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「この世に私の居場所なんてない」”I Don’t Feel at Home in This World Anymore”(2017)

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i-dont-feel-at-home-in-this-world-anymore2017 映画レビュー
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「この世に私の居場所なんてない」(2017)

  • 監督:メイコン・ブレア
  • 脚本:メイコン・ブレア
  • 製作:メッテ=マリー・コングスヴェド、ニール・コップ、ヴィンセント・サヴィーノ、アニシュ・サヴジャニ
  • 音楽:ブルック・ブレア、ウィル・ブレア
  • 撮影:ラーキン・サイプル
  • 編集:トーマス・ヴェングリス
  • 出演:メラニー・リンスキー、イライジャ・ウッド、ジェーン・レヴィ、ゲイリー・アンソニー・ウィリアムズ、ミシェル・モレノ、リー・エディ、クリスティン・ウッズ、メイコン・ブレア 他

作品概要

i-dont-feel-at-home-in-this-world-anymore2017

「ブルー・リベンジ」など俳優として活躍するメイコン・ブレアが監督デビューを果たす作品。

空き巣被害にあった看護師の女性が、隣人の助けを受けて盗まれたものを自分の力で取り戻そうというブラックコメディに富んだクライムドラマ。

主演はピーター・ジャクソン監督の「乙女の祈り」で主演を務めたメラニー・エリンスキー。また彼女の奇妙な隣人であり冒険を手伝うことになるのはイライジャ・ウッド。

その他「ドント・ブリーズ」のジェーン・レヴィが犯罪集団のメンバーを演じています。

脚本もメイコン・ブレア監督自身が手掛けていますね。

すごいタイトルをしていますが、もともとの原題もほとんど同じ意味合いですね。でもすさまじい内容とか、孤独と絶望というのはやんわりになっている感じで、ユーモアあふれてちょっと可愛らしい作品です。

サンダンス映画祭に出品されて、そこで審査員グランプリを受賞、ネットフリックスにより製作され配給が決定しているため配信での公開になっています。

「この世に私の居場所なんてない」NETFLIX視聴サイトはこちら

もともとネトフリに会ったことは知っていたのですが、ずっとマイリスト入りさせて放置していたのでいざ鑑賞。

前情報なく過ごしていたので、そもそもメイコン・ブレアの監督デビューということも知らなかったです。

~あらすじ~

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看護助手として働いているルース。彼女の人生は踏んだり蹴ったりの毎日だ。

看取った老人は最低最悪な暴言をぶちまけて逝ってしまうわ、道を歩いていても車は道を譲らず突っ切るし、さらに家の前には犬の糞がなんども放置されている。

そんな彼女にさらに災難が襲う。

なんと彼女の留守中に誰かが家に侵入。荒らしまわった挙句にノートパソコンと、祖母の形見である銀食器を盗んでいったのだ。

警察に通報するもあまりまともに捜査をしてくれる感じもなく、防犯の甘さについて攻めてくる始末。

そしてルースのスマホに、彼女のノートPCの位置情報が表示されたところから話が動き出す。

頼りにならない警察に愛想をつかした彼女は、変な隣人トニーの助けを借りて自ら犯人捜しに乗り出したのだ。

感想/レビュー

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社会への怒りを奇妙なユーモアにのせる

シドニー・ルメット監督の「ネットワーク」しかり、最近ではケン・ローチ監督の「私はダニエル・ブレイク」しかり。

メイコン・ブレア監督による今作は、社会における底辺に位置するような人たちが、このうんざりするようなクソったれな社会に対して怒りの叫びをあげるタイプの映画群に名を連ねるものになっています。

