「さらば愛しきアウトロー」(2018)
- 監督:デヴィッド・ロウリー
- 脚本:デヴィッド・ロウリー
- 原作:デヴィッド・グラン
- 製作:ビル・ホルダーマン、アンソニー・マストロマウロ、ドーン・オストロフ、ロバート・レッドフォード、ジェレミー・ステックラー、ジェームズ・D・スターン
- 音楽:ダニエル・ハート
- 撮影:ジョー・アンダーソン
- 編集:リサ・ゼノ・チューギン
- 出演:ロバート・レッドフォード、シシー・スペイセク、ケイシー・アフレック、トム・ウェイツ、ダニー・グローヴァー、エリザベス・モス 他
アメリカに実在した70歳の銀行強盗フォレスト・タッカーを描く作品で、主演を務めるロバート・レッドフォードの俳優引退作となる映画です。監督は「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」(2017)のデヴィッド・ロウリー。
あの「キャリー」のシシー・スペイセクのほか、ロウリー監督とは再びのタッグになるケイシー・アフレックも出演。またダニー・グローヴァーやトム・ウェイツも出てきております。
2018年の映画祭公開から批評面で高い評価を得ており、私としてはロウリー監督新作ということ、そしてなによりロバート・レッドフォードがこれで俳優引退とのことで本当に楽しみに待っていた作品でした。
公開初日に日比谷で観ました。夜の回でしたけど結構混みあっていまして、暖かな笑いが起こる劇場体験でした。
ある銀行に、身なりのいい老人が来店する。彼は支店長と話したいと受付に伝え、支店長がやってくると口座を開設したいと言う。
どんな口座をと聞かれ、老人はジャケットの内側に手を伸ばしながら、「こんな口座を。」と言うのだった。
老人は熟練の銀行強盗であり、高齢でありながらアメリカ各州のいたるところで銀行強盗を繰り返していた。ただし、一度も銃を撃ったことはなく暴行などもしない、平和な銀行強盗ばかり。
あるとき、彼は犯行の逃走中に、車が壊れて途方にくれている女性と出会うのだった。
ロバート・レッドフォードがスクリーンに登場して、それだけで観客に与えてくれるのは、とっても不思議な魅力です。
綺麗なブルーのスーツに変わらないブロンドで、優しくどこかセクシーな笑顔を向けられれば、誰だって銀行強盗されたくなるものです。
ざらついたスーパー16ミリによるジョー・アンダーソンの撮影で醸し出される70~80年代の空気には独特の穏やかさと落着きがあり、ダニエル・ハートのオシャレなメロディがすっかりこの作品を包み込んでいます。
2010年代に作られたとは思えない。まるで監督はロバート・レッドフォードのためにこの空気を作り出したように思えました。
彼が一番輝ける最高の環境。どうしたって、過去の色々な作品、カッコよかったレッドフォードの姿や夢中になったあの映画などが色々と思い起こされてくるんです。
実際過去の出演作のフッテージも出てきますが、この作品はロバート・レッドフォードへの愛に満ちています。
数々のドラマやクライム、冒険を経てきたアウトロー、ロバート・レッドフォード。スクリーンで輝き、見る人をワクワクさせてきてくれた彼がこの年にしてまたアウトローを演じるのに、フォレスト・タッカーはまさにピッタリな存在です。
何より、タッカーは暴力的な人間ではなかったこと。ただ銀行強盗や盗み、警察とのチェイスが好きで、脱獄だってゲーム感覚。
自分がどこまで行けるのか、どの難易度までクリアできるのか。人生に決めた目標をこなしていくのが楽しくて仕方がないのです。
この感覚こそレッドフォードに欠かせないと思います。
人好きでどこかチャーミングさがあって、愛されるアウトロー。シシー・スペイセクとのダイナーでの会話のウィットに富んだ感じとか、どうしても好きになる人柄。
どこかへ行くとか何かを成し遂げるとかではなくて、やりたいことを楽しんでいるんです。
まるで趣味のような銀行強盗シーンですが、やはり楽しい。
今回はその流れとかじっくり見せることは一度だけですが、そこではタッカーがケイシー・アフレック演じる刑事ジョン・ハントと運命が交差するんです。
黄昏ギャングたちのスタイルをしっかり説明しながら、ちょっとした因縁を持ってキックオフ。巧いですね。
そしてジョンはタッカーたちの反抗や経歴を追いかけていくにつれて、人生を見つめていきます。あまり目的のなかったジョンが、タッカー逮捕はFBIに盾突いてでも譲ろうとしなかったり、娘に会ってからの奥さんとの流れとか、人生に影響を受けてます。
ホント、生き方を眺めていく、この映画を通してタッカーと一緒に冒険していくのがとても楽しいです。
ジュエルと食事するダイナー。カメラがパンすると、若者たちが楽しく過ごしています。活力あり、夢を見ている人間たちです。誰しもかつてそうだったと思います。
ジョンはタッカーの素性を知り、それまで仕事ばかりなシーンが続いたなか初めて、愛する妻を誘って外出。タッカーの生き方をみて、人生を楽しもうと思ったのです。
好きな女性にジュエルを買い、映画を観て素敵な食事をする。割と単純なことです。でもシンプルなことが難しい。
人生を過ごすことで精いっぱいで、いつしか楽しむことを忘れてしまった。スリルもロマンスも。
「じっくり待つんだ。でもここぞと思ったら行動を起こすのさ。」
タッカーはOPすぐ、ジュエルに自分の銀行強盗スタイルを話しますね。ほんと、ここぞと思った時に行動する、それだけなのですが、それが難しいのが人生。
エリザべス・モス演じる娘が「母は死ぬまであの人を好きだったみたい。」というのも頷けます。タッカー=レッドフォードはそれだけチャーミングなんですよ。
いつだって好きなことを追いかけて、人生を楽しんで。だからこそ彼の表情は幸せそうで惹かれます。人生を楽しく生きている彼の表情を見ているだけで、こっちも自分の生を楽しもうと思えてくるのです。
映画史での存在として、彼を表すのにぴったりなフォレスト・タッカーの人生を語りながら、笑顔と銃と愛で楽しませてくれた俳優ロバート・レッドフォードを見送る傑作。
流れていく彼は、自身の「明日に向かって撃て!」のサンダンス・キッドの頃から変わらないですね。
デヴィッド・ロウリー監督、「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」(2017)に続いて今年の個人ベストに入りそうです。素晴らしい。
俳優を知っているかとか関係なく楽しめる作品です。ド派手でもない映画ですが、非常に趣深く優しく楽しいのでおススメ。是非劇場で観てください。
今回は感想は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。また次の記事で。
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