「野生の島のロズ」(2024)
作品解説
- 監督:クリス・サンダース
- 製作:ジェフ・ハーマン
- 製作総指揮:ディーン・デュボア
- 原作:ピーター・ブラウン
- 脚本:クリス・サンダース
- 編集:メアリー・ブリー
- 音楽:クリス・バワーズ
- 主題歌:マレン・モリス
- 出演:ルピタ・ニョンゴ、ペドロ・パスカル、キャサリン・オハラ、ビル・ナイ、キット・コナー、ステファニー・スー 他
最新型ロボットが野生の島で目覚め、愛情の芽生えをきっかけに運命の冒険へと導かれていく姿を描いた、ドリームワークス・アニメーション製作の長編アニメ映画。
アメリカの作家ピーター・ブラウンによる児童文学「野生のロボット」シリーズを原作としています。
監督は「リロ&スティッチ」、「ヒックとドラゴン」のクリス・サンダース。
主人公のロボット・ロズの声を「ブラックパンサー」シリーズのルピタ・ニョンゴが担当。また「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」などのペドロ・パスカルがロズと仲良くなる狐役を演じます。
その他キャサリン・オハラ、ビル・ナイ、キット・コナー、ステファニー・スーが声の出演をしています。
アニメ界のアカデミー賞とされる第52回アニー賞では長編作品賞、監督賞を含む同年度最多の9部門を受賞し、第97回アカデミー賞では長編アニメーション賞、作曲賞、音響賞の3部門にノミネートされるなど大注目の作品。
昨年の東京国際映画祭でもやっていましたが、予定が合わずに見ていませんでした。
公開週末に早速IMAXで鑑賞してきました。人の入りはそこそこといった感じでしたが、とにかく中盤以降みんな泣いていて、それは小さな子も大人たちもと、良い体験でしたね。その後、IMAXをもう1回観てきました。
~あらすじ~
大自然に囲まれた無人島に漂着し、偶然起動ボタンが押されたことで目覚めた最新型アシストロボットのロズ。
都市での生活に適応するようプログラムされ、依頼主の指示を遂行することが第一の彼女。
未知の野生の島で戸惑いながらも、動物たちの行動や言葉を学習し、次第に環境に馴染んでいく。
そんなある日、ロズは雁の卵を見つけ、それを孵化させる。
生まれたひな鳥に何か任務はないかと尋ねるロズであったが、「ママ」と呼ばれたことで、ロズの中に予期せぬ変化が芽生え始める。
ひな鳥を「キラリ」と名付けたロズは、キツネのチャッカリやオポッサムのピンクシッポら島の仲間たちの助けを借りながら、子育てという“新たな仕事”に挑むことになるが。
感想レビュー/考察
泣きすぎて疲れた
ドリームワークスの新作。
正直言って見終わった率直な感情は、「めちゃくちゃ疲れた。」です。
なぜって?あの、泣くって疲れるんですよ。感情揺さぶられるって疲労するんです。最後にホロリとか、何回かブワッとするんなら、まあ上映中に回復できますよ。
でも、中盤から最後まで持続されるとお手上げです。勘弁してください。
そんな感じで、私は中盤から泣きっぱなしでした。号泣っていうより、なんか自然と泣いていたという形です。いっぱいいっぱいでした。
こんな感じで感情が埋め尽くされて、その抱えきれない輝きが涙として自分からこぼれ出るような感覚は、何を観て以来だろうって思います。
かけがえのない映画体験であったことは間違いありません。
願わくば、何も入れずに純粋にこの作品と出会ってほしい。きっと素晴らしい体験になると思います。
CGアニメは写真に近づくのをやめた
さて、こっからはネタバレも辞さずあれこれと感想を書くので注意です。
泣いたって話だけをずっとしててもアレなので、アニメーションとしての表現から書き出してみます。今作はフルCGアニメーション。
ですが、昨今はCGアニメの業界は、現実にある質感や写真のようなリアルさからはもう離れています。
ピクサーやディズニー、ドリームワークスにワーナー。各スタジオがリアルさを追求しきっています。
「アナと雪の女王」での雪の表現とか、「モアナと伝説の海」の水、また「レゴムービー」ではおもちゃの人が遊んだ痕跡の質感、「リメンバー・ミー」での年老いた人間の肌や皺。リアルは極まっている。
