「ブラック・ボックス」(2020)
- 監督:エマニュエル・オセイ=クフォー
- 脚本:エマニュエル・オセイ=クフォー、スティーブン・ハーラン
- 製作総指揮:ジェイソン・ブラム、アーロン・ボーグマン、リサ・ブルース、ジェイ・エリス、ジェレミー・ゴールド、ミネット・ルーイ
- 音楽:ブランドン・ロバーツ
- 撮影:ヒルダ・メルカド
- 編集:グレン・ガーランド
- 出演:ママドゥ・アティエ、フィリシア・ラシャド、アマンダ・クリスティーン、トシン・モロフンポラ 他
短編作品を手掛けてきたエマニュエル・オセイ=クフォー監督の長編デビュー作。
記憶障害を抱える男が先進的治療を受けたことで、潜在意識に潜む何かと遭遇しその真実を解き明かしていくSFスリラー。
主演は「ザ・サークル」、「アンダーウォーター」などのママドゥ・アティエ。また「クリード」シリーズのフィリシア・ラシャドが脳神経外科医として出演しています。
製作はジェイソン・ブラムのブラムハウスとアマゾンスタジオであり、配信公開された作品になります。日本のAmazonプライムビデオにても観れたので鑑賞。
ノーランは交通事故によって妻を亡くし、また自身もその際に一時昏睡状態となった。
奇跡的に目覚めたノーランだったが、影響は残り記憶障害を抱えている。そんな彼を支えてくれるのは、まだ幼い娘で、記憶障害のせいで約束を忘れてしまったりうまくいかないこともあるが、ノーランは必死に努力していた。
しかし、ノーランは自分の記憶のないところで、暴力的な振る舞いをしたりと異常が多く、はやく後遺症を克服したいと焦っている。
そんなある日、”ブラック・ボックス”という、VRを駆使して潜在意識に潜り込むという先進的な治療を、神経外科医リリアンから進められる。
その治療の中で過去の記憶への潜っていくノーランだったが、事実と異なる記憶をみたり、登場する人物の顔がぼやけていた。
そしてさらにその記憶のなかで、人を形をしながらも奇怪なうごきをする謎の存在に襲われるなど、不可解な出来事が続くのだった。
監督デビュー作として、アイディアこそある程度使われてきたものでありながらも、丁寧なトーンとママドゥ・アティエの演技により良質な仕上がりになった作品だと思います。
身体を乗っ取られるタイプの作品ですが、その仕掛けをゴールにはしていません。その意識の占有についての攻防は抑えめで、ここでは家族の愛情の形を主軸にしています。
個人的にはそこの構成が非常にバランスよく、演技によるドラマ面で補われているために一定の上質さを持ってるのだと感じています。
そもそもの意識の埋め込みが明かされるまでの、組み立ても、そのおかしな点を絶妙にホラーにしながら描いていて引っ張っていくわけです。
そこまでではジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト」のような潜在意識への旅、また記憶障害から謎を追って生活するのはクリストファー・ノーラン監督の「メメント」になっているのでちょっと既視感はあるかもしれません。
しかし、他人の意識が埋め込まれているという事実が明かされてからはホラーを抑えめにして、二つの親子を二項対立として描くことになります。
これが体を乗っ取り寄生するタイプでごり押ししていたらおそらくつまらなくなっていたでしょう。
ただ監督はノーランと娘のエヴァ、そしてリリアンと息子のトーマスとを並べていきます。そして支配的関係と相互に助け合う友好的な関係を描いていくのです。
ここではなんとなく、トーマスから体を奪い返すことが主軸になっているのではないと感じています。
脅威の描かれ方がそう感じさせます。
今作は初めに潜在意識に潜った時から、あのモンスターを登場させています。
不気味な動きで骨折するような音を立てて近づいてくるあの存在ですが、実際のところ、あれは頻繁に出てくる割りにはそこまで怖くなく、またノーランが一発蹴りを入れたら倒せるレベルの描写。
なぜなら、今作は自意識に潜り込んだ他人を倒す話ではないからです。
むしろもっと根幹にあるのは自分の中の抑えきれない自分、もしくは本当の自分を取り戻していく話なのかと。
トーマスは暴力的衝動があり、それの生で人生を一度失敗しています。彼は死んだのです。それを神になったように振る舞う母が無理やりにでも再起動させた。
その時トーマスは今度こそ、やり直すのではなく自分の暴力性と向き合い行動する。
そしてノーランは自分自身を思い出せない障害を乗り越えて、娘と友人という他己からの定義で自分の元に帰ってくるというわけです。
ありきたりになりそうなところ、こうした変化球でかなり特異な作品になり、また演技がすごく良かったと思います。
別人格を演じ分けうることになるママドゥ・アティエの繊細さもこのドラマ部分を強めてくれていますし、個人的にはフィリシア・ラシャドがすごくいいと思います。
彼女はヒステリックにならない。見るからに狂気をみせず、むしろ堂々と穏やかで力強い言葉とトーン、雰囲気を保ったまま、身勝手で狂ったことを言っている。
狂気の母親を品格を保ちながら見事に演じてました。
ブラムハウスのユニークさを追いかける姿勢やエマニュエル・オセイ=クフォー監督のデビューとして結構楽しめる作品になっていると思います。
Amazonプライムビデオにて配信されていますので、気になる方は是非。
今回は短めですが感想はこのくらいです。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
コメント