「アメリカン・ドリーマー 成功の代償」(2014)
- 監督:J・C・チャンダー
- 脚本:J・C・チャンダー
- 製作:J・C・チャンダー、ニール・ドッドソン、アナ・ゲルブ
- 製作総指揮:グレン・バスナー
- 音楽:アレックス・エバート
- 撮影:ブラッドフォード・ヤング
- 編集:ロン・パテイン
- 衣装:カシア・ワリッカ=メイモン
- 出演:オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン、デイヴィッド・オイェロウォ、アルバート・ブルックス 他
「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」(2013)のJ・C・チャンダー監督が、「インサイド・ルーウィン・デイビス 名もなき男の歌」のオスカー・アイザックを主演に、荒んだアメリカにて真っ当な道で成功しようとする男の話を映画化。ながらく待ちました、ずっと楽しみでしたから。
好きなキャスト、好きなスタッフでそろっているわけで、期待せざるを得ない作品。雰囲気からしてとても70後半から80前半の匂いがするしっとり落ち着いたルックを持っています。
ゴールデン・グローブにはジェシカ・チャステインが助演女優賞にノミネート。と、いいましてもやはり監督や役者人の日本で一般知名度は高くないでしょう。そこまで大盛況な劇場ではなかったです。
1981年、ニューヨーク。様々な犯罪が数多く起こり、”もっとも物騒な年”である。
そこに灯油ビジネスの会社を築き成長させてきた男、アベルがいた。妻のアナと共に更なる躍進のため、川沿いの土地買収をまとめようとするアベル。
全財産をつぎ込んで手付金を支払い、残りの金を30日以内に収めることで売買は完了する。そうなれば一気に業界トップになれるのだ。
しかし、彼の灯油を輸送するトラックを襲う事件が多発、検事局は脱税で起訴してきた。さらにはアベルと家族にまで危機が迫る。孤立し厳しくなる中で、アベルは真っ当なまま夢をかなえることができるのか・・・
リードする俳優。それはこの男の成功物語の要です。
オスカー・アイザックの表現する、物腰よく丁寧だが自分やり方が強くあるアベル。
衣装のカシア・ワリッカ=メイモンがすべてにおいていい仕事をしてますが、アベルの場合はあのキャメルのコート。質素のように見えて品位がある、一色な感じ。
晩餐会で「跳ぶか迷い怖くなったとき、それこそが跳ぶべき時だ。さもなければ一生今いるところに居続ける。俺はそれが嫌だ。」という場面があります。
しゃべりや見つめ方含め、どうにも「ゴッドファーザー」などの70年代あたりのアル・パチーノを意識させますね。
似ていると言えば、こちらの映画、そのアル・パチーノが組んだ監督、シドニー・ルメットの作風に似ている気がします。
全体の柔らながら霞んでいて、湿度や匂い温度を感じるような作りです。派手に音楽を使ったり、盛り上げる場面を連続させない、淡々とかつ緊張感をしっかりと保っている、職人的な映画。
唯一のチェイスは、かすかな光をもとめ闇をさまようという、メタファーに思える印象的なものですね。
作りに関してはもちろんそれぞれの部門も良いですね。
「グローリー/明日への行進」(2014)での撮影をしたブラッドフォード・ヤングの映し出す淡い光のあるニューヨークは、アベルの夢とその成功の儚さが出ているようでした。
そしてロン・パテインの編集は、「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」(2012)でも繰り出していた、喰い気味なものです。落ち着く間もなく、次のシーンの音が先に入る。
止まれない、そして流れをコントロールできないという焦りを感じさせ、アベルのそれを観客も身に迫るように感じる見事なものです。
と、各セクションの素晴らしさを忘れずに、やはり目立つのがジェシカ・チャステイン演じる妻のアナ。ギャングの娘、アベルとは対照的にやられたらやり返す。
暴力を厭わない姿勢で、検事にすら噛みつくのは、強く毒がある危険な女。ネイルを傷つけないためにタイプライターを鉛筆で押している姿が印象深いです。フェイ・ダナウェイ的な感じがしましたね。
組合長の要請やアーサーの助言、アナの願望。銃を使いギャング的な手で自営する他に道はない。しかしアベルはどうしてもそれをしたくない。
誠意と正しさでビジネスを伸ばし成功したいのですね。冒頭でアナが仕返しに兄や父に頼んでも良いといったとき、強く拒みましたが、その直後の仕草が素晴らしかった。
キスした後にアベルが口を拭くんです。凄い嫌悪ですね。
ここまでこだわる理由はなんなのか?アベルについてわかることは、移民であり自身もトラック運転手をしていたこと。
彼の固い決意がいつなのか、なぜなのかは明かされません。しかしそれは、最後に彼が言うように「後ろばかり見るな。」ということなのかもしれないですね。
憎き強盗をついに追い詰めるも、やはり引き金を引けなかったアベル。アレックス・エバートの音楽は全編通して効果音や反響音のようなものでしたが、このシーンでは深い余韻のあるメロディーとなっています。
一つの区切りで同じメロディーが流れるのです。それはアベルのブレの無さ、動じない一貫性と重なります。
一人物思いにふけって眺めていた、川を挟んだニューヨークの美しい景色。物騒な年に、美しいものを見出していたアベル。
長年の夢がかない、もう一度、今度は妻と仲間とそれを眺める。そしてそこに、彼が強くあれと願い手をかけてきたジュリアンが出てきます。
アベルのように動じずにいることができなかった男。あまりに実直にすすむ映画ですから、どう転んでもおかしくない緊張が走ったシーンです。
そっとタンクに開いた穴をふさぐアベル。直前すら過去であり、振り返らずに今の問題に対処しているわけですね。
この先の繁栄を感じつつも、検事と並んで幕は下ります。地面は多くの跡でにじんだ雪。そして少し離れたところにパトカー。この先もアベルの道は易しくはないのでしょう。
しかし、アナの告白を受け入れ汚れを触るとき、気合を入れるように髭を剃った彼ですから。この先も動じずに真っ直ぐに歩んでいきそうです。
というわけでとてもとても気に入った作品。職人芸。そう言いたい硬派で確かな映画です。是非劇場でご覧ください。長くなったので終わります。では、また~
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