「ドント・ムーブ」(2024)
作品解説
- 監督:アダム・シンドラー、ブライアン・ネット
- 製作:サム・ライミ、ザイナブ・アジジ、アレックス・ルボビッチ、クリスチャン・マーキュリー、サラ・サランドス
- 製作総指揮:デビッド・ハリング、ロマン・ビアリ、ルザンナ・ケゲヤン、ペトル・ヤークル、アラ・ケシシアン、マイケル・ペセル、ロジャー・チェン、マーク・マナス、アダム・シンドラー、ブライアン・ネット
- 脚本:T・J・シンフェル、デビッド・ホワイト
- 撮影:ザック・クーパースタイン
- 美術:ニコライ・キリロフ
- 衣装:クリスティーナ・トモバ
- 編集:ジョシュ・イーサー
- 音楽:マーク・コーベン、マイケル・オシス
- 出演:ケルシー・チャウ、フィン・ウィットロック 他
NETFLIX制作のサバイバルスリラー。喪失を抱える女性が森の中で殺人鬼に誘拐され、筋弛緩薬によって身体が動かなくなる中逃げ延びようとするスリラーです。
主演は「ウインド・リバー」などのケルシー・チャウ。また殺人鬼役には「ビール・ストリートの恋人たち」などのフィン・ウィットロック。
監督はアダム・シンドラーとブライアン・ネットの二人。まだ長編作品の監督経験は2、3作目といった感じの様ですね。
ネトフリ新着リストにあったので鑑賞して観ました。
~あらすじ~
自身の息子を失った悲しみに暮れているアイリスは、人の来ない森の奥にやってきた。
崖の上に立ち、何もかも終わらせてしまおうと考えていた彼女の前に、リチャードと名乗る男が現れる。
彼は自分自身も妻と死別したことを話し、アイリスにバカなことはやめて崖から離れるように説得する。
彼の言葉を受けて一度山を下りることにしたアイリスだったが、リチャードは彼女に襲い掛かり誘拐。
さらに筋弛緩薬を打ち込まれてしまったアイリスは、次第に身体が動かなくなりながら、助けを求めて森をさまようことになった。
感想レビュー/考察
描きたいことは分かりますし、ところどころでの力は感じられて見入っていくことはできる作品でしたが、全体にはどこか信じられないものでした。
森を舞台にして殺人鬼から逃げていく。そこに身体が動かないという大きなハンデを主人公に付与して、さらに生存を困難に。
組み立ては良いと思いますが、スリリングさが強かったかといえば微妙だったのです。
あまり驚異的ではない犯人と、生存本能の強い主人公
問題はこの仕組みについての実行部分な気がします。序盤、この作品の肝である筋弛緩薬が効果を出す前に、アイリスはその強い生存本能と戦う気概でリチャードを追い詰めます。
リチャードが連続殺人鬼なのか、今回が初犯なのかでいえば、会話などからは前者であると推察できますが、それにしては詰めが甘いでしょう。被害者の持ち物をチェックするどころか、ミニポケットを丸ごと見逃している。
そのポケットに入っていたナイフで拘束を解除し、逆に襲われてしまうのは間抜けです。しかも、アイリスはそこでナイフでうまくいかないと、すぐにシートベルトで首を絞め挙げるという技に移る。
これをサバイバルかといえばまた違いますが、しかし攻撃性は高いです。
なので、犯人があまりに抜けてて弱い点はそのままこのサバイバルがあまり困難なものに思えなくなる。そしてアイリスのこの一連の行動が、自死を考えている人の心理状態と結びつきにくく感じてしまいました。
生存本能高めで行動力もあるアイリスに、喪失の繊細さを感じづらい。
ですが、身体が動きにくくなり始める序盤、森で一時隠れた彼女が、リチャードが通り過ぎるのは待てたのにもかかわらず、直後に声を上げてしまい気づかれるなど、こっちも間抜け感が入ったりよく分からない。
映画の機能という印象の強い人物
途中でアイリスを匿ってくれるお爺さんについても、脚本上の推進として性格を付与したという、機能的に存在する人物の様相がとても強いですね。
怒りの衝動を抑えて暮らしてきたからそれをリチャードに利用されてしまうんですが、都合の良さだけが感じられてしまいます。
敵としてのフィン・ウィットロックはなかなかいいと思います。いつもはうさんくさい銀行マンなイメージであったり、なにかと恵まれた白人を演じている気もする彼ですが、その若干しらじらしいサイコ感があっています。
殺人鬼の造形としても、普通に結婚し子供もいて、一般的には危なくなさそうな男だったのはリアルですね。
生きる意志を取り戻す
さて、今作のテーマは結構わかりやすく”生きる意志”です。
もう死んでしまおうと思っていた女性が、殺人鬼の誘拐とそこからの逃亡のなかで再び生きていこうという意志に目覚めていく。
筋弛緩薬で動けなくなるのは、生命活動的には生きてはいるけれど、魂の抜けた抜け殻のようなアイリスを表現した状態なのでしょう。
勝利宣言をリチャードの使っていた言葉で本人に返し、そのリチャードの方が動けない状態になっているラストはある程度すっとする爽快さがありました。
テーマの置き方とか、タイトな時間で展開するコンパクトさは、観る分には楽ですが、正直そこまでのスリリングさや怖さがない点はマイナス。
夜のゆっくりタイムでサクッと観たりするにはいい具合の映画だと思いますので、時間があるときにはお勧めです。
今回の感想はここまで。ではまた。
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