「コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-」(2022)
作品解説
- 監督:フィリス・ナジー
- 製作:スコット・チェスター
- 製作総指揮:ロビー・ブレナー、デビッド・ウールフ、ケビン・マッケオン
- 脚本:ヘイリー・ショア、ロシャン・セティ
- 撮影:グレタ・ゾズラ
- 美術:ジョナ・トチェット
- 衣装:ジュリー・ワイス
- 編集:ピーター・マクナルティ
- 音楽:イザベラ・サマーズ
- 出演:エリザベス・バンクス、シガニー・ウィーバー、クリス・メッシーナ、ウンミ・モサク、ケイト・マーラ、コリー・マイケル・スミス 他
1960年代後半から70年代初頭にアメリカで活動した団体「ジェーン」の実話に基づいた作品。この団体は、女性の選択の権利としての人工妊娠中絶を支援し、推定1万2000人の中絶を手助けしました。
主人公のジョイ役を「ピッチ・パーフェクト」シリーズのエリザベス・バンクスが演じ、ジェーンのリーダーであるバージニア役を「エイリアン」シリーズのシガニー・ウィーバーが演じます。
監督は「キャロル」の脚本家であるフィリス・ナジーが務め、2022年に第72回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品されました。
実はあまり前情報を入れていなかった作品でしたが、中絶については映画で扱うものも多いですしアメリカでは行こうと認定しなおす州もあったりでとても話題になっていますし、予告をみてみてみたいと思いました。
公開後平日のレトショーで観てきました。そこまで人は入っていなかったですね。
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~あらすじ~
1968年のシカゴ。裕福な家庭の主婦ジョイは何不自由ない生活を送っていたが、2人目の子どもの妊娠時に心臓の病気が悪化してしまう。
心臓病の唯一の治療法は妊娠をやめることだと担当医に言われたものの、当時の法律で中絶は許されておらず、地元病院の責任者である男性全員から手術を拒否される。
そんな中、ジョイは街で目にした張り紙から、違法だが安全な中絶手術を提供する団体「ジェーン」にたどり着く。
自ら中絶を受けて事の重大さや困っている女性たちの存在を知ったジョイは「ジェーン」の一員となり、中絶が必要な女性たちを救うべく奔走することになる。
感想レビュー/考察
闘ってきた団体と女性たちをたたえる
非常に明確な映画だったと感じます。ストレートで分かりやすくて、斜めに構えてみたりせずに、女性の身体の権利についての自由を訴え、そのために違法行為であっても闘ってきた団体と女性たちをたたえる映画です。
変なひねりとかはないですし、正直言ってこの活動自体がはらんでいる危険性や、公的機関の捜査の手が迫るようなスリリングな展開はないのです。
そういうエンタメ要素は結構そぎ落とされていて、もっと内側の部分に向いていたと思います。様々な状況において妊娠し、中絶を望む女性たちの状況であったり、この活動に参加する女性たちの思いや考えであったり。
主軸になっているのはジョイの精神的な変容であると思います。
目を向けていなかった外の世界
良くも悪くも恵まれているがゆえに気づいていなかった存在と環境。OPで彼女はチャリティか祝賀会のイベントかに参加しています。ここが今作の象徴的なシーン。
外の世界で何が起きているのかを知らない彼女が、ふと気になってドアを開ける。そこには警官隊が並んでおり、通りの向こう側からは群衆のデモが大きな音で迫ってくるのです。
当時はベトナム戦争下であり、この年には反戦デモ、ロバート・F・ケネディの暗殺にキング牧師の暗殺もあり。また作中で活動に参加している女性が掲げるようにブラックパワーとして拳を掲げる行為が歴史に刻まれた時期です。
だからこそ、無関心であるジョイとその周辺と、一歩外に出て繰り広げられている動乱の対比が凄まじく効いているOPでした。
他の誰もが見ない中で、ジョイは外を少し垣間見て、またガラス越しでも警官隊が青年を滅多打ちに殴りつけている様を目撃するのです。
自分が当事者になって初めて、ジョイは女性たちの置かれる状況を理解する。身体の自由な決定権を持たないことを。病院の理事会みたいなところはストレートでやりすぎにも感じますが、時代や強烈な女性への軽視を意味するという点ではちょうどいいかも。
あそこに集まった医師は皆男性で、当事者で意思決定者のジョイには発言の機会もない。
今現在の状況は・・・
悲しいですが、アメリカでは中絶を違法とする州はありますし、デモではよく、「自分の身体の自由を恒例の白人男性が握っている。吐き気がする。」と叫ばれています。1968年が舞台のこの作品と2024年の今、事態は良くなっているのでしょうか。。。
中盤までには実際にジョイが中絶手術を受けるシーンがあります。何度も中絶のシーンは捉えられていて、様々な事情を持った女性たちが登場する。
「あのこと」に比べるとやわらかい表現になっているし、ボディホラーのような恐ろしさまではないにしても、この辺をごまかさずにまっすぐ描いているのはすごく好感が持てます。
あと、ジェーンを頼ってくる女性たちを判断しないところとかも良いなと思いました。不倫相手にされて遊ばれて妊娠した女性。彼女はまた別の男として妊娠してしまいますが、彼女をぞんざいに扱うような描き方をしていません。
自分の力で問題を解決していこうと動き出すジョイと、夫や娘との関係なども盛り込まれ、結構社会的映画化と思えば個人の家庭ドラマもあったり。
主演としてのエリザベス・バンクスは、強いところは強い女性もそして富裕層の女性も両面出せてますし、やはりシガニー・ウィーバーが演じるとフェミニストで芯のある女性は似合う。
闘いの果てに得た権利を守り続けること
最近は現実で問題だからこそ、中絶を描く作品が多くあると思います。「あのこと」、「女性たちの中で」、「17歳の瞳に映る世界」。
この作品の団体のように、警察や権力の力におびえつつ、逮捕や下手をすると命の危険もある中で戦い続けてきた人たち。こういった方たちの力で勝ち取ったものがあるのに、いまそれが再び脅かされているという現実が辛い。
映画を通してその時代にもぐりこみ、病気と妊娠の関係からくる不安や、階段の上で覚える恐怖と恥、そして手術室での痛みを共通のモノとして受け取る。
そしていかに苦労して手に入れたものであるかということと、それを守るため戦わなければいけないことを再確認しました。
見やすくしている分、優しい面もあるとは思いますし完璧だとか、最後の方が駆け足だとかは感じますが、重要な作品だと感じました。
今回の感想はここまで。ではまた。
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