「暁に祈れ」(2017)

  • 監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
  • 脚本:ジョナサン・ハーシュビーン、ニック・ソルトリーズ
  • 原作:ニック・ムーア 『A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand’s Prisons
  • 製作:ロイ・ボウルター、ソロン・パパドプーロス、リタ・ダゲール、ニック・サイモン
  • 製作総指揮:ジェームズ・シェイマス、ジェニファー・ドン、ピーター・ワトソン
  • 音楽:ニコラス・ベッカー
  • 撮影:ダヴィド・ウンガロ
  • 編集:マーク・ブクワ
  • 出演:ジョー・コール、ヴィタヤ・パンスリンガム 他

ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督による伝記映画。

イギリス人ボクサービリー・ムーアの自伝を映画化した作品で、タイの刑務所内でムエタイ選手として戦うお話となります。主演は「グリーン・ルーム」などのジョー・コール。

彼が壮絶な肉体改造と白熱のファイトシーンを演じ、今作は批評家から高い評価を受けていますね。また、刑務所長役で「オンリーゴッド」のヴィタヤ・パンスリンガムも出演しております。

結構前、夏くらいから観たいなあ時になっていた作品で、題材が一般向けではないですが、年内に公開してくれてうれしいですね。

お客さんの入りはそこそこって感じでしたが、年齢層高めであまり若い人は観に来てませんでした。

タイで自堕落な生活を送っていたボクサーのビリー・ムーアは、あるとき窃盗容疑で警察に逮捕され、タイ国内でも最も凶悪な囚人の集まる刑務所へと送られる。

その中ではレイプ、麻薬、暴行や殺人までもが野放しにされており、自殺者が出ることももはや気にも留められないこの世の地獄であった。

ビリーは薬物中毒の症状を抱えながらも、あるとき目に入った所内のムエタイチームへ入り、戦うことでこの世界を生きると決める。

地獄を生き抜け。といいますが、まずその地獄が半端ないのでそれは覚悟して観たほうが良いタイプの作品です。気楽に見れるもんじゃない・・・

ビリー・ムーアの自伝がまさに刑務所内から始まるこの作品は、ほとんど全編が刑務所内が舞台となるわけですが、その空気の作りこみがすさまじかったです。

実際の刑務所、囚人のエキストラ、本物にこだわる再現に加えて、カメラはずっとビリーについて回り、長回しが多くそして過剰なまでの接写が多用されます。あまりにビリーに近いカメラは、そのまま彼のパーソナルスペースを奪い去り、窮屈な感覚を強めているように感じました。

小さな音も、音のない静けさも、すべてが恐怖に変わる。看守は薬物を渡してくるし、初日からレイプがあり、翌日には首つりが出るという流れで、この先これが毎日のように続き、いつ自分が壁に欠けられているとも分からない怖さで、初っ端から観ているこちらの心を砕きに来ます。

追い打ちをかけるように、言語の部分でもタイ語にほぼ字幕を付けず、ビリーだけではなく観客も彼が感じる”何を言われているかわからない”怖さを味合わせてきます。

観客をビリーと一緒に刑務所に閉じ込めてしまう巧みさは、同じく刑務所内を舞台としたデイヴィッド・マッケンジー監督の「名もなき塀の中の王」を思い起こさせる迫力と緊迫感でした。

もともとジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督はドキュメンタリーのショートと長編監督の経歴がありますから、それが活かされた結果なのか、とにかく体感型の作品としての気合の入り方がすごかったです。

迫力のファイトシーンではもちろん、その長回しがいつカット=何かが起きるのか焦燥感を煽りますね。

ジョー・コールの見事な肉体とその運動神経、あと個人的には綺麗すぎないファイトだったのが本当にリアルに感じました。クリンチだったり、パンチの打ち合いだったり、計算されつくした綺麗な殺陣ではないというか、本物の試合のような打ち損じや疲労まで見えていて、ガチで試合しているんじゃないかと思うほどです。

トレーニングシーンでも、自分をとことん追い込んだ結果もうフラフラになりながらも、それでもボディやキックの練習を続ける様が、とにかく生々しかったです。

映画の多くは、体力が無限かのように綺麗なフォームで素早い動きを見せ、まあダンスのようになることもあるんですが、今作は消耗や乱れも含めて見せているように感じて新鮮でした。

文字通り戦うこと=生き残ることである獄中にて、ビリーが次第にその生きる力、闘志を取り戻していくドラマがなによりの見どころでしょう。

ビリーは薬物に溺れ、生きることから逃げてきた。

ただ獣のように触れる者を威嚇し攻撃し、真っ直ぐに自分の生と向き合うことを避け続けてきたように思います。

ムエタイのトレーニングは彼が見つけた生きること、そして努力することであり、場所に関わらず必要だった闘志だと思います。

ビリーは警察から逃げようとしたところから今作は始まりますが、途中で病院からそのまま逃げることもできたのに帰ってきますね。

自分の置かれた現実から逃げることをやめたと思えますし、また、刑務所と言う過酷な環境下だけではなく、外でも闘いは続くと悟ったとも思えました。

獄中だろうが外だろうが、生きることは同じく大変なんですよ。

個人的にはラストもすごく好きです。

ビリーが父の面会にいくシーンで今作は終わるのですが、父親として登場するのがビリー・ムーア本人なんですよね。

映画という媒体を通して、過去の自分と向き合う。自伝という記録に生を残すのとオーバーラップしていて、忘れたい過去じゃなくてしっかり自分の一部になったのかなと思えて暖かな気持ちになりました。

ソヴェール監督は観客の特権を奪いさって、ビリーと同じくタイの刑務所に観客を放り込む強烈な体感映画を作り上げました。叩きのめされますし、やはり過酷ですが、ジョー・コールの素晴らしい演技と共に、私たちにも闘志を与えてくれます。

ビリーが口にする「悪かった」”I’m sorry.”がとても心に残っています。

カップルや家族で行く感じではないですけど、映画館で観るべき作品です。すごくオススメ。

感想はこのくらいです。それではまた。

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