「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」(2024)
作品解説
- 監督:リドリー・スコット
- 製作:ダグラス・ウィック、リドリー・スコット、ルーシー・フィッシャー、マイケル・プラス、デビッド・フランゾーニ
- 製作総指揮:ウォルター・パークス、ローリー・マクドナルド、レイモンド・カーク、エイダン・エリオット
- キャラクター創造:デビッド・フランゾーニ
- 原案:ピーター・クレイグ、デビッド・スカルパ
- 脚本:デビッド・スカルパ
- 出演:ポール・メスカル、ペドロ・パスカル、ジョセフ・クイン、フレッド・ヘッキンジャー、コニー・ニールセン、デンゼル・ワシントン 他
古代ローマを舞台に、皇帝の後継者争いの陰謀に巻き込まれ、剣闘士(グラディエーター)として過酷な戦いに挑む男を描いたスペクタクルアクション「グラディエーター」。
2000年にリドリー・スコット監督が生み出した作品は、アカデミー賞で作品賞や主演男優賞を含む5部門を受賞。
24年ぶりに続編が登場することとなりました。今回の主人公は、前作でラッセル・クロウが演じたマキシマスの息子ルシアスであり、彼を「aftersun アフターサン」でアカデミー賞にノミネートされたポール・メスカルが演じます。
さらに、デンゼル・ワシントンやペドロ・パスカル、前作から引き続き出演するコニー・ニールセンらが共演。
リドリー・スコットが再び監督を務め、脚本は「ナポレオン」、「ゲティ家の身代金」を手がけたデビッド・スカルパが担当。
「グラディエーター」って子どもの頃には実は観ていなくて、学生時代にDVDで初見だった気がします。当時もマキシマスのかっこよさに惚れこんだのを覚えてる。リドリー・スコットはデンゼルともラッセルとも「アメリカン・ギャングスター」でも組んでいたり、再コラボとかも多い印象。
今作も公開は楽しみにしていたので、公開週末に早速鑑賞。こういう大きな闘技場で戦う映画ですし、IMAXで観てきました。観客はちょっと少な目。
~あらすじ~
双子の皇帝により統治されたローマ帝国は、腐敗と戦乱に包まれ希望のない時代を送っていた。
ローマ帝国軍は将軍アカシウスを派遣し、北アフリカを侵攻。そこには愛する妻と暮らすルシアスがいた。
アカシウスの軍勢の侵攻で妻を失い、多くの同胞を葬られた彼は、アカシウスへの復讐を胸に誓う。
そしてローマ軍の捕虜、奴隷となった彼は謎めいた男マクリヌスと出会った。ルシアスの内に潜む怒りと復讐心に目をつけたマクリヌスは、彼を買いローマへと誘う。
マクリヌスが所有する剣闘士としての人生を歩み始めたルシアスは、力がすべてを決するコロセウムでの苛烈な戦いに身を投じ、復讐のための道を切り開いていく。
全ては全ローマ軍兵士、そして将軍の首を落とすために。
感想レビュー/考察
かつてあったファンタジーな続編案
24年間を開けて製作された今作ですが、2000年の「グラディエーター」以降企画自体は早い段階から既に存在していたようです。
ニック・ケイブによるこの脚本はオンラインで読むことができますが以下のような内容です。
ジュピターによる命を受けた彼は、神を裏切ったへパエストスを倒すためにキリスト教徒となり、再び現世へと送られ、そこでキリスト教を弾圧するローマ帝国と対峙する。
ローマへと道を進め皇帝ルシウスと向き合う彼は、映画の最後で不死の呪をかけられる。
それから十字軍の遠征や第二次世界大戦など、あらゆる戦争に関わっていくことになり、ラストではアメリカの国防総省で働くマキシマスを映す。
結局スタジオ側が脚本を採用せずこちらは映画化されませんでした。
ラッセル・クロウもあまり好きじゃないと率直な意見を伝えたようです。
なんとまあコミックっぽい感じです。見てみたい気もしつつグラディエーターじゃなくなってるような気もします。
荒唐無稽さを怒涛のアクションスペクタクルで押し流す
その点今作はグラディエーター(剣闘士)の続編としてその要素マシマシで強化されています。
前作の時にもトラをコーナーに配しての決闘などもありましたが、今作は立ち止まって考えると「ちょっと待てよ。」となってしまうギミックがモリモリ。
まず奴隷になってしまったハンナが最初にテストとして立ち向かわされるのが、よくわかんないデカイ猿です。あんなの地球上にいたの?というようなヒヒみたいな、なんかモンスターって感じです。
あれとプロレスしたうえで腕を食いちぎって吠えて見せるハンナには、マクリヌスよろしく笑みがこぼれます。いかれてやがる。
その後には闘技場にまさか水を満たして船を浮かべ、どっから連れてきたのかサメがうようよ泳いでいる。海水で満たしてあげたのね!
