「名もなき塀の中の王」(2013)
- 監督:デイヴィッド・マッケンジー
- 脚本:ジョナサン・アッセル
- 製作:ジリアン・ベリー
- 音響:ローナン・ヒル
- 撮影:マイケル・マクドナー
- 編集:ジェイク・ロバーツ、ニック・エマーソン
- 衣装:スーザン・スコット
- ヘアメイク:ニコール・スタッフォード
- 出演:ジャック・オコンネル、ベン・メンデルソン、ルパート・フレンド、ジリー・ギルクリスト 他
「パーフェクト・センス」のデイヴィッド・マッケンジー監督による監獄映画です。主演にはライジングスター、ジャック・オコンネル。その父として「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012)でもいました、ベン・メンデルソンが出演。
オコンネルの演技がリードとして光り、高い評価を得た作品がやっとこさ日本公開。イギリスで暴力で刑務所で・・・「ブロンソン」(2008)を思わせましたが、イかれた狂人でなく、人の心を持った揺れる青年の物語でした。
暴力性の高さから、19歳のエリック・ラヴは少年院から成人向けの刑務所へと移される。
非常に危険な囚人たちの中でも、なお反抗的で暴力を繰り返すエリック。もちろん看守や他の囚人からも睨まれるが、ネビルという男がエリックを守ろうとする。彼は生き別れたエリックの父なのだ。
なんとか息子をまもとにしようと、ネビルは所内で開かれるセラピーにエリックを参加させようと考える。空虚な顔、汚い言葉が溢れる口と暴力を纏った肉体しかないエリックは、変わることなどあるのだろうか・・・
評判の通りのジャック・オコンネルの名演。エリックの表情がなんとも素晴らしい。
やる気のなさ、空っぽの青年。見せるのは怒り。目線や体の置き方一つ一つに、いかにエリックが荒んだ中で育ったかを表現しています。
思いついたという表情もなく、初日にすぐ武器を作り、オイルや木で武装する。そんなスキルは普通いらないですが、エリックにとっては当たり前の生きる術。
外の光である窓をあまり見ないエリックは、ただ黙々と鍛え黙っているか激しく汚い言葉を吐き暴れるか。
そんな彼の背にぴったりとくっついて刑務所内を回るカメラ。階の構造やら分かりやすく、あの物騒な中に一緒に放り込まれたような緊張感は良かったですね。あの中じゃ一つ一つの音が怖い。
あ、それと言葉遣いはとっても下品!全裸とか暴力の前に言葉でR18にするべきw
そんな環境下、キンタマ噛みつきという偉業?を成し遂げたエリックを、治療するということでディスカッションセラピーへ。
ここは脚本家のジョナサン・アッセル本人がカウンセラーをしていた経験からか、ほんとうに少しずつの前進であるためその難しさや苦悩がうかがえたところ。
口論は絶えない、というかそれを乗り越えるところにゴールがあるので、いかに怒りの支配者になれるかというところ。
オリバーは間に立ち、それが物理的に体を張って収めようとすることと、彼を囚人の眼に映すことでコントロールしなくてはいけないことを思い出させることになっています。
彼がもたらす変化によって、エリックも変わる。
確かに獣のような彼でしたが、ライターの件でも見えるとおり内面では罪悪感や感謝も少し見えるんです。オコンネルはその部分を消し去らずにかつ目立たせずバランスをとっています。
ですから、セッションで口論になったシーン。はじめてエリックが「俺が悪かった」”I’m sorry.”といった時には、なんとも感動しました。
場を乱していた彼が、自ら引き場を治めることをした。汚い言葉でも暴力でもなく、怒りを支配することで彼はリーダーのような役目を果たしたんです。
しかしそれとは別に、父親であるネビルの存在が大きく働きかけます。
自分の手で親らしく導いてやりたい。不在に罪を感じつつエリックを守る、教育するのは俺だと、任務的に動くんです。
もちろん、気持ちはわからんでもないですが、ほとんどは自己満足のように感じます。まともになれと、まともじゃない最低な男に言われても・・・
息子に教え込むと言いながら、怒鳴りわめき散らす。刑務所内で大物として歩き回り、俺こそが守護者というのでは親をみて育つことなんてできませんね。
エリックだけが愛を持たないのではなく、父であるネビルも愛を失っているように思えました。
怒りの支配者に近づき、一人だったトレーニングも他人と一緒に。一緒に紅茶を飲み、「良かったよ。」と言える。エリックは確実に中身を見せ始めます。
ネビルは自分で導こうにも、腐りきっていることを悟る。独房で、ののしり合いであっても息子の声を渇望していることに気付きました。。刑務所内での悪を絶ち、息子を救った。
そうしてエリックはついに「父さん。」と呼び、ネビルは「お前の親で良かった」と言い残す。あのシーンは切なくかつ嬉しい。おそらく一生会えないでしょうが、確かにネビルはエリックの親です。
オリバーが去る時と同じく回転するバーが回ってエリックは中へと戻る。
オリバーのような変革をもたらす者は、今やエリックになりました。窓の穴から「外」を覗き、「仲間」と会話する。暴力や悪は父が背負って消えていった。
エリックのその後は映らずとも、彼は怒りを制御し王へと昇格”Starred Up”するでしょう。
緊迫の中確かに人間の汚く野蛮なところを見せ、そして美しく希望あるものをくれる。マッケンジー監督のドストライクに描いた監獄と青年への暖かな目が伝わる作品でした。
うーん、囚人とか刑務所ものでも特にお気に入りの一本になりました。小規模なんですが、なんとか観てもらいたいものです。
そんなところでおしまいです。それではまた次の記事で。
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