作品解説

ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「ヘンリー四世 第1部」、「ヘンリー四世 第2部」、「ヘンリー五世」を基にした物語となっており、史実をドラマティックに再構築した歴史映画。
監督は、映画「アニマル・キングダム」、「ウォー・マシーン 戦争は話術だ!」を手掛けたデヴィッド・ミショッド。本作では、俳優でもあるジョエル・エドガートンと共に脚本も担当しています。
注目の若手俳優と監督とのコラボも多い俳優陣
- ティモシー・シャラメ(ヘンリー5世)
- ジョエル・エドガートン
- リリー=ローズ・デップ
- ロバート・パティンソン
- ベン・メンデルソーン
- ショーン・ハリス
「君の名前で僕を呼んで」や「ビューティフル・ボーイ」のティモシー・シャラメが主演を務めて、その他「トワイライト」シリーズから「グッド・タイム」、「The Batman/ザ・バットマン」などのロバート・パティンソン、「ウォーリアー」などのジョエル・エドガートン。
またベン・メンデルソン、リリー=ローズ・デップ、ショーン・ハリスと豪華な顔触れがそろっています。
公開情報
映画は2019年10月11日にアメリカで、同年10月25日に日本で劇場公開されました。その後、11月1日よりNetflixで全世界へ配信されています。
~あらすじ~

イングランド王位の継承者でありながら、自由奔放な生活を送っていたハル王子。彼は政治にも宮廷のしがらみにも興味を示さず、仲間と酒場で過ごす日々を送っていた。
しかし、父であるヘンリー4世の突然の死をきっかけに、ハルは若くして王位を継ぎ、ヘンリー5世として国を背負う立場となる。
即位した直後のイングランドは、国内外に火種を抱え、宮廷内でも権力争いが渦巻いていた。
経験不足の若き国王に向けられる視線は厳しく、味方と信じていた者すら思惑を秘め、誰を信じるべきかさえ見えなくなっていく。
困難な政治判断や戦争の決断を迫られる中、ヘンリー5世は葛藤しながらも、王としての責務と覚悟に向き合う。やがて彼は、混迷する時代の中で成長し、真の王として歩み始めていく。
感想レビュー/考察

重厚だがダイジェストのような構成
歴史ドラマなのですが、もともとがシェイクスピの戯曲を3つ原作として描き出しているため、映画全体がすべてクライマックスを繋ぎ合わせたような印象を受けます。
よく言えば全編が非常に盛り上がるところばかりなのですが、しかし悪く言えばダイジェストのような構成になってしまっているのも事実でしょう。
叙事詩的な重厚さを持つために十分なテイストはあり、上映時間は2時間20分と長めながらも、ちょっと扱っている話の割にはコンパクトになっていると思いました。
それでも各俳優陣の良さが詰まっているし、戦争のシーンには迫力があり一定の観ごたえはあったと思います。
撮影と演出の魅力︰泥と混乱が支配する戦場
今作の撮影監督はアダム・アルカパウ。ミショッド監督の「アニマル・キングダム」でも撮影監督を務めていて、ほかにも「オーダー」や「マクベス」(2015)でも撮影監督を務めています。
アジャンクールの戦いは結構な規模と実際の泥まみれ戦闘で、惨たらしく荒々しかったですね。戦争の描写も含めてですが、全体に王室劇でも進軍でも決戦でも色彩にかけていてどこかどんよりとしていることが多いと感じました。
もちろん時代劇というのもありますが、ヘンリーの成長物語としては不穏な全容を持っている。

反戦のメッセージがにじむ演出
そこには反戦的な監督の意図があるのかもしれません。
ヘンリー5世がどんどんと戦火に身を投じていく。その大筋は変わりません。
しかし今作は、史実×フィクションの原作となっていて、実際の歴史とは結構異なるところも多い。そこで歴史には存在しない、シェイクスピアの戯曲にだけ存在するフォルスタッフの存在が大きいと考えられます。
フォルスタッフという「架空の存在」の意味
世捨て人であるフォルスタッフですが、シェイクスピアの戯曲では小太りで怠け者で、とておmだらしなくてヘンリーに見捨てられるような人物です。
しかし今作では異なります。彼は確かに世捨て人のように、隠居していて、借金してまで飲んだくれる人。しかしジョエル・エドガートンが彼の鋭さを時に刃のようにちらつかせて、どこか只者ではない感覚がある。
戦略・知略に長けていて、間違いなく戦では価値のある人間ですが、彼は過去の戦争に何度も参加し、そこで戦のむごたらしさや無意味さを見にもって実感したのでしょう。
フォルスタッフが見た悲劇︰ヘンリーの変化
だからこそ前に出ないし、甘ちゃんと言われても極力戦争を好まず、一騎打ちで肩を付けようとしていたハルを気に入っていたのでしょう。
フォルスタッフは武功を上げますが、彼の存在自体は戦争を否定している。
そして彼が見なくてはいけなかったのは、醜悪なプライドや無駄な諍いによって兵士を死に追いやってきた父親を、心底嫌っていたはずのハルが、ヘンリー5世として父の後を追ってしまう様なのです。

父と同じ道へ︰王としての変化と悲劇
そう考えると結構悲しいお話にも感じました。
父親が病床にあっても恨み節を吐きつけたハル。父の起こした諍い、くだらないプライド。自分の意地を配下の命のやり取りで解決せんとする暴虐。ハルが忌み嫌っていたものです。
弟と彼の軍に無駄な死を出さぬため、自ら決闘を行った彼でしたが、避けて通ろうとしたその最悪のモノに自分自身がなってしまった。
挑発、陰謀、そして彼自身のプライド。
父のように邁進し、フォルスタッフの哀しい目も顧みず結局は戦乱の王、戦の主導者になった。
キャサリン王妃の言葉が刺す、戦争の虚無
そこでフォルスタッフは結局は一介の兵士として命を落としていくことになりますが、ヘンリー5世にすべてを告げるのがリリー=ローズ・デップが演じるキャサリン王妃。
女性の登場人物がかなり少ない今作の中でも、キャサリンは特別な存在に見えます。すべてを征服していくヘンリーに対して面と向かって、服従はしないと告げる。
そして様々な戦の背景を聞きながら、「本気で言ってるの?なんてくだらない。」と一蹴してしまう。ヘンリーが自分自身の正義と信じてきたものが、実際には側近のウィリアムの仕組んだものであった。
ウィリアムの彼自身の正義に、ヘンリーも利用されていたというわけです。
この男たちの世代を国を越えた殺し合いのプライドの小競り合いに、女性が一言で無価値と言い放つのはかなり痛烈ですね。
だからこそ最後に、ヘンリーは真実だけを話してくれればそれでいいと告げるのでしょう。
完璧な印象ではなく、短編のつなぎ合わせのような体裁は否めないのですが、ティモシーの熱量だったり、とんでもなくイライラするムカつく皇太子を好演したロバート・パティンソン、脇を固める俳優陣の力もあって観ごたえのある歴史ドラマでした。
今回の感想はここまで。ではまた。


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