「ティル・デス」(2021)
作品概要
- 監督:S・K・デール
- 脚本:ジェイソン・カーヴィ
- 製作:ジェフリー・グリーンスタイン、デヴィッド・レスリー・ジョンソン、ジェイナ・カレイヴァノヴァ、ヤリフ・ラーナー、タナー・モブリー、レス・ウェルドン、ジョナサン・ヤンガー
- 製作総指揮:クリスタ・キャンベル、ボアズ・デヴィッドソン、ラティ・グロブマン、アヴィ・ラーナー、トレヴァー・ショート
- 音楽:ヴァルター・マイア
- 撮影:ジェイミー・カーニー
- 編集:アレックス・フェン、シルヴィ・ランドラ
- 出演:ミーガン・フォックス、カラン・マルヴェイ、オーエン・マッケン、アムル・アミーン、ジャック・ロス 他
これまで短編映画を手掛けてきたS・K・デール監督の初の長編デビュー作品。
冷え切った夫婦関係にある女性が、ふと目覚めると夫の死体と手錠で繋がれており、さらに現れる襲撃者に命を狙われるスリラー映画です。
主演は「トランスフォーマー」シリーズなどのミーガン・フォックス。夫役にはオーエン・マッケン。
また主人公を狙う侵入者にはカラン・マルヴェイ(「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」でストライクチームにいた人)、ティム・ロスの息子で「ブリムストーン」などに出ているジャック・ロスが出演。
監督のことは全然知らなかったのですが、今作の資質はあるのかと思います。
短編で撮っていた作品が、親権争いの中で苦しむ少年の話、また衣服店の店主が夜の店で何かとともに店に閉じ込められてしまう話など、今作におけるテーマにも近しいものがあるようです。
ミーガン・フォックスの主演でスリラーをやるということだけを知っていたのですが、劇場で実際に予告を見て結構面白そうだったので、公開ととともに鑑賞してきました。
お昼過ぎの土曜日であったこともあり、ある程度込み合っていました。
~あらすじ~
結婚10数年を迎えるエマとマーク。
しかし二人の間には愛はなくただマークからの支配があるだけだった。
エマは息苦しさに疲れ、マークに部下トムとの浮気に走っていた。
マークはエマとの結婚記念日に豪華なレストランでの夕食を予約し、エマのための特注のネックレスをプレゼントする。
そしてマークはエマを記念日の休暇を過ごすために湖畔の別荘へと連れて行く。
見かけは良くとも、結局は自分の思い通りにエマを縛るマークに彼女は鬱陶しさしか感じない。
しかし翌朝、マークはエマと自分を手錠で繋いだまま拳銃自殺してしまう。
助けを呼ぼうにも電話回線は切られ、スマホも壊されている
ここからマークが仕組んだ恐ろしい計画が始まる。
感想/レビュー
仮面夫婦の真相に、ワンシチュエーションをうまく重ねた秀逸な作品でした。
予告見た限りではなんとなくありがちなB級スリラーかと思いましたし、たしかにジャンル映画として楽しむような丁度いい軽さがあります。
ここではそれがうまく機能していて、ホラーほどの怖さではなく、スッキリと見追われるものでした。
必要十分な序盤のリード
序盤の説明は見せながら、感じさせながら感じるものであって良かったです。
浮気しつつも結局は高層階のガラス窓から外を見つめるエマには息苦しさが感じられます。
結局は狭いところに押し込められている。
語らない彼女に興味を引きつつ、マークとのディナーへ進み、彼女の抱えるものを観客も一緒に感じさせる作り。
いらないと言っても注文するし、やんわりとした姿勢でありながらも彼女の意見は全否定する。
そして理想を押し付けてくる。サプライズは独りよがり。本当に厭らしくウザい。
で、実際に話が動き出すのって夫の死体と繋がれた状態で襲撃者から逃げ回るところなので、序盤のリードが長めに感じるかもしれません。
ただ私は1つ伏線を張る点と、エマのワンシチュエーションはこの湖畔の別荘に限った話ではないことを伝えるために必須だと思います。
伏線とエマが置かれている状況の残酷さの説明
なぜあの男のファイルがマークのデスクにあったのか?なぜマークはネックレスを着けさせることにあんなに強引だったのか?
