「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」(2018)
- 監督:ステファノ・ソリマ
- 脚本:テイラー・シェリダン
- 製作:バジル・イワーニック、エリカ・リー、サッド・ラッキンビル、トレント・ラッキンビル、エドワード・L・マクドネル、モリー・スミス
- 音楽:ヒルドゥル・グズナドッティル
- 撮影:ダリウス・ウォルスキー
- 編集:マシュー・ニューマン
- 出演:ジョシュ・ブローリン、ベニチオ・デル・トロ、イザベラ・モナー 他
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるメキシコ麻薬カルテルをめぐる闘いを描いた「ボーダーライン」の第2作目。
監督は交代して、ステファノ・ソリマが担当。エミリー・ブラントは出ませんが、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリンが引き続いて出演し、「トランスフォーマー: 最後の騎士王」のイザベラ・モナーがカルテルのボスの娘役で出演しています。
前作はアカデミー賞にて脚本などノミネート、無慈悲な世界や独特の作りで、監督と何より脚本家テイラー・シェリダンの名を知らしめました。
公開の週末に早速観てきたのですが、入りはそこそこでしたね。まあ題材もありますし、続編ですし。
アメリカとメキシコの国境では、毎日のように不法入国を試みる者と、それを阻止する政府機関との闘いが繰り広げられている。
ある日、スーパーマーケットで複数の男が自爆テロを引き起こす。そして捜査の過程で、男たちはメキシコ麻薬カルテルの力を借りて不法入国した者だと推測され、テロの片棒を担いだカルテルへの徹底した攻撃が命令された。
任務にあたるマットは、カルテルへの復讐を抱えるアレハンドロを加え、メキシコ麻薬カルテル同士に戦争を起こさせるべく工作を開始する。
ステファノ・ソリマ監督がここで見せているのは、前作のラストのアレハンドロの言葉を借りれば、”狼たち”の世界です。
善悪の境界線だの、越えてはいけない倫理的な一線なんてもう存在しない、激しい暴力や理不尽、そしてルールのない残酷な世界が描かれます。
冒頭はなんの説明もないままに、国境警備隊による制圧から自爆、そしてスーパーマーケットの長回しによる臨場感溢れる、少女まで巻き込む悲惨な自爆テロが描かれます。
間髪をいれることなく、マットを紹介しながらの、ただの殺戮でしかない尋問シーンに進んでいく今作は、前作でのケイトの視点のような、私たち側の考えすら介在しません。ケイトが入り込む余地は完全になくなっており、続編ながら別世界と言ってもいいくらいでした。
暴力のレベルや理不尽さと怖さは格段に強まっていますね。誘拐シーンや後半での襲撃シーンなど、車中にカメラを固定したままの長回しはその場に放り込まれたようでとても怖かったです。
ただし、前作にあった全容の把握できないカオスは、狙いもあって控えめです。
一応はマットやチームそして国防長官との会合で今作はミッションの全容が語られます。
この点においてが、現アメリカ社会の置かれた状況が色濃く出ていて興味深いところでした。
麻薬の運搬はコストがかかる。しかし人間は別。今や国境警備の強化によって、逆に人間を運ぶ、つまり不法入国ビジネスが流行っている。
トランプ政権の政策にたいしてかなり厳しくしかし説得力もある皮肉を突きつけています。赤ちゃんを連れた母親が密入国の斡旋組織の人間を送る仕事をしている点でも、敵は必ず外にいるわけでもないことが見えますね。
その敵の存在ですが、初めはマットたち側の視点ゆえに比較的クリアな全容が与えられることも巧い仕掛けだと後で分かります。
結局は大義を失うんです。
メキシコ麻薬カルテルの撲滅には大義は一応はありました。
しかし、今回は不法入国者による自爆テロへの対抗として虐殺や誘拐までしていたのに、結局犯人の身元が割れた時点でマットたちが宙吊りになるのです。
アメリカ生まれ、アメリカ育ちのテロリスト。移民を入れなければ良いというナショナリズムには鋭いカウンター。
実際、アメリカ国内や欧州でのテロに関しても、ISISや過激派、外からの敵ではなく自国民が牙を剥いたケースがありますし、大義を失う点では、大量破壊兵器がなかったイラクから続いて何も変わっていない現実が見えます。
そんな風に大義を失った上に、マットには狼たちの世界ゆえの厳しい任務が与えられのですが、この点から今作は前作に対して別の切り口で獣たちを見せてくれました。
耳の聞こえない男や彼の家族との交流が、アレハンドロとイザベルを絶妙に近づけていて良かったと思います。
手話がかなり良いポイントですね。
手話で語ると、どうしてもその内容をイザベラがアレハンドロに尋ねるようになるわけです。これからサバイバルをしていくわけで、情報はしっかり手に入れたいのですから。
もちろんそのおかげで、変に身の上話をさせずに、アレハンドロとイザベラの関係性や繋がりが見えてくるようになっているんですね。スマート。
狼たちの世界で少しだけ見える人の心。
復讐の対象でありつつも、娘つまりこの世界に飲まれる前を思い出させてくれる存在であるイザベラ。
イザベラにとっても、生まれながらにこの暴力の世界と生きてきたわけで、アレハンドロは一般人でなく狼なのに人の心を見せた初めての人間だったのだろうと考えました。
マットもサンダル野郎で虐殺者ですが、どうしてもアレハンドロを、そして彼が守ろうとしたイザベラを始末できませんでした。
私としてはそういう点でみると今作は前作よりも無慈悲なのにどこか希望を感じさせる作品です。これだけ狂っても、私たちは誰かを思いやる心を持ち続けられるのかも知れないですから。
最終的には、ヨハン・ヨハンソンのあの”Beast”のスコアが流れ、狼となった少年とアレハンドロとの再会があり、Sicario/暗殺者の未来を感じさせる恐ろしいエンディングには進みますけど、この先にアレハンドロがどんな世界を描くか楽しみです。
アメリカの、というか国際社会が置かれた、目的も敵も何もかも分からない恐怖の現代を映し出しながら、ほんの少しでも残った良心を見せてくれる作品でした。
臨場感や恐怖を直に感じる上でも劇場鑑賞がおすすめです。
今回はこのくらいで。それではまた。
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