「ブルー・バイユー」(2021)
作品概要
- 監督:ジャスティン・チョン
- 脚本:ジャスティン・チョン
- 製作:チャールズ・D・キング、ポッピー・ハンクス、キム・ロス
- 製作総指揮:ゼヴ・フォアマン、エディ・ルービン
- 音楽: ロジャー・スン
- 撮影:アンテ・チェン、マシュー・チャン
- 編集:レイノルズ・バーニー
- 出演:ジャスティン・チョン、アリシア・ヴィキャンデル、シドニー・コワルスケ、マーク・オブライエン
韓国系アメリカ人の俳優であるジャスティン・チョンが、養子縁組をされ長年アメリカに暮らしながらも、過去の書類不備と法制度によって強制送還されてしまう男と、彼の家族を描いたドラマ。
ジャスティン・チョン自身が監督、脚本、そして主演も務めており、妻の役には「リリーのすべて」のアリシア・ヴィキャンデル、また娘役を「ガール・イン・ザ・ベースメント」などのシドニー・コワルスケが演じています。
その他の出演者は「レディ・オア・ノット」のマーク・オブライエン、「ブルックリン」のエモニー・コーエン、リン・ダン・ファンら。
今作は監督自身が行った数々の実際に強制送還された人々の話を複合させて製作した映画になっているそうです。
実は今作のことはあまり知らなくて。
映画公開一覧にあったのは知ってたのですがのーマーク。興味がわいたのは映画館で予告を観てからになります。
アメリカにおける2世だったり、また移民の子どもや養子縁組など、社会のシステムの隙間に陥ってしまったり潜在的な差別ンぼ対象になっている人のドラマというものを知っておきたいというのが鑑賞理由。
公開週末に地元の映画館でいてきましたが、そこそこの入りといった具合でした。
~あらすじ~
アントニオは3歳のころに養子縁組でアメリカにわたり、それから30年以上アメリカ人として生きてきた。
彼には妻キャシーと、彼女の連れ子で娘のジェシーがおり、3人は幸せな毎日を送っている。
しかし、アントニオとキャシーの間には次の赤ちゃんが生まれてくる予定で、彼は二人の子どもを育てるためにお金が欲しくて転職活動をしているもうまく行かない。
そんなある時、キャシーの元夫で警官であるエースと彼の同僚とスーパーマーケットで鉢合わせをする。
同僚はアントニオを移民扱いし不当に拘束しようとしたため彼は抵抗、警官への暴力で逮捕されてしまう。
本来ならすぐに釈放されるはずであったが、なぜかアントニオはI.C.E.(アメリカ合衆国移民・関税執行局)に連行されてしまった。
彼の養子縁組の際に、里親は彼にアメリカ市民権を与える申請をしてなかったのだ。つまり書類上彼は不法移民であり、強制送還の対象だという。
アントニオは家族とともにアメリカで暮らすために奮闘する。
感想/レビュー
アメリカ社会への緊急かつ悲痛な叫び
ジャスティン・チョン監督が自身主演で描き出したのは、その姿勢からも明らかな急を要する議論です。
アメリカにおける移民への施策や海外からの養子縁組に関する法制度。そして社会に紛れ込む差別。
OPからメッセージは明確ですが、見た目がアジア系だからと言って常に出身を聞かれる。
年十年アメリカに生きても、出身は?からいや、生まれたのはどこ?と聞かれてしまう。
多くの実体験から複合してこの物語を作ったとのことですが、ここには緊急の訴えが含まれているのです。
自然な流れで入れ込まれているI.C.E.や滞在に関してアメリカ合衆国から求められる要件。
アメリカが抱えている潜在的な排斥制度に対する現場からの声であり悲痛な叫びであり。
トランプ政権下で、いやそこに特定せずとも強烈に感じられる移民を弾圧し国外へ追い出すという動きについて、実際に何が起きているのかの視点と問題への洞察をくれています。
その意味で非常に社会的な側面を、もともとの根っこには持つ作品だと言えるでしょう。
アントニオ一家に降り掛かってくる障害やハードルというのは、誰を思って整備されたのか分からない法律であります。