ネックレスの件については、そこまで多くない伏線のなかで一番光る機能になっていたと思います。
支配的な嫌さを持つ序盤の意味合いが、ラストに覆ってより残酷な意味を見せますからね。
また、仮にすべてをこの湖畔の別荘舞台にしてしまうと、エマの息苦しさが弱くなるとも思うのです。
1つの舞台で生き残り逃げ出すことを主題とする作品ですが、エマにとって逃げるべきは場所ではありません。
どこにいても感じられるあの圧迫感こそエマが解放されたいものであり、だからこそ序盤はあれくらい丁寧で、場所に関わらずマークの支配に悩む様を描いたほうがいいと思うのです。
で、実際に湖畔の別荘で展開してからは結構ストレートで見やすくまた制限のなかで工夫が見れました。
ワンシチュエーションで行ける場所が限られていますが、死体付きで動きも遅い。また血痕から足取りもたどれる。
ただそれを逆手にも取れたり、少なく制限されているからこそ場所やアイテムを印象づけやすくフル活用できます。
弾切れの拳銃、目隠しに使っていた布。
手に入れたキーやナイフ。スリラー映画でアイテムをしっかりと生かしていく(再利用させていく)作品は秀逸なものが多いと思います。
ミーガン・フォックスが適役として輝く
またこのシチュエーションで奮闘するエマを演じたミーガン・フォックスの力も大きかったです。
監督によれば人形をつかうとリアルさが出ないためスタントマンを使って撮影したそうで、彼女は実際に人間を引きずり回して撮影に望んだとか。
豪快に”Fuck!”を叫びながら頑張る姿には爽快さと応援したくなる気持ちがこみ上げます。
思い出すと、学生時代に「トランスフォーマー」で見てからはホットな枠な印象でした。その点は確かに今作に必要とされています。
マークにとってのトロフィーなのです。美しい所有物であり飾り。だから美しい彼女のルックスは必須です。
しかしミーガン・フォックスはカリン・クサマ監督の「ジェニファーズ・ボディ」においてはそのイメージを逆手にしたようにややフェミニズムの入った役を演じており、最近は「ローグ」などアクションも積極的だった利しますね。
強い存在感と自分の力をふるう姿を出しており、絶望せずめげずに状況に立ち向かうという今作のテーマともうまく適合する俳優であると思います。
最低最悪の束縛
配偶者による支配の視点では、2020年の傑作「透明人間」がありました。パワハラモラハラ夫により追い詰められる妻。
あの作品では見えない暴力がそのまま透明人間に投影されていましたが、今作は死してもなお付きまとう支配が描かれています。
最低最悪の束縛として完全なお荷物、重荷である死体を置く。
この鎖を断ち切り、この場から出ていくというのはまさにクソ男と縁を切る構図なのです。
エマは職場で”夫人”と呼ばれます。彼女はマークの奥さんでしかなく囲い込まれている。そんな状況をも含めて、「はやくこいつから離れたいのよ!」と死体蹴りを喰らわすエマに拍手。
最後の最後、ちょっとガラスの天井のメタファーにも思える氷の使い方も良かったです。
あそこでは襲撃者の側においても、兄による弟への支配的な構図が入っているのも見事で、だからこそそうして抑圧する者が繋がれて沈んでいくラストも痛快でした。
決して重々しくこうした男性からの支配を描いているわけではないですし、ストレートなドラマになっています。
ただ少なく絞った要素から丁寧にスリラーを見せ引き付ける力も、またテーマと舞台に関する時代性と整合性もかなり良く楽しめる作品になっています。
S・K・デール監督の初監督作品として私は素晴らしいデビューになったと思いました。今後も期待したいところですね。
小粒な作品ですが、ミーガン・フォックスの熱演や今まさに女性にとっての恐怖が男性であるというホラーとフェミニズムが融合した作品としても見どころのある一本でした。
ということで感想は以上。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
ではまた。
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