「インフィニティ・プール」(2023)
作品解説
- 監督:ブランドン・クローネンバーグ
- 製作:クリスティーナ・ピオベサン、ノア・セガン
- 製作総指揮:ジェフ・ドイッチマン、エミリー・トーマス、トム・クイン、ライアン・ヘラー、マイケル・ブルーム、マリア・ザッカーマン、ヘンガメ・パナヒ、シャーロット・ミッキー、ローリー・メイ、エイドリアン・ラブ、アレクサンダー・スカルスガルド、ブランドン・クローネンバーグ
- 脚本:ブランドン・クローネンバーグ
- 撮影:カリム・ハッセン
- 美術:ゾーシャ・マッケンジー
- 編集:ジェームズ・バンデウォーター
- 音楽:ティム・ヘッカー
- 出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ミア・ゴス、クレオパトラ・コールマン、トーマス・クレッチマン、ジャリル・レスペール 他
「アンチヴァイラル」、「ポゼッサー」などの鬼才ブランドン・クローネンバーグ監督、長編第3作目。リゾートを訪れた男が、そこで出会った夫妻と島のある技術に囚われていく様を描きます。
「ノースマン 導かれし復讐者」のアレクサンダー・スカルスガルドが主人公の作家ジェームズを演じ、「X エックス」や「Pearl パール」のミア・ゴスが彼を誘惑するガビを演じます。
そして、「タクシー運転手 約束は海を越えて」や「戦場のピアニスト」のトーマス・クレッチマン、「月影の下で」のクレオパトラ・コールマンも出演。
ちょっと指定もあるのでなのか、そこまで大々的な広告はされていない作品、というか映画館での予告すら流れてるの見てないかも。とはいえたまにこういう見るからに劇薬な作品を映画館で観たくなるので、終末に観てきました。別にサービスデイってわけでもなかったんですが、混雑していました。
~あらすじ~
スランプ中の作家ジェームズと資産家の娘である妻エムは、高級リゾート地として知られる孤島へバカンスにやって来た。
ある日、ジェームズの小説のファンだという女性ガビに話しかけられた彼らは、ガビとその夫と一緒に食事をすることに。2組の夫婦は意気投合し、観光客は行かないよう警告されていた敷地外へとドライブに出かる。
しかし、その国には、観光客は罪を犯しても自分のクローンを身代わりにすることで罪を逃れることができるという恐ろしいルールが存在しており、ある事件を引き起こしてしまったジェームズは窮地に立たされることになった。
感想レビュー/考察
前作の「ポゼッサー」しか監督作品を見てないですが、ブランドン監督の作家性は確立されていると思います。
ボディホラーでありエクストリームシネマ。見る人を選ぶが刺さるなら刺さりすぎるくらいの体験。
未知の世界へ強制連行してくれる方舟としての映画体験を提供してくれます。
今の時代ここまでのものをスクリーンに映すのかと思うくらいに大胆な表現が多いです。私はかなり楽しめましたが。
今作はすべてが悪夢として展開しているようです。脚本の中に現実的な実感を求める必要はなく、むしろ映画そのものが寓話や神話、終わりのない悪夢と考えても良いかもしれません。
夢と現実の曖昧な闇の中で
実際、映画の始まりは闇です。真っ暗なスクリーンの中で主人公ジェームズが意味不明の言葉を発しています。
エムは「最近のあなたはずっとぼやけている。寝てるのか起きてるのか分からない。」と言いますし恣意的に夢と現実の曖昧さを演出していると思います。
ジェームズも「ここはどこだ?」とか「何でここにいるんだ?」みたいなこと言うので余計に現実と夢が錯綜していきます。
悪夢の案内人として出てくるミア・ゴス。やっぱり声を大にして言いたいのですが、彼女こそホラー映画界での圧倒的女王だと思います。
これまでにも「サスペリア」、「X エックス」、「Pearl パール」と登場し、無垢な被害者から狂気の絶倫クソババア、両者が融合した存在など本当に幅を見せてきたミア・ゴス。
彼女の何がスゴいって、一つの作品の中でまるで複数の作品の独立した人物を演じられること。その切り替えは凄まじい。
今回も謎めいた誘惑する美女としての妖艶さ、時に見せる幼さ、母のような包容感。そしてボンネットの上で銃を持って酒をあおる狂人っぷりと、ガビの複雑なレイヤーを瞬間に切り替えて見せています。
ジェームズと同様に観客も彼女に翻弄されていき、犬へと身を落とすような力強い演技でした。
対するアレクサンダー・スカルスガルドも絶妙に情けなくて良いですね。「バトルシップ」とか「ゴジラVSコング」ではキリッとしたハンサムで、「ノースマン」ではゴリゴリのバイキングだった彼も、ここでは矮小でちっぽけな男。
いもしないファンに出会って気分良くなり、完全なるヒモとしてエムとくっついている。
彼自身の破滅的な願望があるから、島を出たくない。無くしたのではなくて、自分でトイレの下にパスポートを隠していたジェームズでしたが、島に来た時点で詰んでいた。
もともと完全に下にいた人間で、飼いならされていく。
どことなく、金ですべて解決する外国人の醜悪さとかも込められているように感じますが、肝はこの超常的な体験ということでしょう。
ブランドン監督自身がインタビューで答えていますが、実体験をもとにして書いた脚本らしいです。ドミニカへの旅行では、島の様子が分からない深夜にバスでリゾートエリアへ運ばれ、そこに町が作られていて遊べたとか。
映画と同じで高圧電線のフェンスで囲まれていて外には出れず、日中に走った帰りのバスでやっと区画の外を目の当たりにした時、ものすごい貧困層がたくさん見えたとか。
人を選ぶということは確実な作品ですが、割れ目から竿が飛び出してくる描写とか、もう訳が分からないほどの奇形乱交とか意味不明にグロいけどどこか惹きつけられる映像描写にはやられました。
あとやはりミア・ゴスが輝きまくっているのでそれ目当てでもお勧めな作品です。こういう意味わからん世界に強制連行されていくというのも映画の楽しみです。
今回の感想はここまで。ではまた。
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