抜け落ちた人たちへのセーフティネットも一切なく、さらに国に、社会に対しての存在価値の照明を求めてくる。
幼くしてアメリカに来たゆえアントニオのような人にとっては完全に祖国です。
生まれた地のことなど、記憶もなければ家も文化も何も根ざすものを持っていないのです。
そうした個人背景を全く無視して、ただ制度が彼を追い詰めていく。
直面する難題が現れては、彼ら家族が引きされていくことに心を傷めずにいられません。
実際にそこに生きる輝かしい家族
今作においてジャスティン・チョン監督が成功したのは、この訴えと叫びをしっかりと届けることと、何よりもその根幹を支えるアントニオ家族を確かな手触りを持って描き出したことではないでしょうか。
見ていて本当に美しかった。
自然光を使うライティングから始まり、このアントニオ一家を映し出し撮影の距離感も含めて。
本当にそこに生きている家族を、密着取材のように映し出しているというか。
しかしドキュメンタリー的ではなくて劇的でもあり。
あたたかな光に包まれ、マジックアワーの特別な空気に触れて、この家族とともに過ごす。
ジャスティン・チョン、アリシア・ヴィキャンデル、そしてシドニー・コワルスケの素晴らしいアンサンブル。
3人がただ一緒に過ごしている姿をずっと見ていたい。
輝かしいこの家族には実在感があるからこそ、彼らに本当に幸せになってほしいし、境遇に憤ったり悲しんだりできます。
実は雑音になりかねない要素も多いのが脚本上の事実です。
ルートとしての百合の花の話を入れたかったのかとは思いますが、闘病するベトナム出身の女性については実はまるっと存在を省いても問題ないかと思います。
また、きっかけとしてはあまりにシンプルで機能的な人物造形になってしまっている警官(エモニー・コーエンが変わりすぎててはじめ分からなかった)などやや話を進めるための役目に終止する人物も多いのが気になりました。
まあその話というのもかなりメロドラマ的ではあります。
その点ちょっとサブプロットが多くて抱え込みにも思いました。
移民排斥を背景に、実子と養子について、義理の母との関係と実の母との関係と。
幻想的なシーンが時折挿入され、そのイメージはなんとなく今現在目の前で展開されているハードな現実とは乖離してしまう気もします。
余分はあっても素晴らしいメロドラマ
ただ、突き詰めて言えば大事な部分がちゃんとしてるんですよ。
歌まで上手い才能の塊みたいなアリシア・ヴィキャンデル。自身の苦悩までも重なっているように思えるジャスティン・チョン。そしてかわいらしくまた一緒のトーンで演技を共有する素晴らしいシドニー・コワルスケ。
家族の絆が本物です。
だから予想できる感情揺さぶるフィナーレも、陳腐だというよりも先に涙が出ます。
ガッチリと見ている側を掴んでくれているから。
選択すること。
アントニオはキャシーとジェシーを選び、ジェシーもアントニオを選びました。家族とは選択であるのです。
家族と共にいることを選びたいとき、国や制度が人を選び排除する。その残酷さがラストシーン。
個人の問題として苦悩する男と家族を通して感情を揺さぶり、これが現実に起きていると伝えている。
役割も果たしながら強烈なドラマとして成立しているから、割とオーソドックスな話であろうとも、余剰のある脚本であってもこの作品に飲まれてしまいます。
ハマらない方にとっては陳腐で安っぽいメロドラマ。お涙頂戴の物語に映ってしまうかもしれませんが、私はこの家族の物語は必見と思いますので、是非劇場で鑑賞を勧めたい作品でした。
というところで今回の感想は以上。
最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。
ではまた。
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