「ザ・ハント」(2020)
- 監督:クレイグ・ゾベル
- 脚本:ニック・キューズ、デイモン・リンデロフ
- 製作:ジェイソン・ブラム、デイモン・リンデロフ
- 製作総指揮:クレイグ・ゾベル、ニック・キューズ、スティーヴン・R・モレン
- 音楽:ネイサン・バー
- 撮影:ダーレン・ティアナン
- 編集:ジェーン・リッツォ
- 出演:ベティ・ギルピン、ヒラリー・スワンク、アイク・バリンホルツ、ウェイン・デュヴァル、エマ・ロバーツ 他
ブラムハウス制作で、富裕層が一般人を人間狩りゲームとして殺害する中で、反抗する女性の姿を描くアクションスリラー。
監督は「コンプライアンス 服従の心理」のクレイグ・ゾベル、主演は「僕のワンダフル・ジャーニー」などのベティ・ギルピン。
今作は銃撃事件を受けての公開延期から、コロナ感染症拡大での映画館封鎖などの色々な障害を受けての公開となりました。
また、内容に対して保守層、トランプ大統領が激しく反応して話題になったことも印象に残っています。
正直日本での公開は見送られるか、配信になるのかと思っていましたが、無事に劇場公開ができたようです。
今回は平日昼に日比谷で観てきました。人は少なめ、若い人も別にいませんでしたね。
ある集団が口枷をされた状態で森の中で目覚める。
野原には不可思議な木箱が用意されており、その中には様々な銃器が置かれていた。
それぞれが武器を手にすると、どこからともなく銃撃が開始され、次々に人が死んでいく。
これはネットで噂されていた人を誘拐し狩るゲームであった。
周囲全体が狩りのために設計されており、住人に成りすましたハンターもいた。
そんな中で、慎重かつ巧みな戦術を用い状況を把握しながら生き残る女性がいた。
ブラムハウス製のアメリカ現代を皮肉るバイオレンスアクションとのことで、スタジオの多様かつユニークなアプローチを楽しみにしていた身としては、大変満足のいく作品でした。
金持ちにより人間狩りというスプラッタジャンルではありきたりな題材に一捻り加えて、今(時に無意味に)分断されすぐに炎上する人々を描きます。
予告編以上に社会的な部分を入れ込んでいました。
ただ、ジェットコースターのように流れていく本作は、主人公登場までの比較的空いた時間で、作品のトーン確立を済ませます。
バイオレンスは過激なのですが、じわじわくるのではなく痛快。
気前よく身体が吹っ飛び、蜂の巣になる様は、逆に気持ちのよいもので、観やすく感じますね。
この辺りは、「レディ・オア・ノット」に感じるものに近い気がします。死すら”Fuck”で済ませる感じの抜け感。
また今作の主人公となるベティ・ギルピン演じるクリスタルのキャラも良いですね。
強さが保証されているので、雑魚を蹴散らすことに集中できる点は、「96時間」や「ジョン・ウィック」のようで前へ前へと観ていけます。
まともに俯瞰しているようで、彼女自身ややイカれているサイコ感がシュールな笑いにも繋がっています。
なんというかベティの絶妙な顔芸というか、リアクションの薄さがおもしろい。
しかし一方で、線路脇の手榴弾のシーンでは、母親と赤子を守ろうとする姿があり、キャラクターに善の要素を巧く入れ込んでいます。
個人的にはこの小さな描写が、大きく働いていると思います。
とことんステレオタイプをおちょくって、現実のアメリカ社会を皮肉して、しかしその先までに行き着くことはない感じです。
リベラルのクソどもと、”哀れな連中”をなんとなく分かりやすい形に。そして人殺しゲームではよく展開されている、狩る側と狩られる側の逆転も。
基本にのっとりながらもシュールな視点を持って、対立するグループを描く。
ネット上での発言が思いもしない方向へ進み、現実になり。
ただこの作品の観客視点のように、少し俯瞰してみると「こいつら何やってんの?」「この人何と戦ってるの?」状態なんです。
やたらリベラルや保守、政権に対する支持・反対などで分断しますが、よく考えてみれば全く意味のない戦いを繰り広げている。
結局相手が誰かもわかっていない。
社会風刺映画としはセッティング止まりな気もしますが、しかし独特のシュールさで皮肉ってくるテイスト、主人公演じるベティ・ギルピンの魅力には引き込まれ、ライドのように見ていける痛快な作品でした。
ブラムハウスの映画を追う意味でもおススメです。
感想はこのくらいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それではまた次の記事で。
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