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「ハムネット」【ネタバレ感想】“ハムレット”はなぜ生まれたのか?喪失を癒す芸術の力

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ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie 映画レビュー
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作品解説

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

「ノマドランド」のクロエ・ジャオが監督・脚本を手がけ、ウィリアム・シェイクスピアの名作「ハムレット」誕生の背景にあったとされる悲劇と愛を、フィクションを交えて描いた人間ドラマ。

原作は、マギー・オファーレルが2020年に発表し、英女性小説賞と全米批評家協会賞を受賞した同名小説になります。

主人公アグネス役には「ザ・ブライド!」「ワイルド・ローズ」「ウーマン・トーキング 私たちの選択」などのジェシー・バックリー。

ウィリアム・シェイクスピア役には「aftersun アフターサン」「グラディエーターII」ポール・メスカル。さらにエミリー・ワトソンジョー・アルウィンら実力派が脇を固める。

製作にはスティーブン・スピルバーグサム・メンデスが名を連ね、第98回アカデミー賞では作品賞を含む計8部門にノミネート。

今作でジェシー・バックリーが主演女優賞を受賞しました。

スタッフ

  • 監督/脚本:クロエ・ジャオ
  • 原作:マギー・オファーレル
  • 脚本:クロエ・ジャオマギー・オファーレル
  • 製作:リザ・マーシャル、ピッパ・ハリス、ニコラス・ゴンダ、スティーブン・スピルバーグサム・メンデス
  • 製作総指揮:クリスティ・マコスコ・クリーガー、クロエ・ジャオ、ローリー・ボーグ
  • 撮影:ウカシュ・ジャル
  • 美術:フィオナ・クロンビー
  • 衣装:マウゴシャ・トゥルジャンスカ
  • 編集:クロエ・ジャオ、アフォンソ・ゴンサウベス
  • 音楽:マックス・リヒター

キャスト

  • アグネス・シェイクスピア:ジェシー・バックリー
  • ウィリアム・シェイクスピア:ポール・メスカル
  • メアリー・アーデン:エミリー・ワトソン
  • バーソロミュー:ジョー・アルウィン
  • ジュディス:オリビア・ライン
  • ハムネット:ジャコビ・ジュプ
  • ハムレット:ノア・ジュプ

東京国際映画祭の柄セレクションで一足先に鑑賞し、昨年の個人ベスト10にも載せていた作品です。素晴らしい作品なのは承知の上、もう一度見たくて公開してすぐ週末に行ってきました。

非常に残念なのが、あの名探偵アニメと公開日がかぶったこと。。。名探偵アニメは1日48回くらいやっていますが、こちらはスクリーンを譲って1日2回(しかも1回はレイトショー)。

