「情婦」(1957)
- 監督:ビリー・ワイルダー
- 脚本:ビリー・ワイルダー、ハリー・カーニッツ
- 原作:アガサ・クリスティ 「検察側の証人」
- 製作:アーサー・ホーンブロウ・Jr
- 音楽:マティ・マルネック
- 撮影:ラッセル・ハーラン
- 編集:ダニエル・マンデル
- 出演:チャールズ・ロートン、マレーネ・デートリヒ、タイロン・パワー、エルザ・ランチェスター 他
アガサ・クリスティによる有名な小説/戯曲をビリー・ワイルダー監督が映画化。
チャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターは夫婦で、そろってアカデミーノミネート。その他作品賞や監督賞にもノミネートされましたが、受賞は逃しました。ライバルは「戦場に架ける橋」でしたので。
アカデミー向きなデヴィッド・リーンの超大作戦争叙事詩映画には負けてしまいました。
この作品では最後に「観てない方のために結末については口外しないように。」なんて文言が入るんですが、まあ見事な転があるのです。
なのでこの感想でも細かなプロットの暴露はしません。是非とも観てほしいというのだけは始めに言っておきます。
ロンドンにて長く法廷弁護士を務め、重鎮として実力を認められているロバート・ウィルフリッド。最近重い病であったが、看護士付きでなんとか退院。久しぶりに事務所へと帰ってきた。
そんな折、ある刑事事件の弁護以来が舞い込む。ある未亡人の殺人容疑をかけられた、ヴォールという男の弁護だ。決定的な証拠こそないものの、状況は明らかに不利である難しい件だ。
ウィルフリッドが突破口に苦しんでいると、ヴォールの妻クリスチーネが訪ねてきた。夫側の証人として有用かと期待したのだが、クリスチーネの話は夫を守るどころか、攻撃的なものだった。
法廷劇として話がほぼ法廷で行われるこの作品。
かなり場面としては限られていくので、ある意味密室的なくらいです。人物も少なめなのですが、やはり原作の良さはそのまま、各人物の人間模様がとても面白い。
ロートン演じるウォルフリッド卿のコミカル具合が、常に他の縁者とシナジーを生み出しています。彼自身偏屈ですが、それを忠実な使用人や奔放なヴォール、やり手のクリスチーネそしてなにより看護士のプリムソルと会話させることでコメディっぽさまでありますね。
また、法廷でのやり取りも絶妙。
なんだか頑固な親父と思いながらも、絶体絶命な状況で正確に核をつくウォルフリッドに思わず感心してしまいます。
ここでも少しの会話、判例を持ち出す場合などから、裁判長や検察側とのちょっとした昔話なんかも透けてみえ、人物に克己が出ているので、さらにウォルフリッドの活躍がしっかりと地盤のあるものに完成されます。
展開が面白いとかはもちろんなのですが、話運びに使われるものに私は引きつけられました。
小道具です。小道具をうまく話運びに混ぜ込んでいると思います。
そもそもこのウォルフリッド卿が弁護を受けることになるのも、たばこが目的です。
まずは帰宅し、看護士に難なくステッキに隠したたばこを見つけられてしまう。それだけでもウォルフリッド卿がいかに賢く抜け目がないか(ちょいズルい)をよく表しているんですが、さらにこれは次のステップのカギでした。
そこで没収されてしまったからこそ、どうしてもタバコがほしい彼は、胸ポケットにたばこをもっていた事務弁護士の話を聞くことになるわけです。
そしてアドバイスだけと言いつつも、たばこの火を求めてヴォールを部屋に入れたことから、本格的にこの事件の弁護をする流れに。アイテムを中心に踊るような見事な展開です。素晴らしい。
またブランデーの遊びだったり、錠剤の数で時間経過を示したり。
極め付けとしては、彼の使うモノクルですね。あれをテストとして何度か使用する彼ですが、反射がカギですよね。
最初も、それを活かすためにカーテンを開けさせるわけですが、なによりラストでの使い方。もともと光の入り方とか見る限り、明らかにおかしいんですよね、あの反射。
それでもそれを曲げてでも、最後はポツリとおかれたナイフに光が当たります。眼前でくり広げられる会話の中で、端っこのキラキラするそれに否が応でも注目を持っていくわけですね。
大きなどんでん返しがある本作は、とにかく知らないで観ることが大事です。まあ2回目とか観てますけど、なんだかんだで毎回すごく楽しめるんですが。
法律の穴を突く華麗さ、人間の心理を掴み操る巧みさ。また切り捨てられていくものの悲しさもあり、そして何があっても闘う希望まで提示して見せています。
演技の確かさで人間模様を楽しみながら、上質なミステリーを是非ご覧ください。マレーネ・デートリヒの56歳にしての美脚も見ものですよ。そんな感じで感想はおしまいです。それでは、また~
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