「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(2017)
作品解説
- 監督:ロブ・ライナー
- 脚本:ジョーイ・ハートストーン
- 製作:ロブ・ライナー、マシュー・ジョージ、エリザベス・E・ベル
- 製作総指揮:マーティン・シェイファー、ウェイン・マーク・ゴッドフリー、ロバート・ジョーンズ、アラステア・バーリンガム、トニー・パーカー、クリストファー・H・ワーナー、ロン・リンチ
- 音楽:ジェフ・ビール
- 撮影:バリー・マーコウィッツ
- 編集:ボブ・ジョイス
- 出演:ジェームズ・マースデン、ウディ・ハレルソン、ロブ・ライナー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、トミー・リー・ジョーンズ、ジェシカ・ビール 他
「ミザリー」や「最高の人生の見つけ方」のロブ・ライナー監督が、2001年の9.11テロから2003年のイラク戦争開戦の裏で、合衆国政府が主張するイラクの大量破壊兵器保有に対し、捏造ではないかと取材に奔走した記者たちを描きます。
主演は「X-MEN」シリーズでサイクロップスを演じていたジェームズ・マースデン、「スリー・ビルボード」などのウディ・ハレルソン。
また監督自身がナイト・リッダーの局長として出演し、そのほかにミラ・ジョヴォヴィッチ、トミー・リー・ジョーンズなども出演しています。
ロブ・ライナー監督というと結構心温めるドラマとかロマンス的なイメージがありましたが、そういえばこの方「ア・フュー・グッド・メン」の監督でしたね。またこの作品の前には「LBJ ケネディの意志を継いだ男」を撮っていますし、正義や政治の題材は新しいわけではなかったようです。
この作品も日本公開はしていて、シャンテで予告がやっていたのも覚えていましたが、劇場公開時にはスルーしてしまいました。今回は配信で見ることができたので鑑賞。
~あらすじ~
2001年の9月11日。ニューヨークのワールドトレードセンターに飛行機が突入するテロが発生し、合衆国は恐怖とパニックに包まれた。
そんななか、31の地方新聞を傘下にするナイト・リッダー社は政府の動向を見つめている。
政府の急務はこのテロ攻撃の真犯人を突き止めることのはずであったが、国防総省の取材や調査では、合衆国政府はなぜか関連性を認めるには薄すぎるイラク、サダム・フセイン政権への侵攻を計画しているというのだ。
俗人であるフセインと、実行グループアルカイダの原理主義者ビンラディンを結びつける証拠はないにもかかわらず、政府はイラクに大量破壊兵器があると主張を始める。
完全に間違った認識、嘘の情報や真実よりもフセイン排除の政策に傾き戦争に突入しようとするこの現状、多くの大手メディアは政府支持をする中で、ナイト・リッダー社のストロベルとランデーは情報員や事務員などかへの取材を重ねていく。
感想レビュー/考察
9.11からのアメリカのあまりにとんでもない動きを追いかけた作品はアダム・マッケイ監督の「バイス」を思い出しました(こちらは劇場で見ました)が、まあどちらかといえば作品内でも言及されるような「大統領の陰謀」といいますか、メディアを主人公にポリティカルドラマを展開していく作品になっています。
そこで一つ思うのは、あまり特徴的ではないかなというところ。
そもそもロブ・ライナー監督はまじめな作風だと思いますので、変にとがった演出とか笑いさえ起こさせるブラックなユーモアを入れることはないでしょう。
実直にこのナイト・リッダー社の実在の記者たちの奮闘を描いていくので、見ごたえ自体はあるのですが逆に非常に落ち着いた作品になってしまっています。
実際のニュースフッテージや演説の映像を駆使するという技巧についてもそこまでの斬新な使い方ではありません。
それぞれのロマンスとか夫婦の話なども盛り込まれていますし、ベトナム戦争のころのエピソードやトミー・リー・ジョーンズ演じる退役軍人の話などもありドラマ性は濃くなっています。
それにそれぞれの役者陣が派手すぎないレベルでいい演技を見せてくれて、抑えたトーンが好きなら演出されすぎないところは光ると思います。
しかしどうにもよくあるポリティカルスリラーのプロットと流れを汲んだというか使いまわしたという印象がぬぐい切れませんでした。
もちろん、今作が社会的に非常に重要な役割と意味を持っているのは認めるところです。
こうして体制側に対する監視としてのメディアの機能を果たし、非常時でも冷静に信念を持って行動し続けたナイト・リッダー社の記者たちの功績は忘れられるべきでも見過ごされるべきでもないと思います。
だから彼らの活躍をしっかりとごまかすこともなく描くことそれ自体に意義があります。
そして、この作品公開当時のドナルド・トランプ政権における現実のゆがみに警鐘を鳴らします。
「自分だけの現実に生きている人間は、真実など関係なく嘘をつく。」
証拠から論理を作るのではなく、自分の論理を成立させるための証拠集め。気に入らない情報は捨て去っていきながらイラク戦争へ突き進む姿は、もちろんトランプが不利な情報を片っ端からフェイク・ニュースだと呼んでいたことを思い起こさせますから。
ベトナム戦争の時から何も変わらず、結局はばかげたロジックと破綻した政治から多くの兵士が犠牲を払い続けているアメリカ。
こうして繰り返していくなかで、記者の役割とは?
政権や内閣のご機嫌取りでは意味がないんですよね。常に監視し疑い信憑性を問う。問いかけ続けなくてはいけません。タイムズだろうがCNNだろうがなんであってもその権威性から鵜呑みにはしてはいけない。
意義深い。でもやはり作品としては普通過ぎる印象で終わってしまう作品でした。
ナイト・リッダー社の特殊さ、アクセスできるソースが上層部ではなくて現場の人たちである点とか、地元新聞紙のネットワークとか、いろいろと差別化できそうな部分はあるんですがね。
高度なレベルではなく。もっと市民の視点からの展開とか。
しかし総合的には見ておく価値があるというよりは、知っておく価値がある内容の映画という結論です。
今回は自分にはあまりはまらなかった作品になりました。感想はこのくらい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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