「空の沈黙」(2016)
- 監督:マルコ・ドゥトラ
- 原作:セルジオ・ビージオ
- 脚本:セルジオ・ビージオ、カエターノ・ゴッタルド、ルシア・プエンソ
- 製作:ロドリゴ・ティシェーラ
- 製作総指揮:サンティアゴ・ロペス、ラファエル・メスキータ、ディエゴ・ルビーノ
- 音楽:ギリェルミ・ガルバト、グスタボ・ガルバト
- 撮影:ペドロ・ルケ
- 編集:エドゥアルド・アキノ
- 美術:マリアナ・ウリザ
- 出演:レオナルド・スバラーリャ、カロリーナ・ジッケマン、チノ・ダリン 他
こちらはブラジル人監督のマルコ・ドゥトラによる作品で、第29回東京国際映画祭のコンペティション正式出品作品でもあります。
監督自身はその他音楽や脚本などサンパウロを拠点に様々な分野で映画製作をしているようです。
Q&A付きの上映で、かなり人も多く入っていましたね。質疑の方もかなり興味深い物でした。
日中の静かな家の中。家に残る妻は2人の侵入者に暴行されていた。夫はその現場を外から発見するのだが、何もできずに妻が陵辱されるのを見ていることしかできなかった。
その日子供を迎えに行く夫、夕飯を支度して待つ妻。何事もなかったかのように振る舞う2人は、事件に関して互いに何も言わずに過ごす。
夫は妻のために復讐すべきか迷い、自責と自分自身と妻との関係に苦悩する。
非常にショッキングなオープニングから始まる本作。静かな空のあと、そのまま惨いレイプシーンへと流れていきます。不気味に静かな犯行は暴力性を際立たせるもので、衝撃的な幕開けでした。
で、全編独白やらが多めで、非常に静かな映画なのですが、色遣いと撮影がとにかく素晴らしいものですね。
淡い青の空に始まり、夫婦の服や室内などの青。植物園に広がる緑と差し込む日の光や日陰。
色合いで視覚的にも美しい、そして斬新な感覚を覚えるものでした。というのも、色に対してのイメージをそれと異なる感覚を持って観客に伝えていると思ったのです。
夫婦のカラーは冷め切ったと言えばそういえる青。情熱の赤なんて微塵も感じないものです。温かみはない。最後の最後でやっとでる赤は、暴力と危険ですしね。
そして、今作の犯人側は本来は自然を代表する緑。まさか緑を不吉な色として意識し、不快感を覚えることがあろうとは・・・植物園は迷路のようにストレスフルで、サボテンの地を這う気味の悪さも印象的でした。
遠いブラジルが舞台なものの、誇張はなくすごく身近に感じます。それでいて、その独特な色遣いや光はふとファンタジーのような空気さえ持っている。画の力も素晴らしい。
夫の妻の独白は、それぞれの母国語で話されます。心の会話に関して、二人は違う言語を話している。このつながりの無さは残酷です。
夫は常にペルソナを持ちそれを盾に生きているものの、妻にだけはそれを見透かされる。多くのものを恐れるマリオですが、一番恐れているのはそのペルソナの下、自分の本当の姿をさらされることでしょう。
今作でマリオが目指すのはペルソナとの同化。自分が示してきたイメージに自らを一致させようとする。妻の暴行現場で動けなかったなんて情けない男は捨てようとする。
マリオはダイアナのために男たちに復讐しているわけではないと思うんです。あくまで自分の夫婦間での力、勢力均衡のためかと。「やはり弱い男なのね。」と見透かしているダイアナが怖くて仕方ない。
オープニングと対になる沈黙。妻は夫の犯罪をただ見て黙っている。
そして互いに真実を知りつつも、それを黙認し夫婦の生活を続けていく。互いに真実を知っていることを伝えずにいる、異様な均衡状態。とてつもなく残酷な状況。
レイプでも殺人でもなく、マリオとダイアナ両方が何も話さないということこそが一番惨い暴力となっているんです。
青ざめた画面、二人に差す赤い光。クレジットまで静かな空。この静けさをもったまま映画も終わっていくのですね。
マルコ監督は暴力がきっかけで、関係を再構築する夫婦を描いたと思います。
ファンタジックな色合いの中で、人間が黙ることで与える影響とその恐ろしさ、それからなる居心地の悪さまでを伝える。始まりも終わりも何もない空。静まり返っていても、その裏で渦巻くものの大きさを思い知るものでした。
という事で感想は終わります。個人的には話もそしてなにより画面の色合いにすごく魅せられた作品でした、それでは~
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