「約束の宇宙」(2019)
作品解説
- 監督:アリス・ウィノクール
- 脚本:アリス・ウィンクール、ジャン=ステファヌ・ブロン
- 製作:イザベル・マドレーヌ、エミリー・ティスネ
- 音楽:坂本龍一
- 撮影:ジョルジュ・ルシャプトワ
- 編集:ジュリアン・ラシュレー
- 出演:エヴァ・グリーン、マット・ディロン、ラース・アイディンガー、ゼリー・ブーラン・レメル 他
「ラスト・ボディガード」などの監督、また「裸足の季節」などの脚本家としても活躍するアリス・ウィノクールが、シングルマザーの宇宙飛行士と娘の関係性を描いたドラマ作品。
主演は「007カジノロワイヤル」や「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」などのエヴァ・グリーン。また同じチームの宇宙飛行士役は「ハウス・ジャック・ビルト」などのマット・ディロンが演じています。
その他「パーソナル・ショッパー」などのラース・アイディンガーも出演しています。
今作はスペインのサン・セバスティアン国際映画祭にて審査員特別賞を受賞、批評家の間でも好評を得ています。
また主演のエヴァ・グリーンの演技も評価され、セザール賞で主演女優賞にノミネート。
アリス・ウィノクール監督の作品は実は見たことはなくて、今作も何となく海外批評のラジオでちらりと見ただけでしたが、映画館で予告を観てみたくなったので鑑賞。
後悔初週末であまり天気のいい日ではなかったですが、結構人が入っていましたね。
~あらすじ~
フランス人宇宙飛行士であるサラは、宇宙での1年にも渡るミッションに向けて訓練に励んでいた。
しかし彼女には心配なことがある。
それは幼い娘ステラのことだった。
シングルマザーとして彼女を一人で育てていくことと、仕事柄訓練のために長期間不在にすることの板挟みがサラを悩ませる。
次のミッションではチーム唯一の女性として参加することになり、期待や責任もある中で、東井ロシアの施設で訓練が始まる。
寂しがるステラとできるだけ会い、連絡をとりながら、サラは厳しいトレーニングに臨む。
感想レビュー/考察
宇宙に行かない静かな宇宙飛行士の映画
アリス・ウィノクール監督が描く母と娘のドラマは、大抵の宇宙飛行士の物語とは異なる独特さを感じます。
そこにフェミニズムをしっかりと感じさせながらも、すごく静かな映画で、でもこのスタイルがすごく毅然としています。
ネタバレというか結果としての部分を言ってしまうと、地球を離れた宇宙でのシーンがない。
その出発までを着実に重ねて描いていくというスタイルになっており、もちろん宇宙でのスペクタクルや仕掛け的なドラマチックさもないのですが、地球でもやたらと騒ぎ立てることがありません。
自分にとってはこの宇宙飛行士という設定を過剰に素材とか演出理由にしようとしていないことが非常に好印象です。
前提としてこの真摯な姿勢をまず褒めたいです。
女性のキャリアと母と
そのうえでウィノクール監督は宇宙飛行士と母をうまくミックスして展開していきます。
サラには間違いなくフェミニズムが投影されている。女性は宇宙飛行士になれないと母に言われていた彼女が、実際に厳しい訓練により肉体的にも精神的にも努力し、それを覆す。
「宇宙に女性がいるのはいい。特にフランス人だ。フランス人女性は料理が上手いからね」マイク、お前・・・・(ぶっ飛ばすぞ)
イラつかせる発言にもめげずに訓練に参加していくサラは、能力を疑われますが、十分どころか素晴らしく優秀であることを示していく。
そこで男性陣”よりも優秀”であることを証明しなくてはいけない脅迫感も苦しいのですが、そこだけではなく娘のステラとの関係性がよりジレンマを生みます。
サラのプロフェッショナルが極まるほど、母と娘は離れてしまうが・・・
サラは夢を追い宇宙飛行士になる。そしてミッションにつく。
それはもちろん娘サラとの別れに向かって自分から進んでいくことになるわけですから、もしかすると親としては逆行することなのかもしれません。
ただ、サラにとって自分が宇宙へのミッションに参加すること、その姿を見せることにも重要な意味があるのです。
自分が言われたようなことは気にしなくていい。ステラもやりたいことをして、何でもできるのです。
娘に教えられるのは、女性だからと言って限界が来ることはないこと
自分の可能性を人に決めさせないということ、それは子どもに伝え、見せてあげたいものですから、サラは宇宙飛行士として高みを目指すことが大切。
でもそれは娘と距離を置くことになるので、非常につらいジレンマに陥ってしまうわけです。
そして宇宙飛行士という職業。訓練でも言われますが、決してミスが許されない。
序盤の訓練、ワイヤーでつられたりしての体力テスト、ロシアでのプール内でのシミュレーション。どれもさすがに本家関連施設やJAXAの協力を得ているだけあってリアル。
そこにもちろんエヴァ・グリーンの動きなど含めて彼女は本当に訓練を受けているようです。
ただ、そのミスの許されなさは完璧性ととらえられます。だからこそ、サラは宇宙飛行士としてだけでなく、母としても完璧を目指す。
完璧な母なんてない、宇宙への探索と同じで未知のモノだから
ただ、完璧な母はいない。
完璧なようにおもえる宇宙飛行士ですが、そもそもこの宇宙への冒険はどういうことなのか考えてみると、未知への領域へ踏み込むことです。
親としての子育てというのも、似ているのかと思います。
何がどうなるかなんてわからないし、明解な答えがない。それでも強い心と情熱をもって進んでいくのです。
これまでエヴァ・グリーンはどことなく人間を超えた存在を演じてきた気がします。(全然年取らないのは人間とは思えないですが)
そんな彼女が今作では非常に人間的。不確実性に弱さを見せながらも、娘への愛情によって強く。
飛行機に乗り遅れてステラが出発前の会見イベントにこれなかったシーン。
カメラの前での笑顔とか素晴らしい。夢がいざ実現しうれしい場面でも、やはり娘が恋しい。それでも懸命にその”姿”を作っていく。
これ以上ない地球と宇宙という物理的距離、でも心は一緒
特に検疫に入っていくことで接触が強調されるシーンは切ないです。
ガラス越しの悲しさとか胸が締め付けられる想いは、「ファースト・マン」にあった同様のガラス越しのシーンに似ていました。
作品は集束に向かいながらサラとステラを同化していきます。
サラの景色である宇宙からみた地球をステラも見て、そして見送る側であるステラが見るロケットも一緒に見る。
お互いの目線を再現し、母と娘両方の気持ちが共有されラストへ。
そこでは一緒に宇宙へ行くように、ステラが発射手順に沿っていくのです。宇宙へ行かずに、距離、親密さをここまで入れ込んでしまう手腕。
技術的支援からの作り込みや本当に宇宙へ行くために訓練しているようなエヴァ・グリーンの入り込む演技。
ユニークな宇宙飛行士ドラマですが、母と娘、未知への冒険たる宇宙探索と子育てを静かにまとめあげた秀逸な作品でした。
今回の感想はこのくらいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ではまた次の記事で。
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