「喪う」(2023)
作品解説
- 監督:アザゼル・ジェイコブス
- 製作:アザゼル・ジェイコブス、アレックス・オルロフスキー、ダンカン・モンゴメリー、マット・アセルトン、マーク・マリー、マル・ウォード、リア・ブーマン、ティム・ヘディントン、ジャック・セルビー
- 製作総指揮:エリザベス・オルセン、キャリー・クーン、ナターシャ・リオン、マーヤ・ルドルフ、ダニエル・レンフルー・ベアレンズ、ニール・シャー、マックス・シルバ、ピーター・フリードランド、ソフィア・リン
- 脚本:アザゼル・ジェイコブス
- 撮影:サム・レビ
- 美術:ケンドール・アンダーソン
- 衣装:ディアス・ジェイコブス
- 編集:アザゼル・ジェイコブス
- 音楽:ロドリゴ・アマランテ
- 出演:ナターシャ・リオン、キャリー・クーン、エリザベス・オルセン 他
疎遠になっていた三姉妹が、父の最期を看取るなかで関係を修復しようとする姿を描いたヒューマンドラマ。
次女レイチェルをドラマ「ポーカー・フェイス」のナターシャ・リオン、長女ケイティを「ゴーストバスターズ アフターライフ」や「不都合な理想の夫婦」のキャリー・クーン、三女クリスティーナを「ウィンド・リバー」なのエリザベス・オルセンが演じています。
監督・脚本は「ラバーズ・アゲイン」「フレンチ・イグジット さよならは言わずに」で知られるアザゼル・ジェイコブス。Netflixで2024年9月20日より配信開始。
ネトフリでの鑑賞は少し遅れてしまいましたが、俳優陣はすごく好きですので10月入ってくらいには鑑賞。感想を書くのがずいぶんと後回しになりました。
~あらすじ~
余命わずかな父親の世話をするため、久々にニューヨークの実家に集まった三姉妹。
反抗期の娘を抱える厳格な長女ケイティ、自由奔放で幼い娘と初めて離れる三女クリスティーナ、そして父親と暮らし続けてきた次女レイチェル。
レイチェルは大麻やスポーツ賭博に夢中で、父がいつとも分からない命の状況であるからこそ、そんな態度がケイティを苛立たせている。
父の最期が近づく中で、異なる価値観を抱える三人の不満が次々と噴き出していく。
感想/レビュー
一つのアパートメントの中で展開される、舞台劇のようにも感じる映画。
ただ思っていたよりもずっと映画らしい仕掛けでストーリーを語っていき、また演者の良さも相まって見ごたえのあるドラマになっていました。
父親を看取るために集まった3人の姉妹の物語は、それぞれが抱えている問題に幸せの形、それらの認識の違いをあぶりだしていきながら、大切な人の死に直面することや家族というモノの形に対して、向き合っていくための心強い味方になっています。
本来はなるべく避けていきたい、死別に対して、作品は寄り添ってくれる。そして様々な人生の歩み方に対して、全て受け止めて温かく包んでくれるのです。
個人の抱える問題と姉妹関係が呼応する
3人の姉妹が集まりながら、決して姉妹間の絆が見えてこない。
病気の父とずっと同居し、世話をしてきたのは侍女のレイチェルです。彼氏を連れ込み、賭けをしている試合をで観る。そして息抜きにタバコを吸う彼女は、たびたび長女のケイティと衝突しています。
ケイティは今まさにコントロールの難しい思春期の娘を抱えている。
きっと言うことを聞かず、ガサツで言葉遣いも良くないレイチェルが娘とも重なったりするのでしょう。突っかかってしまうし、タバコも外で吸うようにと追い出してしまう。
そんな2人の間を持つように三女のクリスティーナは柔和に接します。ただそれも彼女を非常に追い込んでしまう。
彼女は今まだ幼い子どもを持っていて、たびたび電話口でも心配したり、気にかけています。休みなくストレスがたまり、家事もする中で、小さな子ども相手なので自分がこらえて飲み込むしかない。
そんなクリスティーナにとって、姉妹の仲裁にまで入らなければいけないのは、非常につらいことです。
途中で「二人とも甘えて幼稚な子どもよ!」と怒鳴ってしまうシーンがありますが、いつも自分は大丈夫というフリをして、無理して人のために頑張るタイプですね。
ぶっきらぼうで姉妹を突き放すレイチェル。
彼女の背景は次第に明かされ、実は父と血のつながりがないことが明かされます。その血縁ではないという事実が、つまり本当の家族ではないんだという疎外感を生んでいたのです。
だからこそレイチェルは表面上ケイティとぶつかり、そして心の中ではクリスティーナのことも遠ざけている。
ケイティはクリスティーナについて、幸せな家庭像を見せつけてきていると感じてしまうし、3人の姉妹はやはりまとまらない。
全員の気持ちがそれぞれ分かります。誰も間違っていないけど、みんな不器用に掛け違えてしまっている。
アパートの間取りや撮影の画面構成で語られる姉妹間の隔たり
今作ではその心の距離感などをアパートメントの間取りを利用しつつ撮影で語っていきます。
同じ画面内に人物を同居させなかったり、すぐ移動してフレームから出て行ってしまったり。またカメラが絶妙にパンすることで、壁などが邪魔して1人が見えなくなってしまったり。
クリスティーナの精神的回復行為であるストレッチを挿入する仕方も、そこに誰が来てどのように動くかも見ていておもしろいです。
ちなみにこのアパートはセットではなくて、実際にニューヨークにあるアパートだそうです。リアルな質感というモノを追求するうえで、俳優たちが感じる印象や、周囲の環境までも意識させてリアリズムに落とし込んだとのこと。
小さな舞台をうまく人物関係の語りに活かしていますね。
暖色に包まれているアパート内部に対して、レイチェルの部屋のシーンでは、照明がなくTVの光で構成されることから色彩は寒色になっています。
これは部屋が彼女の心を示すとすると、父を失っていく悲しみを抱えているものととらえることができます。
3人の娘たちとそれぞれの真実
3人の姉妹は3様の人生を送っている。それぞれが交流が少なく、相手のことを、人生を理解していない。
それが父の死別を迎えるとどうなってしまうのか。
父こそが唯一の、この3人の女性を姉妹として結んだ点だと言える。それが失われれば今よりももっと希薄な関係になり、他人のようになってしまうでしょう。
そうすると、この父とのお別れは、3人にとって父亡きあとでも姉妹として歩んでいくための最後のチャンスということになる。
そして奇しくも、この父の死を悼むことがみんなの共通点。みんなにとっての父だから。
クライマックスでは父が病床から目ざめ、姉妹が過ごしたリビングに移動してきます。そこで父が立ち上がり娘たちそれぞれに声をかけるシーン。
きっとあれは幻想でしょう。実際には父は部屋から出てすぐに容体が変わって無くなってしまうのだから。
ただ、そこで語られるのは、みんなの人生がそれぞれ素晴らしいことと、それぞれが背負ってきたものや父に求めていたもの、得られなかったものです。
ということは、あの父の言葉は姉妹それぞれの真実とも取れますね。
こじんまりとした映画ですが、大切な人を亡くしていくという辛さに真っ向から向き合い、人生を認める素敵なドラマです。
NETFLIXで配信されていますので、ぜひ。今回の感想はここまで。ではまた。
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