「胸に輝く星」(1957)
- 監督:アンソニー・マン
- 脚本:ダドリー・ニコルズ
- 原案:バーニー・スレイター、ジョエル・ケイン
- 製作 ウィリアム・パールバーグ、ジョージ・シートン
- 音楽:エルマー・バーンスタイン
- 撮影:ロイヤル・グリッグス
- 出演:ヘンリー・フォンダ、アンソニー・パーキンス、ベッツィ・パーマー、リー・ヴァン・クリーフ、マイケル・レイ、ジョン・マッキンタイア 他
「ウィンチェスター銃’73」などを手掛けたアンソニー・マン監督が、「怒りの葡萄」などの名優ヘンリー・フォンダと「サイコ」で映画史に残るアンソニー・パーキンスを迎えた西部劇。
ある賞金稼ぎと、町の新米保安官が師弟関係を築き、法の元の正義を貫こうと奮闘するドラマです。
脚本家は「駅馬車」なども手掛けたダドリー・ニコルズ。彼は今作でもアカデミー賞脚本賞ノミネートを果たしています。
タイトルの旨に輝く星というのは、劇中でも登場しますが保安官が胸につけるシルバーの星型バッジのことですね。
もともとヘンリー・フォンダの役はマン監督とコンビを組むことが多かったジェームズ・スチュワートが配役されていたようです。
アンソニー・マン監督の作品って実はあまり見たことがないかも。「グレンミラー物語」は昔見た記憶がありますが。
今作は監督つながりではなくて西部劇の映画をいろいろと見ていてみつけました。
モーグという男が馬に死体を積み町へとやって来た。
彼は賞金稼ぎであり、金を受けとるために保安官事務所へと赴く。
そこには前任がいなくなり急遽保安官になったベンがおり、モーグは賞金の輸送手続きのために町で待つように言われる。
しかし住人たちはよそ者で人殺しでもあるモーグを快く思わず、彼には泊まる場所も馬を預ける納屋も貸してくれなかった。
モーグはキップという少年に出会い、彼の家へと案内され、この親子のもとに身を寄せることになる。
一方町では牧場主であるボガータスが幅をきかせ、インディアンを撃ち殺す事件が起きる。
ベンは保安官として彼を逮捕しようとするも、正当防衛だと抵抗され、一触即発に。
そこでモーグが助太刀に入ったことから、ベンはモーグに法の裁きや保安官としての強さを教えてもらおうと願い出た。
とっくに黄金期は過ぎ去ってからの、50年代は後半、しかもまだモノクロという西部劇にはなりますが、ここではやはり時代の流れからジャンルが受けている影響をすごくたくさん垣間見れる気がしました。
一番強く感じるのは、フレッド・ジンネマン監督の「真昼の決闘」でしょうか。
法の正義を信じる保安官が半ば孤立してしまう様や、町の住人たちの薄情さは、かなり似通ったものを感じます。
強く、慕われていて完全なヒーローである保安官像はありません。
まあ赤狩りとか経て来ての変化かもしれませんが、王道なのかと言えば少し違って感じました。
あと、この師弟関係はどうしても、トニーノ・ヴァレリ監督の「怒りの荒野」におけるガンマン十戒っぽく思います。
まあこちらの方が10年ほど前の作品ですが。
またもう一つ、「リバティバランスを撃った男」も匂わせている気もします。ヘンリー・フォンダはあの映画でいうところのジョン・ウェインとも思えるタフ・害であり、一匹狼であり銃での解決をする人間です。
フォンダはその渋さと貫録を武器にして非常にいい味を出していますが、決してマカロニ的な殺人者ではなく、その裏にある優しさをのぞかせます。彼自身良心を描くような役者であるので、今作でのモーグのドラマには深みを与えてくれていますね。
一方のベンはまさにジェームズ・スチュワートが演じたあの弁護士のように、この西部の町を法つまり秩序で収めようと燃えています。
彼は決して臆病なのではなくて、むしろ銃に頼らない勇敢さを持ち合わせた男であり、アンソニー・パーキンスの好青年的な顔立ちから新時代を感じさせます。
と、このようにいろいろと外部からも考えられて楽しい作品ですが、マン監督はそれぞれのドラマをリアリズムを持ちながら濃厚に描いていきます。
つまるところ孤独な者たちの奮闘です。
一度はその銀の星に失望したモーグ、銀の星に人の善を託し信じるベン、そして町医者とあのキップと母。
皆ある意味でこの町では浮いた存在です。
インディアンに対しての差別だったり、よそ者や賞金稼ぎに対する冷遇。この浮いてしまった者たちのそれぞれの関係性のすごく暖かな描写が多いですが、しかし一方で町の人間たちの冷たさに唖然とします。
マン監督はこれらを枠の中に観るショット、多くは窓を通してのショットで巧みに映し出していきますね。保安官事務所の窓から見る外には、法など無関心で私刑を望む住人たちがうごめいている。
ボガータスたちのヒステリックな集団は窓の外で狂気に騒ぎ立てる。集団心理的な描写もこの後に続き、非常に恐ろしい。
少しでも分が悪くなれば、「今のうちに二人を裏から出せ」と、卑劣な方法で自分たちの責任を逃れて人が殺されようとかまわない連中。
彼らはこの聖域たる保安官事務所に入りながら、とどまることはないのです。むしろ、元保安官であるモーグのほうが、この聖域によくいる構図が多いです。
そしてついに緊張する対決の時、その窓がぶち破られる。
モーグはベンに教えます。
銃を知ることよりも、人を知ることのほうが重要であり難しいと。
開いた扉から見える町。あの時ベンはまだ、町の住人にも希望をみていました。
人間観察を深く行う西部劇であり、マン監督は窓のフレームからその内と外の対比や人間性の変化を捉えています。
渋いヘンリー・フォンダの味わいが光り、そしてアンソニー・パーキンスの優しさやクリアな印象も楽しめます。
ロングカットで死体を引き連れてやってくる不穏なOPから一転、エンディングのロングカットの多幸感が際立ちます。
帰るべきところを得たモーグと、居場所に革命を起こしたベン。
短い間の友情と師弟関係ですが、モーグの中には再び正義の星への希望がよみがえり、そしてベンは折れない心を得る。
撃鉄の描写やホルスターの位置とかリアリズムのこだわりもありますし、フレーム構成やパンショットも巧、演者も良いと来てストーリーも素敵なので、かなりいい西部劇ですね。
これまで知らなかったのが結構悔やまれます。秀逸な作品ですが、そこまで知名度はないのかも?
もし気になる方は是非一度鑑賞を。
今回の感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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