スポンサーリンク

「オーダー」”The Order”(2024)

スポンサーリンク
the-order-2024-movie 映画レビュー
スポンサーリンク

「オーダー」(2024)

the-order-2024-movie

スポンサーリンク

作品解説

  • 監督:ジャスティン・カーゼル
  • 製作:ブライアン・ハース、スチュアート・フォード、ジャスティン・カーゼル、ジュード・ロウ
  • 脚本:ザック・ベイリン
  • 撮影:アダム・アーカポー
  • 美術:カレン・マーフィ
  • 衣装:レイチェル・デイナー=ベスト
  • 編集:ニック・フェントン
  • 音楽:ジェド・カーゼル
  • 出演:ジュード・ロウ、ニコラス・ホルト、タイ・シェリダン、ジャーニー・スモレット=ベル 他

「ニトラム」などのジャスティン・カーゼル監督が、アメリカの実在する白人至上主義団体が引き起こした数々の犯罪と、それを追いかけることになるFBI捜査官の闘いを描いたクライムサスペンス。

主演は「不都合な理想の夫婦」などのジュード・ロウ、「マッドマックス 怒りのデスロード」などのニコラス・ホルト。また「レディ・プレイヤー1」などのタイ・シェリダンが捜査官に協力する地元の警官を演じています。

2024年の第81回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品となり、なかなかの評価を得ている作品。今作は日本での劇場公開はなく、Amazon Prime Videoで2025年2月6日から配信されていました。

最近お勧めで鑑賞したので感想を。

~あらすじ~

the-order-2024-movie

1980年代のワシントンで、銀行強盗や自動車爆破といった凶悪事件が相次いで発生。

FBI捜査官テリー・ハスクは、これらの事件が偶発的なものではなく、人種間対立をあおり政府を標的とする極右組織の計画的な犯行だと考えていた。

捜査を進める中で、ハスクは「オーダー」と名乗るテロ組織のカリスマ的指導者、ボブ・マシューズの存在に迫っていく。

ハスクは地元の保安官ジェイミーの手助けを受けながら、この組織の行動と次の犯行への対策を急ぐ。しかし、ボブは彼らの一歩先を行き大量の重火器を得た上に、これまで以上に大規模な攻撃の準備をしていた。

感想レビュー/考察

the-order-2024-movie

起きたことよりも、なぜ起きたのかの根源を探る

実話をもとにしたクライムスリラー。過激な人種差別主義団体とそれを追いかける話でいえばスパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」などが思い起こされます。

アメリカの歴史を見ても、公民権運動の際には直接的にアフリカ系アメリカ人への攻撃がされていたり、その後も様々なヘイトクライムが巻き起こっていて、悲しいことにネタが尽きないものなのだと思います。

ジャスティン・カーゼル監督は事実を誇張したりしない、硬派でスリリングな作品を仕上げていますが、実は表層で繰り広げられる捜査や銃撃戦とかは最優先事項ではない気がしました。

むしろ注目するべきなのは、何が起きたかではなくてなぜ起こったのか。

このオーダーの存在と彼らの行動原理が非常に恐ろしいものとなっていると感じました。

因果関係自体にフォーカスを当てていて、実際の事件そのものの残虐さよりももっと奥深い部分を理解し描き出そうというのは、カーゼル監督の前作にあたる「ニトラム」にも通じていますね。

ターナー日記とは?

では、なぜ起こったのかの原点について考えてみましょう。

今作では1980年代に実際に犯罪行為に手を染め始めた人種差別主義団体を追いかける話ですが、彼らが行動原理にしたのは、ある日記です。

それは「ターナー日記」というタイトルで、ウィリアム・ルーサー・ピアースが1978年に発表した小説となっています。

この小説の中身についてはアレックス・ガーランド監督の「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を強く思い出しました。

「シビル・ウォー」ではうまいことボカされてはいるものの、明らかに白人のための国家を樹立し、現システムを崩壊させ主権を奪還しようとする軍事勢力と、現行の国の軍隊が戦っています。