そのおかげで客が集中したのか、かなりスクリーンは混んでいました。

〜あらすじ〜

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

16世紀末のイングランド。小さな村で暮らす貧しいラテン語教師ウィリアム・シェイクスピアは、自然を愛し自由奔放に生きる女性アグネスと出会う。

強く惹かれ合った2人は情熱的な恋の末に結ばれ、やがて3人の子どもに恵まれる。

しかし、ウィリアムはロンドンで演劇の道を切り開こうと家を離れ、アグネスは残された子どもたちを守りながら一人で家庭を支え続けることになる。

やがて一家に訪れる大きな悲劇。かつて揺るぎなかった夫婦の絆は、その出来事を前に大きく試されていく

感想レビュー/考察

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

芸術が喪失を癒す――「ハムレット」誕生の物語

クロエ・ジャオ監督が生み出した、シェイクスピアの名作の製作秘話。それは喪失に真正面から向き合い、癒すもの。

芸術を通して人が何かを処理し乗り越えていくさまであり、そして映画というものが根源的に私たちに与える心の波紋です。

歴史の再解釈であり、そして人類史に残る名作の裏側を二次創作的に作り上げた、ジャンル映画っぽい立ち位置ですが、各セクションのレベルの高さに圧倒される。

自然を捉えたショットの美しさに、部屋の中は美術や証明含めて絵画のようなキメキメの画が最高に美しい。

そして演者ですね。アカデミー賞で主演女優賞を獲得するのも納得なジェシー・バックリー。

負けじと応戦するポール・メスカルも良いですが、とりわけ息子ハムネットを演じたジャコビ・ジュプくんの素晴らしさも必見です。

「ハムレット」という悲劇の再確認

さて、この作品がシェイクスピアの「ハムレット」の製作を描く以上、簡単にハムレットの話を振り返ります。

デンマーク王の息子として生まれたハムレット。

しかし父が急遽亡くなり、叔父であったクローディアスが母と再婚。

自身の王位継承や父の死の不自然さから、クローディアスを疑う彼は復讐の旅に向き合い、最後は決闘でクローディアスを討ち果たす。

しかし自身も仕込まれた毒により亡くなってしまう。

ざっくり言えばこんな話です。

結局は想いを遂げたようで、しかし主人公の死を持って幕を閉じる悲劇として有名ですが、死や運命を受け入れていく話としても解釈されています。

その裏側に迫るのが今作ですが、実は筆者のシェイクスピアというよりは、その妻アグネスが主人公のような作品になっています。

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

三幕構成で描かれる愛と喪失

映画は3幕くらいの構成です。

家族のなかで除け者になっているアグネスとウィルが惹かれ合い、子供をもうけていくまで。

ウィルの成功と、ペストの流行で息子ハムネットが亡くなってしまうパート。

そして最終幕は、名作ハムレットが完成し舞台上映が行われる。

OPでは森の中、アグネスが大きな木の根元に丸くなって寝ているところから始まります。

どうやらこのアグネスのショットは、フレデリック・レイトンによる「フレイミング・ジューン」という絵画からインスピレーションを受けているらしいです。

フレイミング・ジューンには諸説がありますが、ギリシア神話の精霊ニュムペーを着想に描いたののであると言われます。

アグネスは森の魔女の子とも言われるように、スピリチュアルで森のことに詳しく、様々な薬草やおまじないにも長けています。

そんな精霊や妖精のようなキャラクターの容姿から、クロエ・ジャオ監督はこのショットと構図を持っているということがアグネスを登場させることにしたのでしょう。

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

孤独な二人と“森”という居場所

彼女が家に帰ると、家庭教師としてやってきているウィルと出会う。何かを感じ取る2人はすぐに距離を詰めていきます。

それもそのはず、2人は自分の家でとんでもなく居心地の悪い状況なのです。

アグネスは継母に気に入られておらず、未婚であることをなじられたり。ウィルはその文才が家業である革製品の製作に活きないことで、無能、役立たずと言われ頭を叩かれる。

アグネスは赤、ウィルは青。それぞれ色を持っていてそれは周囲のどの人とも調和していない。

孤独な2人がそれぞれに惹かれ合うのは自然なことです。そして2人が逃げ出す先として、森があるのですね。

緑と赤と青と。光の三原色がそろい、そこに二人の調和した世界が出来上がるということです。

非常に美しい1幕目の中で、後半への目くばせが多くある。そして悲劇が訪れた後、最終幕ですべてが昇華されていきます。

酔ったウィルが危惧していたこと。それは自分も自分の父親のように粗野な男になってしまうこと。自分の息子を守れないこと。

アグネスもまた恐怖を抱えている。親を失っている彼女は、愛する家族の喪失を恐れているのです。

喪失がもたらす断絶と内面の崩壊

