「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)
- 監督:F・W・ムルナウ
- 脚本:ヘンリック・ガレーン
- 原作:ブラム・ストーカー
- 製作:エンリコ・ディークマン、アルビン・グラウ
- 音楽:ハンス・エルトマン
- 撮影:F・A・ヴァグナー、ギュンター・クランフ
- 美術/衣装:アルビン・グラウ
- 出演:マックス・シュレック、グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム、グレタ・シュレーダー、アレクサンダー・グラナック 他
ブラム・ストーカーのドラキュラを元に設定を引き継ぎながらもオリジナルの吸血鬼として制作されたドイツのサイレントホラー映画。
20年代に栄えたドイツ表現主義に代表される作品であり、今作の吸血鬼ノスフェラトゥは当時のハリウッド、そして今尚もさまざまな作品やモンスターに大きな影響を与えることになりました。
監督は「ファウスト」なども撮るF・W・ムルナウ。そしてノスフェラトゥをマックス・シュレックが演じています。
ドラキュラ映画は数多くあり、ユニバーサルのベラ・ルゴシ版「魔人ドラキュラ」からクリストファー・リーの「吸血鬼ドラキュラ」、その後はあらゆるジャンルに登場しますが、今作は映像作品としては原点的な位置づけ。
また数多い吸血鬼の中でも最も卑しくおぞましいタイプです。
学生の頃から古典として見るべきと言われながら放置。今回やっと見ました。
ドイツの街ヴィスボルクにて不動産屋に勤めるフッター。彼には美しい妻エレンがおり、二人は幸せに暮らしていた。
ある日、トランシルヴァニアに城を構えるオルロック伯爵に、街にある家を売る契約を結ぶため、フッターはしばし家を離れることになった。
オルロック伯爵はフッターを丁寧に迎え入れるが、ある昼にフッターは彼の正体を目撃してしまう。
オルロック伯爵は数百年も生き続ける吸血鬼だったのだ。
フッターはすぐさまヴィスボルクへ引き返そうとするのだが、オルロック伯爵に襲われ気絶。オルロック伯爵は自ら棺へ入り、ヴィスボルク行きの船に紛れ込む。
ヴィスボルクではオルロック伯爵の接近によりエレンが悪夢にうなされ始めており、目覚めたフッターは妻に迫る危険を止めるため急ぎ帰路につくのだった。
すごく忌まわしい、不気味な映画です。
副次的な部分もあるとは思いますが、何にしても吸血鬼ノスフェラトゥの造形や作品における数々のショットが美しくもおぞましいというのが、強烈な印象を残します。
今作はブラム・ストーカーの小説を原作とするものの、権利関係で”ドラキュラ”を使用できていません。
そのせいもあってか、後にユニバーサルモンスターとしてクラシックとみられるドラキュラ伯爵とは似ても似つかない造形になっています。
しかし、それが最大の魅力になったと言えます。
今作でマックス・シュレックが演じるのはオルロック伯爵。正体は吸血鬼ノスフェラトゥですが、その造形の不気味なこと。
シュレック本人がかなり不気味な雰囲気を持っていたとのことで、特殊メイクは耳ととがった牙くらいらしいです。
しかし陰影の強いモノクロの画面において、白すぎる肌に大きく開いた目でこちらを見ている様は、思わず背筋が凍る思いがします。
彼をとらえる部分としては登場シーンにてネガを反転したことで生まれる”おかしさ”が目立ちますし、個人的にはすこし引いて撮影するのも効果的に思えます。
ドアップで恐ろしい顔をこれでもかと見せるのではなくて、若干距離を取りつつ、背景と合わせてノスフェラトゥの異物感が強調されて感じました。
背景に使われている街並み、森、古城なども奥行きをとるダイナミズムもありながら画として素敵ですね。
実際にロケで撮影しているとのことで、広い空間、そこに入り込んだ魔物の対比が効果的。
海岸線のショットとか、美しく心穏やかに思えながらも、そこに十字架を配置することでどことなく死をにおわせているのもまた巧い。死と美の共存が個人的に刺さるタイプなのであのショットは特に気に入っています。
また演出においても、ノスフェラトゥの影を使っての恐怖描写は光とのコントラストによってじつにおぞましいですし想像力を掻き立てます。
そして棺から真っ直ぐの身体のままに起き上がるなどのアクション面でもぞっとする動きをみせますね。
登場人物に制限のあるためか、ノスフェラトゥがワンマン引っ越ししている点や、ヘルシング登場がほぼない、早回し部分が若干コミカルに見えるなどの点も気になると言えば気になりますが、全体的にはこの映画が醸し出す空気に飲まれてしまいます。
マックス・シュレックという俳優の造形、陰影を強めた画面にダイナミックな撮影。
登場アイコンは蝙蝠でなくネズミ。ペストを広め凄惨な大量死を招くまさに災害のような悪魔が徘徊する作品。
論理的な説明とかを排して超自然的存在にとどめ切ったのも抜群の怖さを生んでいると思いますし、素晴らしいモンスター映画でした。
私はDVDを買ってみたのですが、どうやら完全版ではない様子。権利での裁判からオリジナルネガの所有が限られ、それを元にした者こそが本作のあるべき姿とのこと。
基本的にはアメリカでの公開時の時点で編集されているものだとか。いつかオリジナルのバージョンも是非見てみたいですね。
サイレントだからとかで敬遠することなく、ホラーファンなら見てほしい作品でした。
今回の感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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