「ポライト・ソサエティ」(2023)
作品概要
- 監督:ニダ・マンズール
- 製作:ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、オリビエ・ケンプファー、ジョン・ポーコック
- 脚本:ニダ・マンズール
- 撮影:アシュリー・コナー
- 美術:サイモン・ウォーカー
- 衣装:PC・ウィリアムズ
- 編集:ロビー・モリソン
- 音楽:トム・ハウ
- 出演:プリヤ・カンサラ、リトゥ・アリヤ、アクシャイ・カンナ、ニムラ・ブチャ 他
~あらすじ~
ロンドンのムスリム家庭に育った高校生リア・カーンは、スタントウーマンを夢見てカンフーの修行に励む日々を送っている。しかし、学校では変わり者扱いされ、両親からもその将来を心配されている。
そんな中、芸術家を目指す姉のリーナだけは、リアの唯一の理解者だった。ある日、リーナが富豪の息子であるプレイボーイと恋に落ち、結婚して海外へ移住することを決意。
リアは彼の一族に不信感を抱き、調査を進めるうちに結婚の背後に驚くべき陰謀が隠されていることを知る。大切な姉を守るため、リアは友人たちと協力し、結婚式を阻止しようと立ち上がる。
感想レビュー/考察
ジャンルミックスとエネルギッシュさで固定観念や家父長制をぶっ飛ばす
イギリス映画ではありますが、魂はボリウッドな感じのある作品。
ムスリム女子が主人公ながら、オタクでパワフル。青春映画であるし、SFスリラーであるし、家族の物語だしアクション映画でもある。
ジャンルミックスされた奇抜なこの作品は、きっと何度も(いい意味で)どこへ向かうのか分からなくなる勢いがあり、破天荒でヘンテコな映画ですが、エネルギッシュでとにかく楽しい。
ベースに敷かれているのは、女性の権利やエンパワーメント、そして文字通りもそうでないにしてもシスターフッドだと思います。
ほとんどの登場人物たちが女性ですし、身体の権利に絡んだテーマになっています。
ある意味で強制的な結婚とか、女性が子供を産むことを期待され道具のように扱われるなどは、家父長制があり、それに対しての反抗も見て取れます。
ただ社会研究のような直線的に描かず、ノリの良いサントラとキャラ立ちしすぎる登場人物たちで彩っています。
プリヤ・カンサラがすっごく魅力的
主人公は今作で初めての長編映画出演でいきなりの主演を任されることになったプリヤ・カンサラ。
この子がすっごく良いです。スタントウーマンを目指して邁進して、動画投稿をしているリアは、変わり者扱いをされている。しかし持ち前の明るさと突っ走る勢いが最高です。
今作は青春ティーン映画でもありますから、仲間内での恥ずかしいのに本人たちが最高に気に入っている握手とか、少しのことでも全世界の一大事みたいに捉えるところとか、ティーンの味わいがあります。
あまりにやりすぎて大人がついていけないところとかも。ところどころ、そいったティーンの空想ファンタジーなのか、実際に起きているのか分からない曖昧さもいい意味で特色になっています。
ちなみに今作のアクションについてはプリヤ本人が実際にスタントをしているそうです。
作中のリアはまだまだアクションの修行中ですし、回転キックを成功させることが作中の課題にもなっている。決して最強キャラではなくて、失敗も多いしやられてしまうことも多い。
だからこそ、完璧ではない失敗する姿も含めて本人が頑張ることでリアルさが出ていますね。
女性が固定観念に押しつぶされることへの反抗
彼女にとっての今作での事件は、同じように画家という夢を持っている姉が結婚すること。そこには女性が固定観念に屈することも含まれます。
リア自身がお姉ちゃんに励まされ、画家を目指す姿を追い勇気をもらっていた。そんな姉が自ら夢を捨てて”女性にとっての幸せ”に落ち着こうとしているのに危機を感じるわけです。
アーティストというのは不安定な仕事です。序盤の姉は美大を中退してフリーター。不安定なスタントウーマンになろうというリアにも両親が反対する。
結婚、安定、子どもを産む。リアの将来とは対極であり、大人たちは皆姉をその渦に落とし込んでいくのですから、大反対していくのはうなずけます。
途中で悪の親玉であるラヒーラと最初の対決をしますが、それがまさかの脛の脱毛という笑。
でもこれもしっかり、”女性は肌を手入れしてムダ毛処理をするものだ”という固定観念と、それに反抗するリアという図式になっているのですよね。
ユーモアの中でストーリーテリングをしていてスマートです。
ただここのやり取りにおいて、すべての習わしとかを否定していないのは良い感じのバランスです。ラヒーラに謝りに行くところでお菓子を持っていくところは南アジアらしいところですし、そもそも悪党が男ではなくてラヒーラという女性なのです。
女VS女性のアクション映画、すべてのマイノリティのエンパワーメント
今作はラヒーラとリアの直接対決の他、終盤には結婚式会場にいた女性たちとのバトルがあります。伝統衣装のグリーンが映えるリアは、ダンスでの宣戦布告からカッコいい。
ちなみにダンスではいわゆる踊りよりも闘いの舞のような、格闘技の動きがあったり、「マトリックス」のような動きもあるなど独特ですごく良かったです。純粋に美しくかっこいいんです。
対戦形式になった際に、それぞれの名前が画面上に出る演出はまさに「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」のようであったり、様々な映画からの引用も見えます。
女性同士の格闘アクションが、しかも南アジアの伝統衣装で展開されるのが、これまでのアクション映画ではない新鮮な風を感じます。
姉妹の共闘という熱い戦いで、支給を目当てにしているクソどもをぶっ飛ばす。
このスクリーンには新時代が映っていました。これまで多くが白人の、男性に牛耳られてきたジャンルにおいて、革新的な作品になっているのです。
プリヤのインタビューで、彼女は実は3年前までは製薬会社の広報であったと語られています。
俳優を目指したかったけど、そこには枠がない。才能の問題もある中で、マイノリティがそもそももらえる枠がないのです。
プリヤに憧れ次のリアが生まれる
そのなかで近年は少しづつ多様性が増してきて、チャンスが増えた。
ほとんどがアフリカ系俳優で作られたスーパーヒーロー映画「ブラックパンサー」から、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」などのマイノリティ主演の映画もあります。
リアはユーニス・ハサートに憧れて奮闘します。きっと今作も、リア(プリヤ・カンサラ)に憧れて夢を追う少女たちを生み出すでしょう。ニダ・マンズール監督も今作が初の長編ということで、今後にも期待です。
その意味でも素晴らしい瞬間を目撃できたと思う作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。
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