しかし一方で、その手法やトーンはシュールでありブラックなコメディであり、それでいながらも絶妙な緊張感も持ち合わせていました。

オープニングのシーンからしてもガッチリとこちらを掴んでくる上に、すべてのテーマを説明して見せています。

ルースの登場は散々なもので、彼女の生きるクソのような世界が笑ってはいけないけどおかしいスタイルで見せられていきます。

BLMの映像に重ねて、白人のばあさんが罵詈雑言を尽くしてそのまま死んでいく。「母は何か最期に言っていましたか?」に対して、そりゃ何にも言えないでしょう。

それだけも面白いですが、ここで死の間際までもこの世界を呪い続けている人間を既に登場させているわけです。

実はこれが今作のルースの旅路に置いて、彼女の生末の1つの可能性になります。

ルースはついにぶちキレて、社会を世界に対し悪態をつき続ける人間になるのか。

と、命題がうまいことほのめかされていますが、正直それを置いておいても楽しい作品です。何だろうこのユーモア。

ルースの読んでいる本について、もろネタバレかましてくるところとか、SNSで映画ネタバレ踏むアレに似た感じ。

犬の糞とか含めてなんというか、日常レベルでのうざさ、むかつきが重なる。

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愛嬌ある、オタクで外れたキャラクター達

大ごとというほどのものではないけれど、積み重なると怒り爆発もやむ負えないですよね。そのリアクションをしていくルースの造形がすごくいいんです。

演じるのはメラニー・リンスキー。決してモデル体型ではなく若くもなく独身で良い仕事でもなく友人も少ない。

オタク気質な彼女を主人公にしますが、口下手というかなんというか。

でもルースにうっとおしさを感じさせず、応援したくなるのは、間違いなくメラニーの魅力のおかげ。どっちかと言えば、イライジャ・ウッドのトニーも含めてかわいらしい。

外していくテイストの巧さがあるんです。

GOTGのドラックス的な感じでしょうか。またタイカ・ワイティティのコメディにも近しいものを感じます。

警察への電話シーンとか、なにより手裏剣とか。バカワイイ。

ルースもトニーも、へんてこな人ではあるんですが、「他人にひどいことをするな。」「なぜみんな善くあろうとしないのか。」そうしたちょっと真っすぐすぎる正義感を持ち合わせています。

転調と暴力の渦

見ていくうちに、ただ棚のものを落としておいて拾わない奴から、実際に強盗をする犯罪者までどんどん悪化していくルースたちの敵。

このあたり、スコアが地味にいい味です。

コメディ調な序盤からそこまで軽い音楽ではなくて、後半にかけてのスリラーへの移行に違和感ないような調整役を担っていますね。

自己中人間に嫌気が差して反抗していく旅で、ルースはすこし変わってしまう。

棚のものを拾わず、レジでも譲らない。事故とは言っても暴力に絡んでいく。ルースは負け組感強い女性ですが、先程言ったようなきれいな心の持ち主です。

それが汚れていき嫌ってた人たちと同化していくような流れには悲しさを覚えました。

負けないでほしい。最後までルースは優しいルースのままで。

ここであのOPの婆さんのようになってしまうのか・・・という怖さがじわじわとやってくるわけですね。

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この世は腐っているけれど、善くあることはできる

ただし盛大なゲロの後に、ルースは底にある善を見せます。

かわいげあるコメディがスプラッタバイオレンスへと転換するクライマックス。蛇の下りを経て示されるのが、この世には居場所がないように思えても、しかしこの世で善であり続ける、善であろうと努力することには意味があるということ。

コーエン兄弟の「ノーカントリー」ではこの世界の狂気や崩壊、人というものの行いの残酷さに絶望し世が分からなくなった保安官が描かれました。その意味では今作も似たような視点を持っているのですね。

一人の女性がどうにもならない世界に怒り、あきれ果て絶望する。

しかしその中でもルースにはトニーがいました。モーニングスターにヌンチャク、手裏剣を操り、スパムに引っかかるPC弱者で犬にもいうことを利かせられない変人ですが、彼にも善の心がある。

非常に変わった社会批判作品。

メラニー・リンスキーの素晴らしい演技に彼女の可愛らしい魅力が炸裂したルースと、イライジャ・ウッドのトンチキ良心野郎トニーという素敵なキャラクターによって輝いている作品です。

メイコン・ブレア監督デビューとして非常に今後が楽しみになる映画ではないでしょうか。

ちなみに今作は監督の実体験である空き巣被害をもとにしているらしく、また彼自身がルースにほんのネタバレをする最低野郎としてカメオ出演もしているなど、監督がしっかり製作を楽しんでいるわけです。

今後も期待していきたいなと思います。

今現時点においては、ケビン・ベーコンを迎え、またイライジャ・ウッドも再度出演、そのほかジェイコブ・トレンブレイなど集めて”The Toxic Avenger”という映画を撮影中。なんか科学的な毒薬に突っ込んでスーパーパワーを手に入れるオタクとかいう「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」みたいな映画らしいです。

ということでちょっとおまけ話が長くなりましたが、感想は以上。

これ結構お勧めなのでネトフリ会員の方はぜひ。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ではまた次の記事で。

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