「フェアウェル」(2019)
- 監督:ルル・ワン
- 脚本:ルル・ワン
- 原作:ルル・ワン「What You Don’t Know」
- 製作:ルル・ワン、アニタ・ゴウ、ダニエル・テイト・メリア、アンドリュー・ミアノ、ピーター・サラフ、マーク・タートルーブ、クリス・ワイツ、ジェーン・チェン
- 製作総指揮:エディ・ルービン
- 音楽:アレックス・ウェストン
- 撮影:アンナ・フランケーザ・ソラノ
- 編集:マイケル・テイラー、マシュー・フリードマン
- 出演:オークワフィナ、ツィ・マー、ダイアナ・リン、チャオ・シューチェン、チアン・ヨンポー 他
病気で余命わずかな祖母の元に集まる家族と、彼らが祖母に病気を知らせず嘘をつきながら葛藤する様を描くドラマ映画。
監督はルル・ワン。今作は彼女の実際の体験を元に製作されたとのこと。
主演は「ハスラーズ」などのオークワフィナ。
この作品はゴールデングローブ賞では外国語作品賞ノミネート、オークワフィナが主演女優賞を獲得しました。
日本でも4月に公開される予定でしたが、コロナウイルス感染症の拡大を受けて公開が延期され、10月の公開となりました。
ブロックバスターではないので小さな箱でしたが、多くのお客さんが劇場に来ていました。また年齢層も結構幅広かったですね。
NYC。ビリーは作家を目指し奮闘中で、芸術助成金フェローシップに申し込むも、不選出通知が来て落ち込んでいた。
子どもの頃に中国から両親とアメリカへ越してきたビリーは、今でもおばあちゃんナイナイと仲が良く電話で連絡を取っている。
しかしある日、両親の元へナイナイが末期がんで余命が残り少ないと連絡が入る。
そして病気のことはナイナイには話さず、気づかれないようにビリーのいとこの結婚を口実に、家族全員がナイナイの元へ集まるというのだ。
病気を本人に伝えないことに反対するビリーは両親に中国へ帰ることを止められるが、自分一人で帰省した。
死期の迫った家族への嘘、そして別れに向けての家族ドラマ。
そのプロットや予告を見た印象に反し、実は今作はかなり笑える、ユーモアに包まれたコメディよりの作品でした。
その粋な笑いの感覚は、キャッチコピーであり始まった時のテロップ「実際にあった嘘に基づく・・・」にも感じ取れます。
もちろん扱われるのは大切な祖母の死ではありますが、ある事実を本人に悟られないようにしつつ我慢できない家族というのは、そのシュールが際立ち笑えてきます。
ビリーが初めにナイナイの元を訪れての、両親含めみんなの反応。完全に来ちゃいけない奴が飲み会か同窓会に来ちゃったときのそれ。
そしてバラすなって言ってるのに、ビリーのきつすぎるハグと呆然とした表情。
その後も結婚式での息子のスピーチとか、従兄が泣きじゃくっちゃったり、ズレを笑いにして軽くしてくれています。
そして中心たるおばあちゃんナイナイの存在感。
実はすべて知っているんじゃないかという雰囲気で、事実に対して右往左往する家族の中で、どっしりと構えている。
ナイナイは自分のこと含めて、この世の総てを知っているかのような余裕があり、だからこそなんとなく、そういう柱がなくなってしまうことに対する寂しさもわかります。
映画はビリーの帰国から始まるので、家族の歴史もわからないし、ナイナイと観客が過ごした時間なんてない。
それでも、彼女を見ていると、これからお別れするというのが本当に寂しいし悲しいんです。
相対的ではありますが、家族みんなが悲しみそれぞれ押し殺している様を見ると、どれだけナイナイが愛されているのかもわかるようになっています。
ナイナイの死については、それを扱うことが今作の主題の一つです。
幾度となく繰り返される、本人に伝えるか否かの論争。西洋と東洋の思想。それは嫌味ったらしくありがちな家族帰省時の食卓話でも聞こえます。
学問的にはせず、人々が生きる文化として論をぶつけ合いながらも、決して否定をしない。
そして様々な思いを抱え、いろいろな場所で家族を持ち生活を築いたみんなが、円になって食事する。
くるくると回り、みんなの笑顔を写していくシーンの何とも素晴らしいこと。
その裏にはそれぞれ別れへの悲しみを抱えていながらも、今家族と幸せな時間を過ごすことを楽しんでいる。
またルル・ワン監督は単純に西洋と東洋をその出身者でぶつけるのではなく、移民、別の地で人生を歩む人、異なる文化や所属を同時に持ち合わせ、そこを行き来する人の想いものせています。
ビリーの独白は私が今作に一番期待していた点でした。
2世や移住した家庭の子ども。彼らの声を知りたいと感じていたので、ビリーにとって中国の自分の歴史がすっかりなくなってしまったことの喪失感や、人との関係性がとびとびになっていること。
ビリー自身が子供のころにアメリカに行っているからか、日本人のお嫁さんアイコさんに対して優しいわけですね。違う文化に飛び込んだ人のことが分かるのだと思います。
非常に優しいユーモアに乗せながら、人が生まれ、育ち、独り立ちしたり結婚したり、そして老いて死んでいく。
この営みは文化に関わらずすべての人間に関することであること、そして背景がいかに違っても私たちは互いを抱きしめ、笑いながら円になることができること。
ルル・ワン監督は一つのお別れの準備を通して教えてくれます。
いつかは別れが来るもので、正しい扱い方なんてないのでしょう。涙の量も、不在も関係ない。正解はない。
この映画の生に対する包容力と同じ優しさで、大切な家族を抱きしめたいと思う素敵な作品でした。
今回の感想はこのくらいになります。小さな規模ではあるかもしれませんが、是非劇場で鑑賞をおすすめします。
アジア圏ということで、やや共有できる部分が多めにも感じますし。
ということで最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また次の記事で。
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