「リトル・マーメイド」(2023)
作品概要
- 監督:ロブ・マーシャル
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脚本:デヴィッド・マギー
- 原作:ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ『リトル・マーメイド』
ハンス・クリスチャン・アンデルセン『人魚姫』 - 製作:ロブ・マーシャル、ジョン・デルーカ、マーク・E・プラット、リン=マニュエル・ミランダ
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音楽:アラン・メンケン、リン=マニュエル・ミランダ
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撮影:ディオン・ビーブ
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出演:ハリー・ベイリー、ハビエル・バルデム、デイビード・ディグス、メリッサ・マッカーシー、ジョナ・ハウアー=キング、ジェイコブ・トレンブレイ、オークワフィナ 他
アンデルセンの「人魚姫」を原作としたディズニーによるアニメ「リトル・マーメイド」(1989)を実写映画化した作品。
監督は「シカゴ」や「メリー・ポピンズ リターンズ」などのロブ・マーシャル。
今回主人公のアリエルに抜擢されたのは、歌手として活躍するハリー・ベイリー。
彼女はクロエ&ハリーとして11歳ころから歌をはじめ、ビヨンセに見いだされてスターダムを駆けあがってきたそうです。
その他、父親のトリトン王を「007 スカイフォール」などのハビエル・バルデム、叔母で海の魔女であるアースラを「ゴーストバスターズ」のメリッサ・マッカーシーが演じます。
また海の生き物キャラの声の出演には「あの夏のルカ」のジェイコブ・トレンブレイ、「ブラインドスポッティング」のデイビード・ディグス、そして「シャン・チー テン・リングスの伝説」のオークワフィナ。
公開前にこそ、”黒人のアリエル”については結構物議をかもし、日本ではポリコレ的な、世界的にはWokeとそれをある意味蔑視するような派閥とからいろいろと議論がありました。
まあアニメのそのままを期待したりももちろん想像はできますが、個人的にはアニメ版だろうとアンデルセンの原作だろうとなんの思い入れがないので、とりあえず出来栄え次第な感じでした。
公開週末に都内の映画館で朝一に行ったのですが、9時代なのに結構埋まっていました。
場所柄ってこととかもあるとは思いますが、自分が想像していたよりも家族やカップルは少なめ。やはりアニメの方がバイブルであると思われる年代の女性が多かった気がします。
~あらすじ~
人魚のアリエルは人間界にあこがれ、難破船などから人間世界のモノを集めては秘密の場所に飾っていた。
父のトリトン王はそんなアリエルを心配し何かと干渉してくるのだが、アリエルは父の目を盗んで夜の海に出た。
そこで人間の船での宴を見て魅了され、船に乗っていた王子に一目ぼれする。王子もまた、自由を求めつつも王位継承者として束縛を受けていたのだ。
突然の荒しに見舞われ難破した船から、溺れてしまった王子を助けたアリエル。目を覚ました王子は自分を助けてくれた少女を探し始める。
人間界への、王子への想いを募らせたアリエルに、叔母であり海の魔女のアースラが話しかける。
声を差し出せば3日だけ人間になる魔法をかけるというのだ。3日後の日没までに愛のキスを交わせば、声を返し永遠に人間でいられるというのだ。
強い衝動を抑えられなかったアリエルは、アースラの取引を受け入れ、人間界へ行く。
感想/レビュー
アンデルセンの切ない人魚姫からディズニーのアニメーション化。
ディズニーは今やクラシックとなったアニメーションの実写化を数年の間をかけて行ってきました。
いくつかのいい例もありつつ、プロジェクトの意味が分からないものも。
小手先のアップデートが奇妙な感覚を与えるものも、アニメーションの豊かさに比べてハリボテ感が出てしまうものもあったかと。
今作に関しては、意義ある実写化になっているのかもと思います。
素晴らしい視覚体験
とにかくセクションレベルはすべて高かったと感じます。
CGにハリボテ感も感じず、タロカンほどではなくとも水中という上下左右のない空間のワンショットでの見せ方だったり、ライティングや美術造形も視覚的に楽しめました。
水中の撮影について、その髪の毛の動きや浮遊感も良く、技術面もすごい。
画角についてIMAX鑑賞ではなかったため確認はできていませんが、海のシーンと陸上のシーンではアスペクト比を変えているようです。
海はフルに上下開放され、陸ではシネスコのような感じとか。また変遷もシームレスで見事だとのこと。
できればIMAX鑑賞がオススメなのかもしれません。
アップデートをかけた、意義のある実写化
さて、避けて通れないのは主演のハリー・ベイリーの起用について。
実写に落とし込むという観点でいくと、私はそこにどんな定義をするのかが重要だと思っています。
漫画やアニメの実写化とは次元を超越することです。
歪みや拡大縮小、ありえない造形変化も漫画やアニメーションではコミカルな要素として許容できます。
しかし、それをそのまま実写にしていいのか。
メディアと次元を超える上で妥協と変更が必ずある。
だとすると、今作は「人魚姫」ひいては「リトル・マーメイド」に現代的なアップデートをすることに注力したのだと感じます。
ビジュアルを再現することを追い求めるのではなく、目指したのは魂の継承です。
ストーリーの根幹にアップデートをかけつつも、コアを受け継いだ実写化として、私は今作は意義あるものと思いました。
色々といわれたハリー・ベイリーに関して、アフリカ系のマーメイドを示すことは、それだけで今の世代の少女たちへ大きな意味を持っています。
また、アリエルは人間から忌み嫌われる人魚の一族で、そこにはマイノリティへの差別も重ならないこともないかも。
今の時代にはまた違う面を見せる要素
父トリトン王の過保護と束縛も、家父長制の中で自由を求める女性の図としての一面も生み出します。
声を失うというのも、歌声が聞かせられないという仕組み以上に、黙殺され沈黙させられる女性という、これもまた非常に今を考え出せられる構図になっています。
89年当時の変革も大事ですが、今作でもう一度その話を語り、そして実写という世界へ落とし込む上で、ハリー・ベイリーの起用以上に色々なアップデートがなされていると感じました。
なので肯定派です。
俳優陣によりドラマチックさは増している
トリトン王にハビエル・バルデムが入ったこともあってか、父の寂しさや葛藤面もよりドラマチックになっていたのかと。
メリッサ・マッカーシーのアースラは結構アニメそのままな造形であったことや、魔法の範囲、最終的な扱いなどちょっと雑な感じがありましたけど。
メリッサ・マッカーシー本人はきっとコメディセンス故に、タイミングというものが素晴らしかった気がします。間の使い方というか。
楽曲は既存のではありますがハリー・ベイリーの圧倒的な歌唱力を持ってすればどんなアンチも黙るしかない力があります。
映画館の設備で海に飛び込み、その映像と歌唱力を堪能するという点で劇場に行ってほしいことは間違いない作品でした。
アニメにも原作にもあまり詳しくはない点から、語れるほどはなかったのでこのくらいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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