「マッドマックス:フュリオサ」(2024)
作品概要
- 監督: ジョージ・ミラー
- 製作: ジョージ・ミラー、ダグ・ミッチェル
- 脚本: ジョージ・ミラー、ニック・ラザウリス
- 撮影: サイモン・ダガン
- 美術: コリン・ギブソン
- 衣装: ジェニー・ビーバン
- 編集: エリオット・ナップマン、マーガレット・シクセル
- 音楽: トム・ホルケンボルフ
- 視覚効果監修: アンドリュー・ジャクソン
- 出演:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、トム・バーク、アリラ・ブラウン、チャーリー・フレイザー 他
2015年に公開され、日本でも熱狂的なファンを生んだジョージ・ミラー監督の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。その作品に登場した女戦士フュリオサの若き日の物語を描いた作品になります。
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」では、シャーリーズ・セロンが演じたフュリオサが強烈な存在感とカリスマ性で人気になりました。今作では「ラストナイト・イン・ソーホー」などのアニヤ・テイラー=ジョイが若いころのフュリオサを演じます。
またフュリオサの宿敵となるディメンタス将軍役には、「アベンジャーズ」シリーズや「タイラー・レイク」シリーズで人気のクリス・ヘムズワース。
シリーズの生みの親であり、1979年公開の第1作「マッドマックス」から「マッドマックス 怒りのデス・ロード」まで一貫してメガホンをとってきたジョージ・ミラーが監督・脚本を務めています。
アクション映画史に輝く前作を10回くらいは劇場に観に行き、ドルビーシネマでのリバイバルなんかも見ている自分としては、とにかくマッドマックスの新作は嬉しい限り。早速公開週末にIMAXで鑑賞してきました。
~あらすじ~
人類が核戦争と暴力の奔流により世界を崩壊させてから45年。
実りある地で穏やかに過ごしていた少女フュリオサはある日、森の中に侵入してきたバイクギャングの一味に連れ去られてしまう。
暴君ディメンタス将軍が率いるバイカー軍団は資源のある実りの地の場所を知るために、フュリオサを救出に来た彼女の母を拷問するが、仲間を守るため母は何も漏らさずに絶命した。
故郷や家族、すべてを奪われたフュリオサは、ディメンタス将軍に娘として連れられ世界の狂気を目の当たりにしていくことになる。
そして水のある要塞を支配するイモータン・ジョーと弾薬畑、ガスタウンなどの拠点を巡ったディメンタスとジョーたちの勢力争いが発生。
フュリオサはディメンタスがガスタウンを牛耳るための交渉材料としてイモータンに引き渡されるも、自らの運命を変えるためにひそかに兵士として軍団にもぐりこんだ。
彼女の目的は故郷、母、すべてを奪ったディメンタスへの復讐。狂った者だけが生き残るこの世界で、修羅の道を歩むこととなった。
感想レビュー/考察
前作である「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が私にとっては生涯ベスト級のアクション映画です。今回のフュリオサの公開に合わせて何度か自宅でも再鑑賞し、やはり色あせない圧倒的な輝きを持っていることを再確認。
ジョージ・ミラー監督が再びあの世界を描くということ、怒りのデス・ロードで主人公マックスを食う勢いでカッコよかったフュリオサの物語となること。楽しみにならないわけがないのです。
しかし、同時に不安もやはりありました。あのとてつもない怒りのデス・ロードの影があるし、シリーズで初めてのスピンオフというのもどうなるのか。。。
個人的には怒りのデス・ロード越えはしなかったけど。。。
まずその点ではっきりというと、個人的には前作を大きく超えた作品ではないと思っています。
今回は前作が上映時間2時間(今考えてもあの濃さで2時間というコンパクトさに驚きます)ですが、今作は2時間28分と結構長め。尺が長いこともありますが、物語的に長いなと感じたのも正直な感想です。
それはタイプが異なるゆえに、今作は休止が結構あるということです。
怒りのデス・ロードでは、アクセルは常に踏みっぱなしでしたね。アクションにアクションを重ねて、ビジュアルや世界観でドラマを構成し語っていく。
休止が入ることで最高のペース配分だという見方も
それに対して今作はしっかりと暗転を含めての章立てになっていますし、時間の経過も相まって長い期間の物語になっています。間にアクションを停止して、ドラマ部分に集中するパートが用意されています。
印象としては1作目のマッドマックスとかに近いのかもしれません。少なくとも、怒りのデス・ロードを期待しているなら冗長だという意見も出るでしょう。
しかし逆に言えば、怒りのデス・ロードが疲弊するタイプの映画だったと思う方には、これこそ最高のペース配分がされたアクション映画だと言えるはずです。
さて今作で注目なのは、前作とのつながりでいえば主演にあります。
とにかくシャーリーズ・セロン演じるフュリオサは気高く強くそして優しく善き人で、英雄の中の英雄でした。そのフュリオサを演じるということで抜擢されたのが、売れっ子のアニャ・テイラー=ジョイなのです。
表情や身体で感情を伝えるアニャ・テイラー=ジョイは間違いなくフュリオサ
今作では彼女自身がかなりのトレーニングをして挑み、車の運転も免許を取り、またスタントを使わずに自らアクションを演じたシーンも多いようです。
実際に体当たりでの演技も素晴らしいところですが、私はアニャの演技が光ったのは言葉に寄らない演技が本当に巧みであることだと思いました。
