「ソウルフル・ワールド」(2020)

  • 監督:ピート・ドクター
  • 脚本:ピート・ドクター、マイク・ジョーンズ、ケンプ・パワーズ
  • 製作:ダナ・マーレイ
  • 音楽:トレント・レズナー、アティカス・ロス
  • 撮影:マット・アスプリー、イアン・メギッベン
  • 編集:ケビン・ノルティング
  • 出演:ジェイミー・フォックス、ティナ・フェイ、レイチェル・ハウス、アンジェラ・バセット、アリシー・ブラガ 他

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ピクサースタジオが、魂の姿になってしまったジャズピアノ奏者と、世界に生まれる前のひねくれ者魂がそれぞれの生を見つけるため奔走するアドベンチャーを描く作品。

監督は「モンスターズ・インク」や「インサイド・ヘッド」などを手掛け、その他ピクサーの多くの作品で原案や脚本を手掛けてきたピート・ドクター。

声の出演として、主人公をジェイミー・フォックス、生まれる前の魂役はティナ・フェイが務めています。

ピクサーはちょうど同じ年に「2分の1の魔法」を公開し、今作は23作目となりますが、前者と異なり、今作はディズニー+での配信での公開となりました。

元々は映画館公開が予定され、予告も劇場で流れていたんですがね。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受けての公開方法の切り替えとなったのです。

ちなみに同様に配信公開への切り替えが行われた「ムーラン」については、ディズニー+の加入に加えてライセンス料?が別途必要でしたが、今作は加入者なら誰でもそのまま観れるようです。

私も実はディズニー+加入者(ほぼ使っていないのでもったいないですが)なので、今回は観てみました。

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NYCでジャズ・ピアニストを夢見ながらも、中学で非常勤の音楽教師をしているジョー。

そんな彼にある時転機が訪れ、有名なジャズ・クラブでの演奏のチャンスをゲットしなのだ。

しかし、なんとジョーはマンホールへ落っこちてしまい、気づくと魂だけの存在として、人生の後と前のはざまの世界にいた。

そのソウルの世界で何とか現実の自分の身体に戻ろうとするジョーは、生まれる前の魂である22番の教育係(メンター)となる。

22番が生まれる準備であるきらめきを見つければ、それに合わせて自分も現実へ戻れると思い、ジョーは22番と奔走する。

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ピクサーの作品として、久しぶりにかなり毒の強めな作品かと思いました。

こんなルックに対して、実に意地悪というか、渋みがあってまさに人生って感じです。

その苦い味わいをもってして、逃げずに生きることの辛さを描きながらも、そこでどう生きても素晴らしいと見せてくれる作品です。

ギャグの中にこれでもかと生の、特に大人の生の苦みをおちょくったものが多くあり、子どもは置いて枯れるでしょうけれど、大人には笑いながらも心にぶっ刺さってきます。

そもそも、ジョーがOPで正規雇用になった時の福利厚生、夢追い人として投げ捨てるには大事すぎる。

そして「魂が潰れるのは地上にいってから。」というまあ手厳しい言葉とか、さまよえる魂と化したヘッジファンドの社員が出てきたり、まあ大人の世界の息苦しいけれどでも分かりすぎる要素がユーモアに溶かされています。

22番というキャラ(ティナ・フェイが素敵に声を当てています)の造形も抜群です。生まれてないくせに疲れた中年。

そんな渋い味わいを持ちながらも、NYCの雑踏のCGでの高いレベルの描写とか、ソウルの世界の全体に輪郭のぼやっとしているタッチとか、世界構築の視覚的な楽しさはさすがです。

ソウルはまだまだ自分が固まっていたいためかそのぼんやりとした輪郭を持っていますが、魂としての中身があります。

逆にソウルの世界での統制管理をしているテリーやジェリーはみんな輪郭のみの存在です。中身はありません。

そもそも3Dアニメに完全に線で構成された2Dの存在を登場させる発想がヤバイ。

こういうところ、創造性の深さと広さにはいつも驚かされますね。

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ジョーは22番と一緒に、身体を入れ換えて(正確にはセラピーキャットはとばっちりですが)NYCもといジョーの日常を繰り返していきます。

二人の冒険はカルチャーギャップコメディのような楽しさとおかしさに満ちていますが、重要なのは実は22番がジョーの身体をもって実際に生きてみるという仕掛けだけではありません。

ここではジョーが自分以外の視点から、改めて自分の人生を機能が大切。

ただただ何気なく、繰り返しに思えて退屈な毎日。

大きなことも幸せも、成功や転機もない、過ごしていて無駄に感じてしまう日常。

それを何もかも楽しんでいる本当に魂の入った(22番が入った)自分自身を見つめることで、生きることを見いだしていく。

ジョーはこれまでずっと音楽を聴いてきました。それはもしかすると、彼の心の中の音楽だったのかもしれません。

それまで彼は、身の回りに満ちている音、メロディもとい人々や世界へ耳を傾けることを忘れていた。

22番をきっかけに美容院で初めて相手へと耳を傾けるのです。

NYCでの冒険は常に、二人の声を入れ換えた状態。

ジョーの身体に22番の声。猫の身体でジョーの声です。

それが母との対峙で、切り替わります。話しているのは22番ですが、途中からジョーの声になるんですよね。

22番自身がこの瞬間、自分の欲求を強く出し生きていくことを語ります。

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しかしそこで止まっていれば、正直ありがちで平凡な作品でした。

夢や生き甲斐って素晴らしいねと。好きなことを捨てないで頑張ろうという、ありきたりさに終わっていたと思います。

でも流石です。ピート・ドクターはここで終わらせない。その先を切り開きます。

ジョーを彼自身の考えていた成功へと導きながらも、切り捨てます。

このジャズクラブの演奏もまた、同じ事を繰り返す毎日なのです。

22番はジョーのようなのめり込む何かや夢を見つけてはいません。それでも通行証は完成する。

つまりこの作品は、夢や生き甲斐を、人生の目標も意味も持たなくても良いと描くのです。

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なんだかやりたいことがよくわからず、何かを成し遂げることも持つこともなく、ただ同じように起きて電車に揺られ食べて寝て。

そう過ごす時にふと生きている意味を失っていると思うことありますよね。

それに対して、好きなことを見つけようとか、この世界のどこかに夢があるはずだとは説かないんです。

何もなくても良いと。

生きることに意味を見いださなくて良いと。

ジョーにとっては確かにジャズはきらめきですが、ジョーはジャズのために生きているわけではなかった。

生を感じるというのはもっと当たり前の中にあったのです。ただ過ぎていく毎日こそ、きらめき。

特に人生に目標なんてない。なんとなく夢もなく生きている。そんな人こそに、魂を戻してくれる。

CGで作られたNYCなのに、風を太陽を、雑踏の音や匂いも感じられるクライマックスの清々しさに感動です。

年末にとても良い作品の公開となりました。

世界観や没入への要素として、やはり大きなスクリーンと素敵な音響が欲しいところですが、観れなかったよりは良いでしょう。

ディズニー+加入者なら見ない選択肢はないアニメーション。是非ご鑑賞を。

今回の感想は以上です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

それではまた次の記事で。

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