「ベイビー・ドライバー」(2017)
- 監督:エドガー・ライト
- 脚本:エドガー・ライト
- 製作:ニラ・パーク、ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー
- 製作総指揮:エドガー・ライト、レイチェル・プライアー、ジェームズ・ビドル、アダム・メリムズ、ライザ・チェイシン、ミシェル・ライト
- 音楽:スティーヴン・プライス
- 撮影:ビル・ポープ
- 編集:ポール・マクリス、ジョナサン・エイモス
- 出演:アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケビン・スペイシー、ジョン・ハム、ジェイミー・フォックス、エイザ・ゴンザレス、ジョン・バーンサル、C・J・ジョーンズ 他
イギリス人監督エドガー・ライトの、アメリカでの初の大作映画。
まあアントマンで降板するまで色々やってましたけども。
エドガー・ライトと言えば、やはりサイモン・ペグとニック・フロストと組んでいたイメージですね。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」に「ホットファズ」そして「ワールズ・エンド酔っ払いが世界を救う」(2013)など。
今回はコメディ色も残しつつ、犯罪ものになっております。
主演には「ダイバージェント」シリーズ(こちらちょうど同じく最新作が公開されましたね。)や「きっと星のせいじゃない」などのアンセル・エルゴート。
また実写版「シンデレラ」のリリー・ジェームズがヒロインを務め、名優ケビン・スペイシーにジェイミー・フォックスやジョン・ハムなども出演。
豪華な面々がそろっています。
北米での批評筋の評判の良さもありますが、やはりなんといってもエドガー・ライト新作といえばこれは外せません。
公開してすぐ観てまいりましたよ。
実は日本での公開規模は割と小さいようで、いまでは規模拡大もあったようですが、地方では観るのが難しいというのは残念です。
入りはまあまあだったかな・・・年代も問わないしいろいろな人に見てほしいです。
アトランタで逃がし屋として車を走らせる青年。
皆は彼をベイビーと呼んでいる。
常にイヤホンをつけ、自身に音楽をながし続ける彼は、組織の雇われもので、昔作った借りを返すため銀行強盗などを手伝う。
返済完了を目指し、もう一歩のところまで来た。
そんなベイビーはダイニングのウェイトレスのデボラと出会い、2人は互いに惹かれていく。
犯罪の仕事から足を洗い、彼女と共に将来を描くベイビーだが、簡単に裏社会が自由をくれるわけはないのだった。
エドガー・ライト監督が作った今作は、歴史あるドライバー映画であり、クライムスリラーの楽しさと緊張をしっかり感じさせながらも、超フレッシュに感じるアクション音楽映画に仕上がっています。
OPから全開で飛ばしてくるわけですが、なんといえばいいのでしょう。
とことん心地よい映画です。
カーアクションを音楽にのせ、アクションが全てジャストに組み込まれてハーモニーを奏でる。
ワイパー、ギアチェンジ、ドアの開いた音にブレーキ音、エンジンにサイレンまで全てが計算されています。
このハマリ具合はまさに映像と音楽だけで語りきる素晴らしい力を持っていますね。
このアクションの音を音楽に合わせ、動きが合致するのは、ミュージカルと言ってもいいとは思います。
事実、カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」とも言われていますしね。
確かに、デボラとベイビーが過ごすあのコインランドリーで、回る洗濯機の中の服が見事に赤、黄、青の原色カラーだったところは、意識しているのかなと思いました。
ただ、自分としてはミュージカル映画と言うよりは、音楽映画だと思います。
その点で言うと、どっちかと言えば「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス」に似ていると思いました。
音楽は既存のものですが、その歌詞やリズムが、一つ独立しているこの映画物語にそって調和しています。
今作ではかかる曲が台詞であり、語らぬ人物の心をよく表す言葉にもなっているのですね。
