「オーメン:ザ・ファースト」(2024)
作品解説
- 監督:アルカシャ・スティーブンソン
- 製作:デビッド・S・ゴイヤー、キース・レビン
- 製作総指揮:ティム・スミス キャラクター
- 創造:デビッド・セルツァー
- 原案:ベン・ジャコビー
- 脚本:ティム・スミス、アルカシャ・スティーブンソン、キース・トーマス
- 撮影:アーロン・モートン
- 美術:イブ・スチュワート
- 衣装:パコ・デルガド
- 編集:ボブ・ムラウスキー、エイミー・E・ダドルストン
- 音楽:マーク・コーベン
- 出演:ネル・タイガー・フリー、ラルフ・アイネソン、ソニア・ブラガ、ビル・ナイ、ニコール・ソラス 他
1976年公開のホラー名作「オーメン」の前日譚となる作品で、「悪魔の子」ダミアンの誕生に向けて翻弄される人々の恐怖を描く。
ダミアン誕生の秘密が明かされる本作では、「ゲーム・オブ・スローンズ」のネル・タイガー・フリーが主人公マーガレットを演じ、「生きる Living」のビル・ナイ、「蜘蛛女のキス」のソニア・ブラガ、「ウィッチ」のラルフ・アイネソンが共演。
監督は長編デビューのアルカシャ・スティーブンソン。監督は過去にVesselsというショートを撮っていて、それはトランスの女性が自身の女性性を追求するために危険な手術を受けようとするものだそうです。
今作には身体に関する変化とかボディホラー要素もあるのですが、そういった過去作品の要素が活かされているのかもしれません。
なぜだか今更のこの往年のホラー作品の前日譚。あまり注目はしていなかったのですが、夜の階で都合が良かったので都内で観てきました。普通に平日の夜だったのであんまり人いなかったです。
~あらすじ~
アメリカ人のマーガレットは修道女として鍛錬を積み、新たな勤務地としてイタリア・ローマの教会に招かれる。そこで子どもたちの教師として働くものの、不可解な連続死に巻き込まれてしまう。
やがて彼女は、教会が恐怖を利用し、悪の化身を生み出そうとする恐るべき陰謀を知ることになる。
獣の子どもをこの世に誕生させようという恐ろしい所業に立ち向かおうと、誕生のための器にされている少女カルリータを助けようと奔走するマーガレット。しかし全てを明らかにしようとする先には、さらなる戦慄の真実が彼女を待ち受けていた。
感想レビュー/考察
なんというか、「オーメン」って今はどんな扱いなんでしょう。
子どもの頃にTVでやっていたのをほんのり覚えていて、なんか続編とかもあって「13日の金曜日」とか「エクソシスト」な感じの派生しまくったタイプのシリーズと思っています。なので今回も特段オーメンシリーズが好きとかはなくて観に行ってきたのです。
非常に楽しめた前日譚
そんな興味のちょっと薄い状態であったこともあるのか、正直かなり楽しめました。
見事な前日譚でありシリーズへのオマージュや経緯もあり、1作品目にうまくつなげられています。そしてさらに、今の時代に対してテーマ性を合わせてきているのも素晴らしかったです。
OPでの鉄パイプの落下とか、作中中盤くらいでのシスターの昇進首つり自殺、また首ではなくて胴体ですが事故で真っ二つになっていたりと初代のオーメンに対する敬意がそこかしこにあります。
この辺だけ見ていても往年のファンは楽しいところかもしれません。またブレナン神父が少し若いころということで出ていますしね。声の太さ低さが唯一無二で印象深いラルフ・アイネソンは個人的にとても良かったです。
良い画づくり
ギミックは結構ある中で、撮影についても画づくりが結構凝ったものが多くて好き。スチルにも使われていますが、燭台に並べられた蝋燭と吊るされた明りの並びが大きく口を開けた獣の顔のようになり、その中に主人公のマーガレットが置かれているところとか。
マーガレットをたびたび上から取るような構図がありますが、そこでの髪の毛が四方に広がるところ、また終盤は逆転して彼女の視点に切り替わるところも。
「ヘレディタリー 継承」の時にも効果的に思った、暗がりに何かいるような?というシーンも結構ちゃんと怖かった。長回しで余計なことしないのもいい。
主演の凶暴さと穏やかさの演技
あと今作の主演、ネル・タイガー・フリーはすごく良かったです。どこか純粋で無垢なイメージも出していますが、時折見え隠れする狂暴性。マーガレットこそが実は獣の子どもであるという真実がのちに明かされますが、だからこそなのか彼女には危険な香りも感じられるのです。
大人しい雰囲気の中でふと大胆な一面をみせたり、憑依されたようなシーンで破水?しているところはカットもない中で狂気の演技でした。
今作は主人公をマーガレットとして、女性の物語になっているとも思えます。
キリスト教会への風刺
そして加えて現在にこの王道の悪魔を題材にしたホラーを作る点にも明確な論点を与えています。今回は教会の中でも特に権力に固執する一派が、秘密裏に若い女性たちを使い獣と交わらせて悪の子を世にもたらそうとするという設定。
オーメンの初代につなげていく中で無理がないのと、キリスト教という組織団体へと鋭く批判を刺しています。
虐殺や暴行、キリスト教そのものが悪行を成した点を認めています。そしてそれを異常者のせいなどにはしない、あくまで人間が悪なのです。
ただし時代は移り変わり映画の中でもイタリアの若者たちは信仰よりも自由や権利のために声を上げているのが現状です。
だからこそこの世に悪を放ち、やはり神にすがることが必要だと思わせる。そうすることで再び教会は力を取り戻しまた権力をかさになんでもできるのです。
なんとも身勝手な理由ですが、非常に長い間権力を得てきた組織ですし、実際に遠征では異教徒を皆殺しにし、神の名のもとにレイプも横行、なんというか悪役でもおかしくない。
そしてそんな教会の、需要を自ら作り出す強硬マーケティング施策が、弱い立場にいる若い女性たちに無理やり妊娠させて利用するというなんともクソったれなものなのです。
自分の身体の自由を奪われる女性の物語
女性の身体の権利を奪う大きな保守的組織なんて、今の時代にこそ悪として描かれるべきですね。そこでボディホラーとして受胎が描かれ、悪魔が身に宿される恐ろしさが視覚化されています。
また、女性たちを抑え込む手法も、”女性側が悪い”というもので皮肉。おかしいのは自分なんだと思い込まされて、精神的にさらに悪い方向に行くような部屋に無理やり閉じ込められて外部との接点を絶たれる。
女性に対する搾取の構造に気づき、男性に寄らない方法で自らサバイブするマーガレットがカッコいい。
女性の側からの視点は、もちろん安直にそう言ってはいけないのですが、監督が女性だから与えられた要素かもしれません。
クライマックスでジェリー・ゴールドスミスのave sataniが流れてくるのはやはり熱い展開。今このオーメンの起源を、つまり女性の受胎の話をやるとして良い着想であった作品。見事な前日譚として楽しめました。
役目を終えると捨てられてしまった女性たちがまだいますし、マーガレットとカルリータ、そしてダミアンの双子である女の子の今後の闘いなんかを作ってくれたらおもしろいかも。そうした余地も残しているのもほんとに巧い。
今回の感想はここまで。ではまた。
コメント