闘いの連続が、いい塩梅に入ってくるので、実はなんか薄い感じで関連性が見えにくいドラマパートが過ぎ去っていきます。
マキシマスとルッキラの間に生まれた子がルシアスだったとか、驚きの設定もでてきますが、それをよく考えるとさすがに変な感じがします。
ただあまり深く考えないでと言わんばかりに、次の闘いが展開されていくため、2時間28分の上映時間も割とあっという間に過ぎますね。
主人公はそこまで輝かない
そしてドラマパートは個人的には主人公のパートが微妙です。
孤児が戦士となり、一度は奴隷になるものの、再び戦士となり悪を倒そうとする話としては王道ですが、今作は主人公ハンナよりも圧倒的に魅力的なキャラクターとプロットがあるんです。
全部デンゼル・ワシントンがもっていく
それがデンゼル・ワシントン演じるマクリヌスです。
全てのシーンにおいて、全部持っていく力を放つデンゼル。グラディエーターの調達人でありハンナの所有者。
ハンナを使ってローマで何かを成そうと企む謎の多い男ですが、デンゼルの演技が輝いています。
彼はその存在感ですべてを飲んでしまうのですが、そこには笑顔の中に感じられる力や睨みを効かせた際の凄み以外のものもありました。
彼の所作です。ドレープのきいた衣装をまとっているため、ほんの僅かな動きでも全体が揺らめくように見える。
まるでダンスのような優雅さと、美しさをたたえ、一方で残虐性も見える。
破壊を目指す先に、より良い世界を追い求め変化する
元は奴隷の身であり、”ローマの夢”を掲げていた皇帝によって侵略されたマクリヌス。
理想のローマに戻すなどという目的はなく、完全にローマ帝国を転覆させ全てを掌握しようとする彼は、ハンナにとっては大きな影ともとれます。
ハンナもはじめは、アカシウスはじめ全てのローマ人を殺したいと願っていました。
それがマキシマスの闘い、彼の生前の行いの残響によって、考えを変えた。今の現状を変え、より良き世界を目指す方向へ。
気に入らない体制をただ破壊するのではなく、変えていこうという点での対比も見て取れるかと思いました。
深いところまで入り込んでこない登場人物たち
ただマクリヌス以上のキャラクターがいないというか、ルシアス=ハンナの設定だとか親子関係がなんだか薄く感じましたし、アカシウスも困り顔の似合うペドロ・パスカルを使っていながら結構あっさり退場させてしまう。
政治劇や奴隷の物語はあくまで脚本のページの上に記されただけであり、示される事実が展開するだけで深くのめりこむようなドラマになっていないのが惜しいです。
とてもいい俳優に、掘りがいのあるキャラクターがいますが、アクションスペクタクルとの関係で人が多すぎて処理するだけで手一杯な印象です。
最終的にエンディングでかかる”Now We are Free”はやはりずるいと言って良い力強さと美しさで、これをまた映画館で聴けるだけでも価値があるかな。
お話とか映画としては、やはりラッセル・クロウのマキシマスがあまりにかっこよくカリスマがあったことや、誰もが認めるホアキン・フェニックスのコモドゥスの悪役としての輝きがある前作と比べて分が悪いです。
とはいえ、こういう史劇映画とか事態が結構貴重ですし、映画館で観るべきスペクタクルとしては一見の価値ありでしょう。
今回の感想はここまで。ではまた。
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