「ドラキュラ/デメテル号最期の航海」(2023)
作品概要
- 監督:アンドレ・ウーヴレダル
- 原作:ブラム・ストーカー
- 原案:ブラギ・シャット・Jr.
- 脚本:ブラギ・F・シャット、ステファン・ルツォビツキー、ザック・オルケウィッツ
- 撮影:トム・スターン
- 美術:エドワード・トーマス
- 衣装:カルロ・ポッジョーリ
- 編集:パトリック・ラースガード
- 音楽:ベアー・マクレアリー
- 出演:コーリー・ホーキンズ、アシュリン・フランシオーシ、デヴィッド・ダストマルチャン、ウッディ・ノーマン、ハビエル・ボテット 他
ブラム・ストーカーが生み出した「ドラキュラ」の中で、ドラキュラ伯爵がイギリスへ移動するために乗り込んだデメテル号と、その乗組員たちの直面した恐怖を描く作品。
監督は「スケアリーストーリーズ 怖い本」、「ジェーン・ドウの解剖」のアンドレ・ウーヴレダル。
主人公クレメンス医師を、「ストレイト・アウタ・コンプトン」や「キングコング 髑髏島の巨神」などに出演するコーリー・ホーキンズが演じます。
その他、「ナイチンゲール」のアシュリン・フランシオーシ、「アントマン」シリーズでお馴染みのデヴィッド・ダストマルチャン、またリーアム・カニンガムが出演しています。
また船長の孫役は「カモン カモン」で素晴らしい子役として有名になったウッディ・ノーマン。
今回モンスタードラキュラを演じているのは「MAMA」などでも異形の怪物を演じたハビエル・ボテット。
あまり周知されていない監督と俳優陣で、日本公開が結構スムーズに来たのは意外ですが、ドラキュラ映画もクラシックホラーファンにはありがたく、またイギリスまでの航海が舞台ということで鑑賞。
終末ではなくて平日に観たので入りはそこそこという感じでした。
~あらすじ~
ルーマニアのカルパチア地方を発ち、イギリスのロンドンへ向かう帆船「デメテル号」。
その船に黒人医師のクレメンスが乗船することになった。
船には謎めいた50個の木箱が運ばれているが、ドラゴンの紋章を観たものは不吉だと言って逃げ去っていく。
航海中、毎夜船上で不可解な出来事が起こる。
船員の飼い犬、そして食料用の家畜たちが惨殺されていったのだ。また夜の巡回員が何か不気味なものの影を見たりした。
船長の航海日誌には、この1カ月にわたる恐怖の記録が詳細に残っていた。
感想/レビュー
ドラキュラ映画は非常に多くあり、「ドラキュラ」 (1931)やフランシス・フォード・コッポラ監督の「吸血鬼ドラキュラ」 (1992)など、ブラム・ストーカーの原点をなぞるものもあれば、派生作品も数えきれないほどあります。
その位置づけという意味では、今作はまさに原典を参照した作品ではあります。
ただし、デメテル号のイギリスへの航海を主軸としているので私としては舞台設定は新鮮味があると思います。
舞台は新鮮、展開は王道
しかし舞台はドラキュラ映画としては新鮮でも、そこで展開される物語についてはある程度往年のパターンに沿っています。
いわゆる密室ホラー。
「エイリアン」でも「遊星からの物体X」でも同様な感じでしょうか。
何か得体のしれない化け物と一緒に、一つの場所に閉じ込められてしまい、みんなでサバイバルをしていくわけです。
キャラクターもある程度のフレーバーを与えられ、必要十分に差別化はできているのかと思います。
薄味ですが、まあすごく退屈な人物が多いわけではないです。
限られた空間を精一杯活かしていますし、誰が何をしようとしているのか分からないってこともないですね。
トム・スターンの撮影も奇怪さや光と影での恐怖演出なんかに効いています。
卑しく狡猾な闇の獣
船や人間たちも主役ですが、やはり欠かせないのは恐怖の魔人たるドラキュラです。
今作はブラム・ストーカーのドラキュラを原作にはしているのですが、どちらかといえば伯爵ではなくて「吸血鬼ノスフェラトゥ」の方が近しい造形になっていました。
ある程度人型ではあるのですが、ドラキュラ伯爵のような気品などはなくて獣的です。
しかし弱ったふりしてはいつくばって近づく狡猾さとか、「アナイアレイション」の熊みたいに人間の言葉を繰り返して返してくる気持ち悪さとか、卑しい。
物陰で震えているのもおそらくは生き血の枯渇なんでしょうけれど、あさましさとか汚らわしさが目立ちます。
今作では、手足の非常に長い身体的特徴でさまざまなホラー映画でモンスターを演じるハビエル・ボテットが、この恐ろしい吸血鬼を演じ素晴らしいクオリティに仕上げてくれています。
堅実さと退屈さのブレンド
今作はしっかりとホラー的構成を持ち、ジャンプスケア含めて構成は堅実です。
あまりはっきりとはドラキュラを映し出さずに、まずは木箱と紋章で煽り、動物たちの惨殺だったりと被害状況からみせていく。
そこから少しお披露目があり、終盤は決戦のバトル。
ただ、堅実すぎて目新しい展開やひねり、境界線を越えていくようなチャレンジが見えてこなかったのは残念なところでした。
設定上、すごく過小評価され不当な扱いを受けている黒人であるクレメンスがいます。
しかし、彼の人種差別による不遇さなどについては少し語りはあるのですが、昇華しきれていない感じ。
同じく、元来の伝説や小説などでは単純な獲物、または守られるだけの存在として描かれることが多い女性についても。
「ナイチンゲール」でも大変な目に合いながら果敢に立ち上がる女性を演じたアシュリン・フランシオーシ。
銃を扱う彼女はカッコよく、確かに吸血鬼に狙われ逃げるだけの乙女ではありません。
でもどうせならもっと冒険しても良かったような気もしますね。
安心安全のドラキュラ映画という形で、予定調和ながらホラーとして楽しむなら・・・といった感じでしょうか。
ひねりの効いたフレッシュさを期待しないのであればお勧めです。
「ジェーン・ドゥの解剖」もそうですが、超常現象×密室劇という点でアンドレ監督は今後もキャリアを積んでいくのでしょうか。
サクッとした感想ですが、ここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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