ターナー日記についても、当時から見ての未来である2009年を舞台に、白人以外の人種を根絶させることを描き出すものになっています。

その理想を成すために一度は現体制をすべて葬り去る必要があるとし、ゲリラ活動を始める白人青年の物語が描かれているのです。

the-order-2024-movie

ターナー日記と関連があるとされるテロ事件も

オーダーのボス格であるボブ・マシューズはこのターナー日記を神格化し、まるで聖書のようにあがめています。ここに書かれていることをすべて現実に実行する、その使命があると燃えているのです。

事実、オーダーはこのターナー日記をもとに強盗や殺人などの犯罪行為を躊躇なく行います。

実はこのターナー日記はその後にも様々なところで言及され、1995年4月19日に起きたオクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件では、その犯人であるティモシー・マクベイがターナー日記を読み漁っていたことで有名です。

ニコラス・ホルトが細いラインを歩き切った演技

今作では純粋な青年味のある綺麗な瞳のニコラス・ホルトが、このボブを演じています。

見た目とは裏腹に非常に危険な存在ですし、いろいろと言いながらもちゃんと仕事しないし浮気していたりと、とことんクズです。ですが彼は抱えている恨みを特定の敵にぶつけたい。

そこで有色人種を攻撃しますが、それが個人のたわごとでも意見でもすまされないところまで行っている。ターナー日記があるからです。

小説を聖書のように考えて、行動に移してしまうし、だからこそ(意味不明なのですが)大義名分を持っていると思っている。

ニコラス・ホルトが、かわいさを押し殺して小憎らしい部分だけパラメータぶっ飛ばして演じているので、まあ嫌な悪役になっていますね。

役柄としては、難しい役と思いますが、そこをうまく演じきっているのがすごい。このボブはカリスマ的な存在ではありますが、みるからに異常者とかキャラクター感が出てはいけないのですが、一般人過ぎると周囲の人間が彼についていく理由が不透明になる。

細いライン上に乗っているボブを熱演していたと思います。

とはいえ、先述の通り焦点を当てているのが別のところではあるので、このボブ個人に関してのドラマというのは割かし控えめかもしれません。

the-order-2024-movie

少々各人物のドラマは地味で抑え気味

控えめという意味ではジュード・ロウが演じたFBI捜査官のハスクも、彼の以前の部下を死なせてしまったというストーリーは添えられていますが、そこまでの掘り込みには感じませんでした。

なかなかの荒くれものであるハスクの役柄自体は好きです。

あとは、タイ・シェリダンですね。彼が地元の警察としてすごく正義感が強くて一生懸命な青年を演じています。

実話をもとにしているから、地道な部分もありますが、やはり今作ではフィクションが及ぼす影響という恐怖が、最も印象的。

フィクションをフィクションでスルーしてもいいのか?

このターナー日記。小説なのでフィクションです。表現の自由はあるし、あくまで空想の物語なので規制されない。芸術は芸術。暴力的な物語自体には罪がない。

しかし、現実にはそうした物語に触発され、それを自身の暴力性の正当化に使用する者がいる。それによって行動にまで出てしまう者がいる。

極右の小説が時代を越えてまで影響を与えて、人が死ぬ。

フィクションをそのまま野放しにしていいのかという議論が、ここにある。性暴力が横行するような漫画とか、激しい描写を含むポルノ。こうしたものに浸りすぎて実際に行動に出てしまう人間がいるというのも聞いたことのある話。

もちろん作品に罪はないのかもしれませんが、しかし人に大きな影響を与えることは間違いはない。

ものすごく差別的な内容を含んでいるようなメディアも、放置すると、このオーダーのような組織に神格化されてしまうかも。

オーダーの犯罪行為とか人物のドラマというよりも、こういった危険な思想をまき散らすものを放置することがはらんでいる危険性にかなり怖さを覚えました。

今なお、こうした過激なメディアはあふれているから。それが許されている限り、現代にオーダーのような組織は生まれ続けてしまうのです。

ジャスティン・カーゼル監督の資質として、恐ろしい事件を描きつつ、そこには普遍的に今なお存在する恐怖があることを伝えるという作家性があるのかもしれません。

今作もなかなか楽しむことができました。今回の感想はここまで。ではまた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました