「フレンチアルプスで起きたこと」(2014)
- 監督:リューベン・オストルンド
- 脚本:リューベン・オストルンド
- 製作:エリック・ヘメンドルフ、マリー・シェルソン、フィリップ・ボバ―
- 製作総指揮:ジェシカ・アスク
- 音楽:オーラ・フロッタム
- 撮影:フレドリック・ウェンツェル
- 編集:ジェイコブ・セッチャー、シュルシンガー
- 出演:ヨハネス・バー・クンケ、リサ・ロブン・コングスリ、クリストファー・ヒビュー、クララ・ベッテルグレン 他
スウェーデンの監督、リューベン・オストルンドによる絶望と笑にあふれた家族の物語。
批評面で高い評価を受けていまして、ハリウッドでのリメイクも決定したとか?ハリウッドリメイクは個人的には信用できないものですが・・・
バカンス映画でありながら、非常に心休まらず緊張しっぱなしな映画。
人は結構入っていて、ほぼ満員。前の方で観たので少し首が痛かったですけど、それ以上にこの映画の気まずさに飲まれてしまった次第です。
フランスのスキーリゾートにやってきたスウェーデン人一家。
これから5日間のバカンスを過ごすのだが、食事している最中に、人工雪崩が起きる。そしてその雪崩が思ったよりも大きく、山を望むレストラン側にも迫ってきたのだった。
実際には被害は出なかったものの、なんと夫トマスはスマホ片手に家族を置いて非難してしまったのだった。
無事ではあったものの、このことで夫婦間にはぎこちない空気が流れ、やがて亀裂へと広がっていく事に。
1日目、2日目と区切りを持って進む今作ですが、一連の緊張やゆがみはしょっぱなからあります。
大きな雪崩を防ぐための頻繁な爆破も、ドキッとする上鳴り止まない爆撃のような感覚。
もちろんそれで引き起こされた大き目の雪崩が、この家族の関係を壊していきます。
爆発音、機械の動く音、ゆっくりしたエスカレーター。なんかとにかくキリキリ締め付けられそうな雰囲気がずっと続いていますね。
雪崩のシークエンス、もといこの映画全体に言えますが、ロングショットが多めです。まるで家族を追ったドキュメンタリーのような撮り方ですね。
雪崩のシーンでは初めから終わりまでずっと一つのアングルを保ちました。じわじわと大きくなって、すべてを飲み込む描写は、まさにこの家族に降りかかる亀裂や衝突の投影のようでした。
原題の”Force Majeure”はフランス語で「不可抗力」またそこから「避けられない大きな力:災害など」の意味だそうです。
まさに雪崩が登場しますし、そこでの一番の問題、夫のトマスの行動も表されていますね。一度の経験で、それまでは見えていなかった(ように感じた)問題が浮き上がってきます。
この映画はある意味では密室劇的でして、このリゾートのホテルや雪原など、決まった場所が繰り返してできます。その同じ場所の同じ画面構成の中、人物たちの関係変化が見事に描写されているんですね。
毎日寝る前の歯磨き。初日は子供も一緒だったのに、雪崩の在った2日目は夫婦だけ。3日目はたしか夫は泣どおしでいなかったですし。
2と4のときは、前者で夫トマスが、後者で妻エバが小さい方をしていましたね。ですからやっていることが二人で違うので、心の距離を感じます。
しかも互いに閉めなかった便器のフタをバタンと閉めるのです。相手に対する不満が出ているように思えます。また、相手の足りない部分を補ってあげるとも取れますかね?
繰り返しの中での変化、それに加えて夫婦が出会う人から受ける変化。
雪崩の一件以来考えていることが、あの遊び好きな女性、マッツらカップルの前で爆発。
夫は男であるということにプライドを持って、それで謝りもせず、あろうことか嘘をつき、マッツとビールを飲んで女の人に声をかけられるシーンでうぬぼれる。
妻は男、夫、父の役割を信じ、また妻、母のあるべき姿も思い描く。それだから絶望し、友人にはその生活の非難をしてしまう。
こんな観念の揺らいだ2人に影響されて、マッツカップルも揺れに揺れる!他の男と比べられるのがとってもイヤなのは、共感できるとこではありますがね笑
とにかくリアルというか赤裸々。映画における理想化された人物なんて一人もいなくて、それをうまく撮ってます。証拠みせる妻、一切見ない夫。
食事前の会話で妻の顔が見えなかったり、夫婦が鏡越しで映され、一緒の画面に出なかったり。
大きな子供の泣きじゃくりシーンはもはやコメディ。しかしそこから子供たちを巻き込んで、家族身を寄せ合って泣くのは良いシーン。
オープニングの写真撮影では指示されて身を寄せた彼らが、自ら4人で抱き合うんです。
最終日はばらばらに滑っていた1日目と違い、父が先頭妻が最後。雪崩と同じ真っ白な画面が再び現れますが、今度はトマスがエバを抱えて帰ってくる。
帰りのバスでは今度は母が一人で出ていく。「あんたも逃げそう」と言われたマッツは頼れる一面を見せ、最後はみんな並んで歩いていきます。
家族、夫婦の概念。父、母、また夫と妻の役目。それぞれが思い描く像はそれぞれの数だけあるうえに、試されるときにその像のようには動けない。
まさに「不可抗力」的に行動してしまう。
この映画ではその理想に固められた概念の中身を容赦なく描き、それでいて良い部分も悪い部分も見せて終わる。彼らの結末がどうなのか。分かりにくいと思うでしょう。
あえてなんだと私は思いました。
理想概念が壊れる。信じていた人が理想でなかった。そして理想と同じであると思っていた自分がそうではなかった。
じゃあ何を信じりゃいいんだ・・・となった観客に、みんなそうだから一緒に歩こうか。と言ってくれるような映画でした。お勧めです。
こんなところでおしまい。それでは~
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