最愛の息子の死という、最悪のことが降りかかることになってしまい、夫婦には亀裂が走ることになります。

夫婦がまっすぐに向き合わなかったり、物理的距離もとる。喪失は怒りや絶望、そして自責になっていく。

アグネスは歪み怒りに満ちる。

子どもたち以外を跳ね除けて、また森のなかで丸くなっていたときのように、塞ぎ込んで周囲を拒絶してしまいます。

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

贖罪を込めて

ウィルは自分自身を非難するような演劇を書き上げていく。彼が演劇の練習をしている際になんどもセリフ言い直させているシーン。

「自分でも誠実な男と思っていたが、粗暴で嘘つきで欲深く。。。」これは彼が彼自身をとことん叩きつけて攻撃しているようにしか見えません。

演劇という創作を通して、自分を罰しているのです。

ウィルは後にアグネスがそのロンドンでの住まいを訪れますが、屋根裏の狭い場所。

アグネスの弟バーソロミューが「屋敷を買えるような男がなぜこんな場所に。」というように、あまりに狭く暗く。

これもまた、ウィル自身が自分を罰しているのだと思います。小さく狭く、天井は低い中こそ、自分にふさわしい牢獄なのだと。

ウィルがロンドンからすぐに帰らなかったのは、自分がペストを運んでしまうのを恐れたからなんですが、にしても辛いことです。

ウィルにとっての救いは芸術でした。

芸術に全てを込めておくこと。自らを罰することもそして癒しも。

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

言えなかった別れ、伝えられなかった言葉

ウィルが書き上げたハムレットのなかで、亡霊となった王がハムレットと会い、別れるシーンがあります。

ウィルが国王を演じ、そして若い俳優(ノア・ジュプ)がハムレットを演じる。

そこで王の亡霊はもう別れる時間だといいます。

”Adieu”(さらば)と3回唱えて舞台を後にするウィルですが、これはそのままウィルが息子ハムネットに言えなかった別れを言い直していることになります。

まさび1幕目の終わり、ウィルがロンドンへ行く際にハムネットと別れるシーン。

家の中コーナーを広角でとらえた画面構成の妙が目を引きますが、ここでもウィルはハムネットに”Bye”と3回言っているんです。

この時は、まさかこれで本当にお別れになってしまうとは思っていなかった。

ウィルは自分の息子の死に立ち会うことができなくて、そしてちゃんとお別れを伝えることもできずにいた。

さまよう亡霊はまさにウィル彼自身であり、そんな彼が劇を通して息子に別れを言える。

だからこそこのハムレットの悲劇という芸術そのものが、ウィルの魂の癒しなのです。

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

再び“向き合う”ということ

そしてこの劇を見たアグネス。彼女にとっても息子を送り出すことになる。心の整理。

加えて、アグネスはウィルともう一度向き合う、互いを見つめることになります。

ハムネットの死後は互いに見ることをやめた。でも、この二人の絆は見るところから始まった。

森の中一人で過ごすアグネスにウィルが近づく。

「何をしているの?」とアグネスに聞かれたらウィルが「君を見ている。」と答える。

そして酔って自暴自棄になったウィルに、アグネスは何度も「こっちを見て。」と繰り返す。

互いを見ている関係性が、劇を見る、あそして劇の人物が観客を見るという構図にシフトし、この夫婦は今一度お互いに向き合うことができた。

ハムネット映画ネタバレ感想クロエジャオ監督_ジェシーバックリーhamnet2025movie

人には物語が必要

森のなかでの会話ではもう一つ大切なセリフがあります。

「僕は人と話すのが苦手なんだ。”物語”なら得意だ。」「じゃあ物語を聞かせて。」

オルフェウスの神話を語るウィル。

それは、死は不可逆なものであり逝く人をとどめることはできないという神話。ハムネットの死とそれを受け入れる夫婦の運命を暗示します。

そして、ウィルは言葉通り、対話が苦手だった。だからこそ彼の想いを全て物語「ハムレットの悲劇」に込めて妻に送ったのですね。

芸術が人を備えさせ、人生の整理をさせ、コミュニケーションとなり、魂を癒していく。

その凄まじい力を芸術のなかの芸術という多層構造で描き出した非常に美しい映画なのです。

最終幕のキレも素晴らしい。

ハムレットが「そして沈黙。」というセリフの入った後、この映画もまたそれが最後のセリフになっている。

後は俳優陣の所作、目線、表情。美しいマックス・リヒターの音楽に包まれて、そのままエンドロールまで連れて行ってくれる。

このクライマックスが心に言葉にできない穏やかな波紋を響かせて、観客を送り出す。

本当に美しく優しく素晴らしい作品でした。感想が長くなりすぎましたが、以上。

それではまた。

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