「レッド・ロケット」(2021)
作品概要
- 監督:ショーン・ベイカー
- 脚本:ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ
- 製作:ショーン・ベイカー、アレックス・ココ、アレックス・サックス、ツォウ・シンチン
- 製作総指揮:ベン・ブラウニング、アリソン・コーエン、ミラン・ポペルカ
- 撮影:ドリュー・ダニエルズ
- 編集:ショーン・ベイカー
- 出演:サイモン・レックス、スザンナ・ソン、ブリー・エルロッド、ブレンダ・ダイス、イーサン・ダルボーネ 他
「タンジェリン」、「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」などのショーン・ベイカー監督が数年ぶりに監督するのは、落ちぶれたポルノ俳優の地元帰りの物語。
自身もポルノ俳優の経験を持ち、音楽やコメディシーンで活躍するサイモン・レックスが主人公を努めます。
その他ブリー・エルロッドやブレンダ・ダイスが出演。またショーン・ベイカー監督自身がスカウトしたスザンナ・ソンが、主人公が入れ込むドーナッツ店の店員役で出演しています。
A24配給で2021年には北米公開されていた今作ですが、日本公開は1年以上開いてしまいました。
正直ショーン・ベイカー監督の新作なのに、あまり情報を拾えておらず4月公開作品の一覧チェック時に気づきました。
公開週末に観に行ってきましたが、結構人が入っていました。
〜あらすじ〜
ポルノ俳優としてロサンゼルスで活躍しつつ、落ち目になったマイキーは故郷のテキサス州の田舎町に戻ってきた。
置いていった妻と義母の家に転がり込んだマイキーは、真面目に金を稼ぐというものの仕事は見つからない。
結局マイキーは地元の麻薬販売を手伝い金を稼いでいくことに。
とはいえまとまった金を手にして、険悪だった妻も義母も少しだけマイキーを見直し始めていた。
しかし、そんなときマイキーに出会いがあった。
地元のドーナッツ店の店員”ストロベリー”に一目惚れし、彼女をポルノスターへ押し上げることで自分自身のロサンゼルス、ポルノ業界へのカムバックを果たそうと思い立ったのだ。
感想/レビュー
アメリカ社会の片隅
ショーン・ベイカー監督はこれまで「タンジェリン」でも「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」でも、普段目を向けられないような、アメリカ社会の片隅に生きる貧しい層へカメラを向けてきました。
なかなかスクリーンには映し出されないトランスジェンダーの娼婦、またモーテル暮らしの親子。
そしてそこには、独自のコミュニティと町の空気があり、映画らしいのですがドキュメンタリーのようにも見える。
作品内では特にセックスワーカーについて変な気遣いはなく登場しています。
その監督の作家性は今作でも同様であると思います。なので映画スタイルはこれまでの作品が好きならハマるかと。
毒の強さに困惑
ただ大きな転換として、今作の主人公の設定があると思います。
これまでの監督作では、同行していく主人公にはなんらかのつながりが持てました。むしろ入りやすくしてくれた印象がありました。
しかし、今回の主人公マイキーは別です。
彼自身が全くの毒ですね。自己主張やナルシシズムの強さ、かかわる人間への軽薄かつ不信用な言動。
ここにライドしていくわけなので好みが分かれます。
とにかく目の前の事象にたいして間違った行動しかしない。
笑ってしまうほどに他責であり自分大好き。
40過ぎたおっさんが17歳の女の子みて「最高にエロい」と言いながらナンパして手を出すだけでもグロテスクですが、さらにマイキーはこの少女をポルノ業界へのカムバックチケットとしてみているのです。
自分もヤリたいし、彼女にヤラせて返り咲きたい。なんとも身勝手かつ倫理的にもアウトすぎる主人公。
不思議と楽しんでいける
そんな聞いただけだと危なすぎる主人公ですが、ストロベリーの件以外にもいろいろとやらかします。
ただ、全体にはなぜか憎み切れないというか、普通に嫌いだけど映画を見ていく上で多用されるズームインくらいに引き込まれます。
ここがうまく言葉にできないのですが、ちっぽけさに悲哀があることが大きいでしょうか。絶対的負け組であるマイキーだからこそ、見せてたらほんとに可哀そうと思える。
なので周囲にとって害悪であっても見続けていける。
もちろん、演じたサイモン・レックスのいい具合の軽薄さと哀れさが最高なのですが。
現地入りさせてくれる素晴らしい撮影
全体のテキサスの町や人びとを映し出す撮影。
これまでにも「イット・カムズ・アット・ナイト」や「WAVES/ウェイブス」で素敵な画づくりを見せてきたドリュー・ダニエルズ。
今作は16mmフィルムを使ってあえてザラつきを残した撮影を行っています。
それが洗練されていない荒さだったり、テキサスの熱さや砂埃、湿気などの空気感を強めています。
昼も夜も、本当にその地にいるような、マイキーと一緒に里帰りしたような感覚が格別です。
車の中で受ける窓からの風、日光の刺すような暑さ、さらに夜に自転車に乗ったり走ったりしているシーンがありますけど、夜闇の肌触りすら感じるほどでした。
空気のつくり方や役者がそろい、ものすごくサイテーなアホ男すら、どこか愛せてきてしまうという映画の魔法が見えた作品。
これまでの作品に比べるとなんとも取っつきにくい主人公ではあるのですが、そこふくめてショーン・ベイカー監督はまた一つ、普段の観客が触れることのない人物に同行させてくれました。
マイキーもまた、普段カメラを向けられないアメリカ社会の片隅に住む人なのですね。
倫理的な部分でやっぱりもどかしい感じもしますけど、全体には楽しめた作品でした。
今回の感想はここまでです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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