「キス・ミー」(2011)
- 監督:アレクサンダー・テレーセ・キーニング
- 脚本:アレクサンダー・テレーセ・キーニング
- 原案:ジョセフィーン・タンブラド、アレクサンダー・テレーセ・キーニング
- 製作:ジョセフィーン・タンブラド
- 音楽:マーク・コリン
- 撮影:ラグナ・ヨルミン
- 編集:ラーズ・グスタフソン、マリン・リンドストローム
- 出演:リヴ・ミョーネス、ルース・ベガ・フェルナンデス、レナ・エンドレ、クリスター・ヘンリクソン、ヨアキム・ナテークビスト 他
作品概要
スウェーデンのアレクサンダー・テレーセ・キーニング監督によるある女性たちの出会いと彼女たちの選択を描いたロマンス。
リヴ・ミョーネスとルース・ベガ・フェルナンデスの二人がお互いに恋に落ちる女性を演じています。
作品は日本でもレズビアン&ゲイ映画祭にて上映があったようです。
第21回レズビアン&ゲイ映画祭公式サイト 作品紹介「キス・ミー」のページはこちら
私はその機会には観ていなくて、今回は海外版ソフトでの鑑賞となります。
私自身がこの作品を知ったのは結構前で、LGBT関連の批評というよりはファン、映画好きのランキングに何度か見かけたことで知りました。
もう7年とか経ってからやっと見ました。
~あらすじ~
父の再婚パーティに、自身の婚約を発表するためにフィアンセを連れてきたミア。
彼女はそこで父の再婚相手の娘、自分にとって義理の姉妹になるフリーダと出会う。
再婚の式に向けて、そして自分の結婚に向けて準備を進める中で、ミアはフリーダと過ごす。
そして二人で森の中へ散歩に行ったとき、ミアはフリーダにキスをした。
自分でもなぜしたのかはっきりと分からないミアに、フリーダは「なかったことにはできない」と言い、また優しくキスをする。
2人の関係は深まるが、ミアは婚約者への裏切りの罪悪感と、フリーダへの強い思いに葛藤していく。
感想/レビュー
ある愛が大きな波を立ててすべてにぶつかっていく
義理の姉妹に恋をしたなんて言葉ですと、なんだかすごく安っぽく聞こえるかもしれませんが、キーニング監督はそんな題材をもっと広い家族ドラマとして展開し、人物それぞれを余すところなく描写しています。
またもちろんセンターとなるミアとフリーダのアンサンブルやロマンスも美しいもので、自分の発見を含めて単純な恋愛ものにはなっていません。
印象としては非常に美しいロマンスを中心とした、人の関係性変化、個人の自己認識の影響の波を描いた作品だと感じます。
ミアが自分のセクシャルオリエンテーションを発見し、それが彼女の婚約者にはもちろん巨大な衝撃となり襲いかかるわけですが、さらに親と再婚相手においても彼らの関係を揺り動かします。
もちろんそれぞれの考えや想いというのがぶつかり合ってしまう関係性になりますが、主軸の二人だけが正しいわけではなく、どの人物にもそれぞれ失うものがあり共感できます。
悪役みたいなものを安易に設定していないというのも良い印象です。
ミアはティムと築いてきた人生を捨てることに抵抗があり、またティムに対する罪悪感にかられます。
フリーダとしてもミアを愛するからこそ、彼女がそうして傷つくことを嫌うのです。
そしてエリザベスとラッセは、再婚パーティで二人を引き合わせなければこうならなかったのかとも思いますし、またここでセクシャルオリエンテーションの異なる人物を家族に持つことに対する意識の違いにぶつかります。
しょっぱなから夫婦の危機に陥るわけです。
そして最も悲惨なのはティム。
ミアの本当の気持ちは彼にとってあまりに突然で、そして彼が築いてきたものも全て、期待していた未来すらすべて崩れていくのです。
ミアを愛するティムとしては、彼女の幸せを願いたいものですが、それはイコール自分の人生を壊すことになるわけで、かなり残酷です。
車中からミアとフリーダを見つけたシーン。大きなリアクションせず、まるで見間違いと願うようなティムが痛々しいです。
フリーダの恋人も、その後のミアへの態度まで描いた、登場させたのは正解と思います。世界は自分中心ではないわけですね。
美しくやわらかな画面
で、結構大きな波を起こすこのミアとフリーダなんですが、基本的には多幸感にあふれている気がします。
まず画ですね。とにかく画が美しいのです。
やわらかな光や色合いにまとめられていることの多い、強すぎない光を用いての撮影、特に二人のラブシーンにおける穏やかな色彩が好きです。
そして印象的なシーンも多く、呼応が聞いている点も好きです。
割と暗めの舞台における初めのころのキスがあり、そこから相手を真っすぐ見るような明るい舞台でのラブシーンがあります。
お互いを探し出すというシーンが呼応する
そしてとりわけ、フリーダがミアを探し出す構造が繰り返されるのが特徴です。
初めはあの島で、茂みの近くで一服していたミアをフリーダが探しに来るシーンです。これは単純に探していただけですが、のちにミアがフリーダの仕事のコンサート会場に来たシーンでも、同じくフリーダがミアを探すシーンがあります。
「こんなところに隠れていたのね。」というセリフが2回出てくるわけですが、2回目には、これがフリーダによってミアのセクシャルオリエンテーションが見出されたという意味につながるわけです。
心にあったゲイ(バイセクシュアル)の部分、ミアの本質は、フリーダによって見出されたわけですから。
どちらかと言えば受動的だったミアが、最後には自ら行動を起こしてフリーダを探しに行くのです。
だからこそラスト、一人でいるフリーダのもとにミアが現れることに感動しますね。今度はミアがフリーダを探し出したわけですから。
ここに、互いを見出すという構造が完成し、ミアとフリーダが完全に向き合う。一度は離散を思わせる展開からこのラストの幸せと二人の未来を予感させる流れで持っていかれました。
あと、こんなことを言っては身もふたもないですが、このリヴ・ミョーネス、ルース・ベガ・フェルナンデスの二人がすごい画になるのも大きいです。
リヴにアプローチされればおそらくどんな女性も落ちます。そしてルースに急にキスされたらなかったことにはできないです。これはズルい。
スウェーデンからLGBTを主軸にしたロマンス、ポジティブに終わっていくことやメインの二人の相性の良さなどとてもいい作品でした。
今回の感想は以上になります。
構成的に自分が好きな「キャロル」に似た点があるゆえ気に入ったのもあるかと思います。
見る機会があればおススメの作品です。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
コメント