「クラウン・ハイツ/無実の投獄」(2017)
- 監督:マット・ラスキン
- 脚本:マット・ラスキン
- 製作:ナムディ・アサマア、マット・ラスキン
- 音楽:マーク・デッリ・アントニ
- 撮影:ベン・カッチンズ
- 編集:ポール・グリーンハウス、ジョー・ハッシング
- 出演:キース・スタンフィールド、ナムディ・アサマア、ナタリー・ポール、ネスタ―・カーボネル、ビル・キャンプ 他
1980年、ブルックリンのクラウン・ハイツで起きた殺人事件で、冤罪で投獄され21年もの月日を刑務所で過ごしたコリン・ワーナー氏の伝記映画。
監督は「The Hip Hop Project」などのマット・ラスキン。
コリン氏を演じるのは「ゲット・アウト」や「ホワイト・ボイス」のキース・スタンフィールド。
作品はサンダンス映画祭にコンペで出品され、観客賞を受賞。実は聞いたことはなかった作品ですが、配信の欄に入っていたので鑑賞して観ました。
1980年4月。ブルックリンのクラウン・ハイツにて銃声が響き渡る。少年が白昼のストリートで射殺されたのだ。
その夜、コリン・ワーナーは殺人の罪で逮捕される。
しかしコリンは当の射殺事件には全く関与しておらず、動機もなくまた物的証拠も医学的根拠もない起訴だった。
やってもいない罪を認めることはできないコリンは、裁判で戦うことを決意し、正義が下されると思ったが、彼は有罪判決を受けてしまうのだった。
上訴や仮釈放申請もうまくいかず、地獄のような監獄で次第に人間性を失っていくコリン。月日だけは残酷に、20年も流れてしまう。
しかし一方で、彼の親友であるカール・キングは、コリンの釈放を絶対にあきらめず、自ら司法の勉強をし私財を投入してコリン釈放のために奔走していた。
ちょうど2020年の序盤には、ブライアン・スティーブンソン氏の”Just Mercy”を読み、映画化である「黒い司法 0%からの奇跡」を見たこともあり、今作の題材には興味を惹かれました。
また主演のキース・スタンフィールドも好きなので彼目当てな部分もありましたね。
作品としては確かに伝記ではありますが、上記の作品と同様に、ある男性の冤罪や人生を濃厚に描きながらも、同時に社会の不平等や不正、差別、格差、司法制度の在り方に対し鋭く切り込んでいく作品でした。
まず最初に見ていて感じるのは、この作品のテンポの良さ。
というかそこからくる時間の流れの扱いの巧みさでした。
作品はおよそ90分ほどのもので、一人の男性の21年間を描くには全く短いのです。
そして、逮捕からの流れも、はじめはかなり急ぎ足というか早い展開に思えました。
ほとんど20分くらいで、逮捕から投獄そして数か月は経過、その後のまた何分かで、コリン氏が投獄されて6年まで経過してしまいます。
薄味に感じるかもしれませんが、自分にとっては彼の人生が無残に奪われることやその喪失がより悲惨に感じました。
一瞬ですべて奪われているのです。
そして、コリン氏はなす術もない。警察との取り調べや真犯人との面会、裁判など全てがあっさりと進行する。
それほどに、コリン氏の、一人の人間の人生のかかったプロセスが手短に進んでしまうのです。
淡々と進むなか、状況を飲み込むこともできない。
「監房の中じゃありませんように。」と夢だと思えるような、このあまりに簡単な投獄は現実だと受け止めきれない感覚が、見事に醸成されます。
実際の時間とは異なる映画という媒体の時間のあり方を、巧く感情導線に使ったと思います。
またそれはキース・スタンフィールドとナムディ・アサマアの演技によるところも大きいです。
訛りの部分も自然ですが、徐々に希望を失うコリンと、自分事として闘い続けるCK。キースは無垢な18歳から、不満と怒りに包まれる様、生をあきらめるところまで変化に富んでいます。
終盤に関しては、いざ釈放へと動き出すと、コリンの出番がかなり減ってしまい、割と普通の冤罪証明ケースに展開しますが、そこでも「自分だったかもしれない」というCKの言葉が重く、また効果的でした。
コリンはたまたまだったのです。
不正がはびこり偏見と差別に満ちたシステムを放置し。
そしてアメリカは厳罰や死刑制度による犯罪抑制と解決を図った。それを止めなかった、おかしい社会に異を唱えなかったのがすべての原因です。
その犠牲者がたまたまコリン・ワーナーであっただけ。誰にでも起こりえることだからこそ、他人事ではなく立ち上がる必要があるのです。
この作品は一つの伝記であり、コリン・ワーナーの物語ではありますが、その社会と個人の関係性においては普遍的です。
コンパクトでやや物足りない感じとか、大きくこのジャンルから飛躍するような作品ではないものの、私たちを囲む社会システムの在り方を今一度考えさせる作品です。
今回はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それではまた次の記事で。
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