Barry Whiteの”Never Never Give You Up”がまさかあんなにサスペンスで緊張感あるものになるとは。
実際、楽曲に合わせて練りに練ったアクションや動き、あの”Harlem Shuffle”のようなワンカットなど、かなり計算しつくされた撮影や編集であると感じました。
選曲も素晴らしいですし、こういった部分がすごく良くて、観ていて目と耳、すべてがハマるのが気持ちいいのです。
本来そうした映像と音楽の調和を目指せば、しかも今作のように既存の音楽にのせてビジュアルで語るなら尚更、話を構築するのが難しいと思われます。
しかし、先程の音を感じる楽しさは全くお話を犠牲にしていないのも素晴らしいところです。
クライムものとして、スリリングな部分はスゴくスリルがあります。
今作はジェイミー・フォックス演じるトラブルメイカーの存在が中盤以降は大きく働き、彼の行動自体がベイビーの将来を不安にさせます。
しかし、彼が問題を起こすのも事実ですが、今作の焦点は父親的存在もしくは単に男性のキャラクターを通してのベイビーの過去との対峙にも思えました。
明らかにベイビーはスター・ロードよろしく母の喪失を背負っています。
彼に常に聞こえる耳鳴りはそれ自体が思い出したくない過去を思い起こさせてしまうでしょうね。
ベイビーは音楽でそれをかき消し、さらにサングラスを常にかけて視覚的にも外界を遮断する。
途中で車を奪ったとき、ベイビーは音楽のチャンネルを必死に探していました。
音楽がないと禁断症状のような反応を示す彼ですが、そんなベイビーが自分からイヤホンとサングラスを外すのがデボラでした。
彼女との会話シーンにおいては、耳鳴りも消されていましたね。
ベイビーが外の世界を受け入れるのは、里親のジョー、そしてデボラだけ。
デボラに母を重ね、何度もあの事故のシーンを思い出す。自分がハンドルを握っていれば・・・
デボラだけは絶対に守る。
無口で、指示に従うタイプのベイビーが頑なに自分の意志を示す場面はそれだけで彼の深い愛が伝わるようでした。
そんな大切なデボラに対して、今作でベイビーを囲む男性がそれぞれ象徴的でもあります。
ジェイミー・フォックスはまさにイカレたクソ野郎。
ケビン・スペイシー演じるドクは、父親のようでもありしかしベイビーを逃がさない束縛でもあり。
無償の愛と言うものではありません。
そして一番の宿敵になるバディ。
ジョン・ハムの色気が素晴らしいこと。セクシー部門で飛び抜けた人物でしたが、ベイビーと音楽を共有した数少ない人物です。
彼とダーリンの間柄には、ベイビーが両親に望んだような関係が見え、少しだけ父親のような面さえみえた気がします。
まあ若干同情もしちゃうキャラですが、意外にはっきり分かれてはいます。
ベイビーが音楽を共有したといっても耳だけです。
ベイビーが真に心を開く相手には、音楽を共に感じるという行為が用意されていましたからね。
最後にベイビーを擁護する証言台には、里親のジョーを除いて女性ばかりなのも印象的。
やはり母的な存在を意識しているのでしょう。
話としては確かに、抜けようとして抜けられない裏社会や、どんどんと崩壊していく犯罪計画など過去の作品たちから大きく逸れてはいません。
ですが、とことん突き詰めて作り上げたアクションと音楽の融合によって、内容は同じでも語り方がフレッシュに感じます。
細やかな動きや街の喧騒すら織り込まれた映像と音楽に、とにかく気持ちが良い。
エドガー・ライト監督は、映像と音楽だけでどこまでできるのか示します。
スクリーンで観て、サウンドを聴いて、それが融合した瞬間に、映画として完成され”感じる”ものになること。
可能性の提示であり、それぞれの媒体への愛情にあふれた作品です。
観て、聴いて、感じる。
サングラスもイヤホンもなく、耳鳴りがあっても、ふと手を触れて感じるベイビー。
映画館という入れ物の中で、この作品を通してみんなで感じる。
素敵な映画体験といえます。是非劇場で観てほしい作品です。おススメ。
私の中ではまさに麻薬的にサントラが流れ続けています。
もう電車とか歩いていてもサントラをずっと聞いていて楽しくて仕方ないです。
ラ・ラ・ランド、GOTGに続いての現象。今年は良い音楽いっぱい。
そんなところでおしまいです。それでは、また。
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