フュリオサを演じるというのはものすごくハードルが高いと思います。その中で、今作では自分の出身地のことを話さないように、自ら口がきけないふりをして中盤くらいまでずっと過ごしているフュリオサ。だからセリフが本当に極端に少ないのです。
その中で出せるのは、目つきや姿勢、身体全身で表現になるわけで、そこにフュリオサの焦りや怒り、葛藤や心の揺れ動きを出していく。それがアニャの素晴らしいところでした。見どころです。
エンジンオイルを額と目元に塗っているので、よりアニャの大きな瞳が強調され、そこから語られる感情が見えるのも良いところ。
あと、今作で悪役ディメンタスを演じるクリス・ヘムズワースは、イモータンなどと違ってカリスマ性が微妙で間抜け、アホの子感がありマッドマックスの世界には新鮮なタイプでした。
本人も「マイティ・ソー」などのヒーロー役では一定の枠や規則があった中で、こうしてフリーな悪を演じることが楽しいとインタビューで答えていますが、絶妙に情けなくていい悪役。
そもそも全然バイク集団を統率できてないし、序盤から「お前俺のボスじゃねえし。」って断わられて、挙句裏切られてたり。
AI技術で実現した子役との演技融合
役者の面でいうと、幼いころのフュリオサがすごく印象的でした。子どものパートでもセリフがほとんどないままに進行するストーリーでしたが、演じた俳優アリラ・ブラウンに注目です。
とにかく本当に幼いころのアニャのように見えますが、鑑賞後に調べてみると実は今作ではAI技術を取り入れているとのこと。
アニャとアリラの二人の演技をミックスして作り上げているらしく、昨今は俳優の老化、若返り化などにもAIが結構使われているので、また新しい表現が出てきたことになりますね。
違和感もなくシームレスな時間の経過を見せていくために、今後このような技術が継続して使われていくかもしれません。
狂気の世界のデザイン性は健在
ディメンタスの軍勢が加わったことからまた怒りのデス・ロードとは違うマシンや闘いが繰り広げられることになりました。
闘いについては先ほど言ったようにずっと展開するのではなくて、休止を挟んで出てきます。中盤以降は空を飛ぶ敵なんかも出てきて、「NOPE/ノープ」のあの凧宇宙人みたいなのつけた敵がいたりビジュアル面でも楽しい。
実は戦闘シーンでフュリオサが初めて表に出てきますね。隠れていたところから戦闘に参加し、鋭い判断力や機転を見せて一気に戦士の素質を見せてカッコいい。
マシンについては個人的にはフレッシュさが少し足りないかもしれません。
バイク3つ繋げてるチャリオッツスタイルのディメンタスはインパクトありますが、後半で乗っているモンスタートラックはリクタスのビックフットの大きい版な気がしますし、やはりここまでにいろいろと見せてきているので難しいです。
どちらかというと、今作は怒りのデス・ロードにおける地理的な部分や勢力構図というモノをあとから説明する点でいろいろとおもしろいかもしれません。
周辺の情報は当時の設定資料集とか、コミックス版などでいろいろと知ってはいたものの、こうして実際のガスタウンや弾畑を観ることができるのは楽しいものです。
スピンオフかつ前日譚ですので、こうしてオリジナルの保管部分を見せるのはやりやすいですし。ただし前作に比べてなんですが、何だろう。CG感が強く出ているところが多く感じてしまって。人物やプロップとの馴染み具合が微妙で違和感のあるシーンも多く見受けられました。
さて、ドラマ部分の描きこみに比重を置いた本作ですが、大成功かと言えば個人的には満足ではないです。
ジャックという男性の存在
今作でシタデルの警備隊長でウォー・タンクの運転手であるジャック。彼は後のマックスを思わせるような存在でもありますし、きっと女性という性別以外に価値を見出して接してくる初めての人間である点も大きいでしょう。
しかし、その出現はちょっと都合よくも思えてしまいました。もちろん決してフュリオサは男性に助けてもらう女性という見え方はしないものの、物語を進めるうえでジャックは好都合なキャラクターすぎる気がします。
フュリオサとジャックがお互いに秘密の場所にてそれぞれの過去を打ち明けるシーン。そして最終幕でディメンタスとフュリオサが対峙するシーン。
終幕での会話の多さが気になる
今作は最後の方でなぜかセリフですべて説明していきます。フュリオサの方は言葉数は少ないのですが、しかししゃべらせてドラマをたたんでいくのがあまり好みではないです。
もちろん、往生際悪くしゃべりまくっているディメンタスの情けなさを現しているのかもしれません。しかし、世界の崩壊により暴力にカタルシスを求めることになった2人ついては、ビジュアルで語っていってほしかった。
ディメンタスがクマのぬいぐるみを大事にしているだけでもけっこう分かるものがありますしね。
かつて家族がいたのにそれを失ったディメンタスは、ただ残虐な遊びに興じることで世界へ復讐していたのかも。「もう飽きた。」というように、世界を破壊することではその空虚な心の穴は決して埋まらないのでした。
そして母を殺され、幼少期を奪われ、唯一故郷へ戻るための地図が記されていた左腕さえ失ったフュリオサ。彼女は復讐を胸に生きる。それが活力。
しかし最終的にはディメンタスとは異なり、奪われた者を解放する役目になっていく。
終着点は見えていましたがドラマ部分にフォーカスした作品。最後に会話を長々する部分があまり好きではないですが、キャスティングの素晴らしさとか世界観の完成具合は成功していますし、映画館で観るべき作品です。
この先にはマッドマックスの続編などがあるのでしょうか。楽しみにしておきます。今回の感想はここまで。
ではまた。
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