの戦闘。ナポレオンは司令部にいて淡々と戦況を操っていきますが、けっこう味方も死んでいる。
あくまで兵力でしかなくて、駒と思っているこの冷淡な視線が際立つような戦闘シーンの数々でした。
ナポレオンを戦場で英傑のように描くと思わせつつ、リドリー監督は実は彼に英雄的な側面を与えません。
采配を振るう点での冷酷さは見えていますが、正直言って戦闘に関してはカッコ悪いところも描写されます。
しょっぱなではいざ戦闘に参加しようとすれば馬を撃たれて落馬。砦に登れば敵兵に押されて仲間に助けられる始末。
馬の時点でも少しずれていれば彼自身が木っ端みじんでしたし、その後の戦闘では帽子を撃ち抜かれている。運がいいだけ。
そして部下を置いて逃げ帰ってしまうという情けなさ。
頭領を3人に絞る投票のシーンではオラついて出てきた割にはみんなに袋叩きにされ逃げだし、階段で転げ落ちる。
極めつけは彼とジェセフィーヌの関係性。
彼女とは時に優劣を入れ替えながらも沼のような関係性を築いていくわけですが、彼女を前にしてのなんというか、小物っぷり。
行儀の悪い粗野な男子大学生。
セックスしたいときの妙な声を出してるところとかコメディかと。
歪んだ小物感は「グラディエーター」のコモドゥスでも良く演じていたホアキン・フェニックスス。
今作も彼の冷酷で支配的な狂人と、駄々をこねる大きな子どものような二面性がすごく効いています。
歴史的英雄といわれる男性を、滑稽な男にしたうえで、やはりリドリー・スコット監督は強い女性を登場させます。
今作はタイトルをジョセフィーヌとしてもいいくらい、ヴァネッサ・カービーが演じるジョセフィーヌのキャラが強い。
彼女自身ナポレオンに不思議な力で惹かれているのですが、ただ従順な女ではない。
「過去について知っているか。」
自分自身の過去に関してそれを隠すとか、そこに申し訳なさなんて感じない。それを受け入れるか否かだけ。
ある意味で気高く、ナポレオンとちがって揺れ動かない魅力的な女性でした。
予告でもあるシーンですが、脚を開いて「下を覗くといい。一度見たら病みつきになる。」というシーンがありますが、すごいセリフなのに見事に言ってのけるヴァネッサ・カービーすごい。
セリフだけ切り取ると娼婦のそれであるのに、そこに尊厳を感じさせる。
各シーンで彼女のボディランゲージにも繊細さがあり、良かったです。
男性性を崩壊させて、そこに芯の強い女性を見せていく。
ナポレオン本人の矮小なところとかは見えるし、ジョセフィーヌがたってて良かったですが、いかんせん長尺にも感じます。
力強い戦闘シーンと主演二人の演技が見どころで、その力で引っ張っていったというところでしょう。とくに戦争シーンはやはり大きなスクリーンで観る価値ありです。
感想はここまで。リドリー・スコット監督といえば「グラディエーター2」とか「エイリアン」シリーズ新作とか、これからもまだまだ作品が予定されています。
楽しみにしておきましょう。
ではまた。
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