「ゴールデン・リバー」(2018)
作品概要
- 監督:ジャック・オーディアール
- 脚本:ジャック・オーディアール、トーマス・ビデガン
- 原作:パトリック・デウィット
- 製作:ローザ・アタ、パスカル・コシュトゥー、マイケル・デ・ルカ、アリソン・ディッキー、ジョン・C・ライリー
- 音楽:アレクサンドル・デスプラ
- 撮影:ブノワ・デビエ
- 編集:ジョナサン・エイモス、ジュリエット・ウェルフラン、ポール・マクリス
- 出演:ホアキン・フェニックス、ジョン・C・ライリー、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド 他
「君と歩く世界」などのジャック・オーディアール監督が描く、殺し屋兄弟と彼らに追われる黄金捜索をする男たちの物語。
殺し屋兄弟として「ビューティフル・デイ」のホアキン・フェニックスと「僕たちのラストステージ」などのジョン・C・ライリーが組み、追われる男たちを「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」のジェイク・ギレンホール、「ヴェノム」のリズ・アーメッドが演じています。
オーディアール監督の作品は初めて観ました。どちらかと言えば、キャストがみんな好きなので、それ目当てでの観賞。
7月頭公開だったのですが、何だかんだで月末に観ることに。日比谷で平日夜、人はそこそこ入っていました。
~あらすじ~
ゴールドラッシュのアメリカ。
冷酷な殺し屋として名をあげているシスターズ兄弟。
オレゴンを支配する提督の下働く彼らの次の任務は、提督から何かを盗んだウォームという外国人の抹殺だった。
ウォームを探す偵察ジョン・モリスからの連絡を受け、ウォームを追うシスターズ兄弟。
しかしウォームと親しくなったモリスは兄弟を裏切り一緒に逃亡してしまうのだった。
感想レビュー/考察
邦題は「黄金の川」になっていて、予告を観た感じでも金塊がらみの男たちのドラマだと思っていました。
ジョン・ヒューストンの「黄金」のような欲望渦巻く男まみれの作品かと。
しかし、良い意味でその予想は裏切られ、確かに男だらけではあるものの、実は男性性から逃れようという意外な方向へ展開する作品でした。
おそらく西部劇はもうメインストリームになく、かつての栄華を取り戻すことはないでしょうけれど、こういう作品が、題材が描かれるメディアとして絶対に無くなることはないと思いました。
いつでも、新しい西部劇は生まれるのだと。これからも楽しませてくれるのだと。
作り上げられる西部世界ですが、実は一切アメリカロケはなく全て欧州での撮影だとか。木造屋敷のオレゴンに、メイフィールドの牛耳る町、バビロン的サンフランシスコから金のうまる川、山々など完成度が高いです。
アレクサンドル・デスプラの音楽も、モリコーネなどのメロディではなくでもとても西部劇の哀愁に溢れたもので良かったと思います。
オーディアール監督はゴールドラッシュとガンファイトというすごく暴力的で欲に溢れた人間世界を舞台に、濃厚な人間ドラマを展開します。
組織や銃撃戦、金塊探しはあくまで背景なのだと思います。
今作は4人の男たちのそれぞれの解放の物語。特に、タイトル通りにシスターズ兄弟が主人公なのですが、危ういホアキン・フェニックスの素敵さもありながら、やはりイーライを演じるジョン・C・ライリーこそが一番光っていました。
「僕たちのラストステージ」に続き、とってもいい演技と、彼の持ち味であるコメディなところと、むさくるしい中の優しさとが魅力全開になっています。
歯ブラシの件とかのおかしさ、ダブにまつわる繊細さ、娼婦とのやり取りやあのショールなどから見えてくる母性への欲求とか寂しさとか。奥深いキャラクターです。
兄弟たちとモリス、ウォームの4人で過ごすあの川辺での日々こそ、この西部の世界から少し離れた理想郷だったように思えます。
兄弟はお互いに髪の毛を切る、つまり刃物を託すくらい信頼しあっているのですが、あの川辺では兄弟はお互い以外の人間と個人的な話をします。
父に憑りつかれたイーライがもらすのは、チャーリーを変えた事件と兄としてその時弟を守れなかった後悔。
だからこそ、こんなにも荒くれで飲んだくれで、自分をちょっとバカにしたりするチャーリーを、いつも世話し守ろうとするのですね。
モリスも漏らしますが、父性からの逃亡と解放の話です。
兄弟は父から離れながら、結局は提督という、また男の支配者によりその下で身動きできずにいるのです。
ウォームの言葉どおりこの世界のなんと残酷なことでしょうか。
確かに、オーディアール監督は銃、ガンファイト、追手、長旅に金塊、支配者の街や酒や、もう西部劇のすべての要素を入れ込んでいます。
だからこそ、この荒れ狂う世界において、4人の男たちの物語が切なくなるのです。
どうしたら、この暴力の世界から離れられるのだろうかと。
最初に兄弟を照らすのは、銃の噴く火と納屋を焼く炎でした。暴力のど真ん中の、闇の中を生きていたのです。
残酷な世界は理想郷を求めるものを殺してしまいますが、 最後は優しい日の光を受け、殺人者として生きてきた者に少しの贖罪と、希望を感じさせてくれる、暖かな抱擁をくれる西部劇でした。
意外な方向を向いた西部劇、しかし西武の世界が必然背景としてある人間ドラマ。
これは西部劇を苦手とするひとこそ観て欲しい西部劇であり、西部劇が好きな人にとっては、このジャンルのもつ可能性が楽しめる作品です。
新しい視点や物語を描ける。西部劇は絶対に死なないと確信させてくれる素晴らしい作品でした。
感想としては以上になります。ホントに見逃さず劇場観賞できて良かったです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それではまた次の記事で。
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