私は何度か言っているのですが、やはり「スパイダーマン スパイダーバース」を切っ掛けにすべてが変わっている。リアルさではなくて、アニメだからこそのその世界の定義、アイデンティティとパーソナリティを追求する。
「長靴をはいたネコと9つの命」ではデッサンのような絵画がそのまま動き出す質感を。「ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック」ではグラフィティに命が与えられたような躍動を。
今作では絵本の世界のような印象を受けました。
ロボットの表現はいかにもリアル寄りで綺麗ですが少し絵画調に、自然や動物たちは輪郭がそこまではっきりせず、印象派のような描画。それが自然の力や奥行き、優しさと美しさを表現している。
ロズの造形と対比的に、この自然を異なる描写で入れ込んで同時に存在させることができるのは、アニメならではだと思います。
実際、クリス・サンダース監督はインタビューの中で、今作で洗練さを重視しつつ、人の手書きの絵とデジタルの絵を融合したと言っています。手書きの部分もあるようです。
これが素晴らしい質感を生んだのですね。
人でないものを通して人を描く
ロズが画面に登場するのは、彼女の瞳のクローズアップから。丸い目に当たるレンズに反射した、波打ち際とカワウソたちです。
ロズには表情はありません。ロボットだからです。その顔はいつも変わらず。丸いレンズが2つある丸い頭部。
しかしキラリと出会い、タスクとして子育てを行うロズは、変わらない形に感情を感じさせていく。
いつもの造形の丸いレンズ。でも、そこに感情が見えてくる。人ではないものを主人公にして描くからこそ、観客はより彼女の気持ちを察するようにのめり込みます。そして造形を変えずとも確実に、そこに魂を見出すでしょう。
人間のような感情を持っていくロボットの話。実は今作では人間はほぼ出てきません。存在はいても登場人物ではない。
ロズと動物たちだけで構成されたアニメになっていて、動物たちもまた、その言葉を理解できるようになってからどんどん人間臭く感じられる。
こうやって人間ではない者たちにアニメによって現実ではできない表現を与え、人間のドラマを深く掘っていくのもすごく見どころになっています。
アニメにすることでの触れやすさやルックの可愛さなどが、アクセスのしやすさに繋がります。
愛の不在をチャッカリを通してユーモラスに描き出す
ちなみに結構深い闇にアニメで柔らかさを与えていると思うのはチャッカリでした。
彼は愛とは何なのかというロズの質問にこんなふうに答えます。「分からないが、もらえなかったものを一生考え続けるのさ。」と言います。
彼は愛を与えられていない。それは周囲の動物たちにとても嫌われているということもありますが、それ以上に、周囲に嫌われていたとしても最後の砦のように自分を愛してくれるはずの、親からの愛すらなかったということです。
親の愛のなさについては、時折入るユーモアをよく考えれば見えてきます。
泳ぎ方をどう教えるかというシーンでは、「俺の母親のやり方で行こう。泳げ!」といってキラリを蹴飛ばして池に入れてしまう。
そして寝付けないキラリにどうすればいいかロズが尋ねると、「簡単さ、俺の親はこうして阿多亜mを石で。。。」と思い切り石を振りかぶる。
ギャグシーンですが、チャッカリの過去の辛さがとてもよく透けて見えるシーンになっているのです。だからこそ、親切をしてくれたロズに惹かれるし、何かと寂しくてロズのところへ来るんですね。
こういう描写についても、動物の擬人化を通してだと見やすく、人間のドラマを投影して観るアニメの力を感じられました。
ロボットに感情を感じ取る
キラリを見つめる視線にはケアや愛情が芽生えます。
魚眼レンズのように丸みを帯びた反射から、自然界が映し出されていく序盤。
すべてが厳しく弱肉強食の世界。さまざまな動物たちには様々な評定があり、それぞれの特徴をとらえたアニメ表現と動きを見せる。
ドリームワークスは甘えなしに自然界を描いたと思います。喰われたり死んだり。
正直曖昧になるこういった動物世界のアニメにおいて、私としては最高にいいバランスと思います。
捕食者と獲物をずっと忘れずに、キャラクターに落としても自然界のルールは保ち続けています。
そんな世界に圧倒され、都市型お手伝いロボットが、徐々に自然界のロボットに変貌していく。
実はここまでの強い弱肉強食描写が、ロズの成長にリンクし、後半の共生の達成感とか、美しさを強める仕掛けになっているんです。
キラリと出会い、タスクとして子育てを行うロズは、変わらない形に感情を感じさせていく。
いつもの造形の丸いレンズ。でも、そこに感情が見えてくる。人ではないものを主人公にして描くからこそ、観客はより彼女の気持ちを推し量って感じ取っていく。
プログラム/本能を越えていく
ロズはプログラムに従い、他者を助けることを任務として行動していました。
しかしプログラムにない”母親になること”を任務として課された彼女は成長します。作業を行い、プロトコルに従うという既定の路線、ロボットの本能から外れて超えていくのです。
この模様は実に感動的で、キラリを育てていく過程で確実に心を見つけていく。はじめこそAIロボット的な、ALEXAとかを彷彿とさせる話し方であったロズ。
そのうち言葉に詰まったり、少し考えたりするようになる。「私のむ。。。キラリを」って息子って言いかけたり。
所作についても、何度も自分の首元を触る仕草をしますが、あれは小さかったころのキラリが、安心を求めてロズの首元によくくっついてきたから。成長してて離れしていくことに寂しさを感じているのですね。
感情を持ったロズが、自分のプログラムを越えたように、厳しい冬の寒さを越えるために、動物たちに自分たちのプログラム/本能を越えることを求める。
この対比があるから美しい。
自分らしさを手に入れる
きっと、自分が生まれたときにあるようなプログラムはあるかもしれない。でも、それを超えることはできるし、それが自分らしさにつながる。
キラリは雁ですが、雁には育てられなかった。プログラムを正しい指令で遂行しなかったのです。
彼はロズとサンダーボルト師匠から飛び方を学ぶ。これは雁の教えではない全く独自の教え。でもだからこそ「自分らしく飛ぶ」ことができる。
こうしたキラリの練習と独自の道があったからこそ、雁の群れの窮地を救い人間の施設から皆を脱出させることができ、そして、終盤に連れ去られたロズを乗せた飛行船に、サンダーボルト師匠直伝の急降下を使って突入できたのです。
自分らしさを大事にすること、それがどのキャラクターにも展開されていく。
Kiss the Skyが流れるとても美しい飛行訓練シーン。飛ぶことの練習はドリームワークス作品だと「ヒックとドラゴン」でも最高なんですが、今作でも白眉。
ロズ自身も最後に自分を”野生のロボット(The Wild Robot)”だと言い、帰るべき場所を考え続けた彼女に家が見つかります。
呼応する物語とその必要性
序盤にチャッカリがキラリを寝かしつけるために物語を聞かせます。
そこで寂しい子どもの声を聞いたロボットが空から落ちてくると言いますが、宇宙では音が伝達しないというギャグを入れ、そこにチャッカリが、「耳ではなく別の場所で聞いたのさ。」と答えています。
これが最後に呼応する。電源を切られてしまったロズに、キラリの、ずっと言えなかった”ママ、愛してるよ”が聞こえる。まさに耳ではなくて、心で声を聞いたのです。
OPでロズが初めに発した声が、「私はロッザム7134。」
それがEDでももう一度出ますが、今度は、その後に「でもロズと呼んでください。」が付け加わり、この映画でのロズの旅とアイデンティティの獲得が集約されるのも巧い演出くくりでした。
しかも、映画という一つの物語が終わるとき、チャッカリとのやり取りもまた思い起こされます。
知らないことをどうやって伝えるのか、なぜ物語にするのか。
想像によって生み出されたこの野生のロボットの物語は、愛や友情、共生、親になることや自立することなど大きな渦をもって観る人を動かすはずです。
だからこそ、物語は必要なのです。
前評判も知ってはいましたが、想像をはるかに超えるレベルの人生に残る傑作です。本当におすすめ。
かなりとりとめもなく感想が長くなってしまいました。とにかく、吹き替えも字幕もそこまで回数やっていないので、早く見に行ってほしいです。
今回の感想はここまで。ではまた。
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